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永遠の保障

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 というと、
「ええ、でも私、彼に少しきついことを言ったかも知れないわ」
「何て言ったの?」
「私のことを嫌いになったの? それならハッキリと言ってって言ったのよ」
 と言って、うな垂れた。
「う〜ん、その言葉で彼が少し我に返ったのかも知れないわね。もし本当に嫌いになったのなら、ズバリ指摘されたことでドキッとするだろうし、嫌いになんかなっていないのなら、どうしてそんな発想になるのかと思ったんでしょうね。しかもその後にハッキリと言ってほしいと言われても、すぐに答えられるわけもないことをいきなり問い詰められると、自分のことを本気で考えてくれていないんじゃないかって勘違いするかも知れないわ」
 と指摘した。
 この指摘は今でも悪い指摘ではないと思ったが、相手を考えての指摘ではなかったことを彩香は後悔した。
――ネガティブにしか考えられない相手にいうことではないわね――
 と感じたからだ。
 でも、彼女は思ったよりも落ち込んでいるわけではなかった。
――心配はしているけど、別れることまではないと思っているのかも知れないわね。もしそうなら私も幾分か救われた気がするわ――
 と思った。
 それから少しして、彼女の付き合っている人から連絡があった。二人が付き合い始めてから、何度か会っていた。彼女からは、
「親友なの」
 と紹介されて悪い気がしなかったので、いつの間にか彩香は二人の間のことの相談役のようになっていた。
 連絡をもらったのは初めてではなかったが、少し緊張した。
「どうしたの?」
 と彩香が聞くと、
「彼女と喧嘩したんだけど、仲直りするタイミングが分からなくてね」
 と直球で聞いてきた。
 彼のそんなところを彼女も好きになったのだろう。そういう意味では二人はお似合いのカップルに思えただけに、別れるということは考えたくはなかった。そんな時の相談だっただけに、彩香も少し安心した。
「大丈夫よ。彼女も仲直りしたいと思っているようよ。二人のタイミングが今は合っていないだけなのよ」
 と彩香は言葉を選んで話した。
 もしここで、
「あなたが冷めたように感じた」
 などというと、きっと彼は、
――やっぱり二人は合わないのかな?
 と感じることだろう。
 あくまでも二人は一時的にすれ違っているだけだということを強調し、いずれまだ出会ってからは、さらに愛が深まるということを悟らせなければいけなかった。そういう意味でのタイミングという言葉は悪い言葉のチョイスではなかったはずだ。
 少し彼と話をしたが、話の根幹は最初のタイミングという言葉が凝縮してくれていたようだ。
「分かりました。僕の方から今度連絡を取って、話をします。きっと仲直りしてみせます」
 と言っていた。
 最初に彩香が可能性という確率を考えたが、彼が冷めたという選択肢はこの時に消えていたのだ。
 だが、彩香が彼女から、
「彼に会わなければいけないの」
 という言葉を聞いた時、彩香の中でまるで自分が彼女になったかのように考えているのを感じた。
――私がこんなに感情移入するなんて――
 と自分でもビックリだった。
 それよりも、彩香は彼女の考えの中で可能性の中に感じた確率を考えていた。
――最近、確率というのをよく気にするようになったわ――
 と考えた。
――そうだ。せっかくだから、今日、スタジアムに行ってみよう――
 と思ったのも、確率ということを思ったからだ。
 実は彩香はいつも無意識に確率を考えていた。無意識なので、表に出てこない。それが今回表に出てきたことでスタジアムという発想が出てきた。これも何かの確率に違いないと思った。
 彩香はどちらかというと出不精だった。誰かに誘い出してもらわなければなかなか自分から行動することもない。幸い、いつもどこかに誘ってくれる人はいたので、ずっと引き籠ることはなかった。
 ただ、合コンの人数合わせが多かったのはあまり嬉しくはなかった。合コンに出かけてもなかなかいい人に出会えるわけでもない。会話も弾まない時間を黙々と過ごすのが好きな人がいるわけもない。
 そんな中でこの間野球に誘ってもらったのは嬉しかった。ただ、外野席の雰囲気は好きにはなれなかたtが、もう一度違う席でゆっくりと野球を見てみたいという気分にさせられたのはよかったと思っている。近い将来野球を見に行こうと思ったのが今日になっただけで、今日が特別というわけではなかった。
 野球場までは、バスで行った。満員なのは覚悟していたが、想像していたよりも結構時間が掛かった。最初に来た時は地下鉄に徒歩だった。地下鉄の駅を降りてから十分以上歩いたが、球場へ向かう人の波の中を歩くのは、あまり好きではないのでバスにしたのだが、バスの混雑も似たようなもので、
――結局一人であれば、バスでも地下鉄でもあまりいい気分になれないのはしょうがないことなんわだ――
 と感じていた。
 バスは球場の目の前まで運んでくれる。したがって球場前のバス停に到着すると、乗客はドッと降りることになる。バスの中には球場までのピストンもあるが、球場を途中とする路線バスもたくさんある。球場利用以外の客からすれば、球場へ向かう客の多さには、うんざりしているに違いない。
――私がこの路線に住んでいれば、きっと苛立ってしまうことでしょうね――
 と感じていた。
 野球観戦の客は、一目見ただけですぐに野球観戦だと分かる格好の人がほとんどだ。応援チームの帽子をかぶっているのは当たり前のこと。レプリカユニフォームを着ていたり、応援のためのミニメガフォンや、応援旗を持っている。話題も選手の話やチームの動向など、
――ファン総解説者――
 と言えるのではないかと思うほど、詳しい話に花が咲いているようだった。
 チケットは当日券を購入するつもりで出かけたので、入場券売り場では少し並んだ。
――どこでも並ばなければいけないんだわ――
 と、すでにうんざりとした気持ちになり、帰りたいとまで思うようになっていた。
 帰ろうとまでは思わないまでも、
――もう二度と来ようとは思わないわ――
 と感じていた。
 しかし、入場してしまうと、あとはそこまでひどくはなかった。ここまで来るのに、相当うんざりしていたことと、ほとんどの人が外野席に流れることで、内野席への客は限られている。
 入場料もリーズナブルな外野席と違って、
――毎日のように応援に来たいと思っている人にはちょっと厳しいかも?
 と思うと、それだけゆっくり見ることができるという証拠だと感じた。
 場内に入ると、やはり席は十分に空いていた。外野席のように人で溢れているわけでもないし、応援団がいるわけでもない。客を見ても、まばらな席にはゆったりと座り、お弁当やファーストフーズなどおのおの買い込んで、試合が始まるのをゆっくりと待っていた。
――この雰囲気だったら、ゆっくり見ることができるわ――
 指定席というわけではないので、空いている席の中で好きなところを選ぶことができる。通路を歩きながら、グラウンドを見て、好きな席を選ぶことにした。
――さすがに外野席よりもかなり近くに感じられるわ――
作品名:永遠の保障 作家名:森本晃次