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絵の中の妖怪少年

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 モノクロのデッサンは、それだけでは立体感をイメージさせることが難しい。たくさんの線を用いて、影や光の部分の境界線を作っている。実に繊細な部分が必要であり、実際には、全体を遠くから見ることで、立体感を感じさせるものとなるのだが、本当は近くから見ると、細かい線が正確に平行線を描いていることに気付かされる。乱雑に描かれているように見えるのは、どうしても遠くから見て、立体感を感じようとするからであって、モノクロのデッサンの命は、
――近くから見た無数の平行線――
 なのである。
 そのことを香澄はクラシック喫茶に赴くようになって知った。それが、妄想するわけではなく、瞑想に耽ることなのだ。
 妄想とは、何かを題材にして、想像力を深めるものだが、瞑想とは、題材にするものはすべて自分の中にある。自分に言い聞かせながら想像力を確かめていくわけなので、自分で一つ一つ納得しないと先に進めないものである。瞑想や妄想をあまりよく言わない人が多いが、実際には、かなりの集中力が必要で、さらには、一旦入ってしまったスイッチを制御するには、堂々巡りが必要であることは、前述の通りである。
 香澄は、クラシック喫茶のことを今さらのように思い出していた。
 そこで瞑想した時に一体何を思っていたのか、もう少しで思い出せそうだった。その答えのカギを握っているのが、目の前のカウンター越しで話をしている彼女であるということに気が付くと、
――思い出すとすれば、一気呵成にいろいろ思い出すのかも知れない――
 と、記憶の復活の一撃を感じていたのだった……。

                 第三章 妄想と瞑想

 クラシックの音色が頭を巡っている。目を瞑って聴いているクラシック喫茶のソファーは思いのほか深かった。
――いつも暑いくらいの店内で、暗闇は反則だわ――
 と感じながら、目を瞑ることで入りこむ瞑想には、この暑さが最適なのだろうか。得てして眠りに入り込みそうなところを、目を瞑ることで、逆に睡魔から遠ざかっているような気がした。
 暗闇なのに、瞼の裏に写っているのは、赤い色であった。
 赤い色に黒い影が残像として残っている。それは、最後に見た明るい場所での映像ではない。どちらかというと残像ではなく、実際に見えている光景を、普通に見ているかのようだった。
 そこに浮かんでいる真っ赤な光景に浮かんでいる影は、何かの模様を示していた。
――ペルシャ絨毯のような感じかしら?
 とはいえ、それほど綺麗な幾何学模様ではない。一見綺麗に整っているように見えるが、実際にはバラバラに点在している模様だった。
――そういえば、ペルシャ絨毯も、綺麗な幾何学模様だと思っているだけで、本当に左右対称だったりするのかも怪しいものだわ――
 と感じていた。
 そう思いながら瞑想をしていると、まず最初に辿り着いたのは、木の年輪のようなものが見えたことだ。
 その横に、一人の女性が佇んでいる。
「私はあなたがここに来るのを待っていたんですよ」
 と言って、こちらを見ている。顔には怪しい笑顔が浮かんでいたが、その顔は、
――どこかで見たような気がする――
 と感じたが思い出せない。
 ものすごく重要なことであるはずなのに、そのことをそれ以降考えようとはしなかった。それ以上に何か重要なことに気が付いたのだろうか?
「どうして、私を待っていたの?」
「だって、あなたがここに来るのを私は知っていたからね」
 今度は笑っていない。ゾッとするような不気味な表情だ。その顔には生気が感じられない。まさか死んでいるのではないだろうか?
――だとすれば、ここは死後の世界?
 その時、香澄は自分が瞑想していることに気が付いた。
――瞑想しているということは、妄想と同じなので、何でもありなんだわ――
 と感じた。
 しかし、何でもありだと思っていることよりも、自分の思考能力がマヒしていることの方が気になっていた。
 何でもありだと思っていると、それが夢の中での瞑想だと分かっているはずなので、それほど不安があるとは考えにくいが、その時の香澄は、何とも言えない恐怖に駆られていた。
 瞑想は妄想と違って、
――自分の中で繰り広げられる限定的な世界――
 香澄は瞑想について、そう思っていた。
 それだけに怖さはあまりなく、広がっていく思いに対しても、自分の感覚によるものなので、
――何でもありで当然なんだわ――
 とさえ思っていた。
 だが、妄想の場合は違う。妄想の中で他に誰かが出てくるのであれば、その人が誰であるかということも大切であるし、その人が自分とどのような関係であるかということは、もっと重要になってくる。
 そういう意味では、夢の中の世界は瞑想ではなく、妄想だと言えるであろう。妄想と瞑想の一番の違いは、
――瞑想は自分の発想の範囲内での出来事で、妄想は自分の発想からはみ出した部分が多大に存在する――
 ということである。
 夢は、自分の中にある潜在意識が見せるものだというが、実際に自分の発想の域を超えていることが多い。どちらかというと瞑想よりも現実に近いと言った方がいいのかも知れない。
 もちろん、それは見る角度によって違ってくるものだが、そのことを香澄は分かるようになってきた。
 香澄が今までに見た夢で一番怖かったのは、
――もう一人の自分――
 が出てくる夢だった。
 それを思い出した香澄はクラシック喫茶の中で音楽を聴きながら瞑想していて、木の年輪の横にいて自分に声を掛けてきたのが誰だったのか思い出すことができた。
――覚えていたくないほどの恐ろしさを感じたことで、無理にでも忘れようとしていたんだわ――
 と感じた。
 そう、その時自分を待っていたのは、
――もう一人の自分――
 だったのだ。
 もう一人の自分はあたかも他人のように話しかけてくる。香澄もその相手を見たことがあると思いながらも思い出せなかったのは、
――恐怖を感じたくない――
 という無意識な思いと、
――そんなバカなことはない――
 という、もう一人の自分という存在を否定したいという気持ちの表れだったからだ。
 香澄は、その時に感じた思いを今でも覚えているのだろうが、記憶の奥に封印していた。封印というのは、
――決して思い出してはいけないこと――
 という風に思われがちだが、そこまで雁字搦めなものではないはずだ。
 もし、思い出さなければならないことがあった時、何かの弾みでもいいので、封印が解けるようにしておかないといけないからだ。
――本当にそれだけだろうか?
 香澄は、クラシック喫茶で感じたことを、再度思い返していた。
 しかし、一つ不思議だったのは、クラシック喫茶には何度となく足を踏み入れている。そして、かなりの確率で、瞑想を繰り返していた。そのすべてが瞑想だとは言わないまでも、妄想の時もあっただろうし、少なくとも、クラシック喫茶には、目的意識をハッキリと持って行っていたのは事実だった。
 クラシック喫茶の中で、
――瞑想しているのは、本当に自分なのだろうか?
 と感じるようになっていた。
 それは、瞑想の中で、もう一人の自分の存在を感じたからである。
――私がいるんだ――
作品名:絵の中の妖怪少年 作家名:森本晃次