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絵の中の妖怪少年

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――長いようで短いのかも知れないわ――
 と感じていたが。途中から、
――短いようで、長いんだわ――
 と考えが変わってきた。
 もし、香澄がこの日帰り出張を、ただの嫌がらせの類を、早く終わられたいだけだと思っていたとすれば、前半と後半で考え方が逆だったに違いない。最終的に、
――長いようで短かった――
 と、営業所を出る時に感じるはずだからだ。
 しかも、営業所にいる間に、時間に対しての感覚が途中で変わるはずもない。つまりは、営業所での二時間の間に、心境が変わってきたということだ。
――本当は嫌だったはずなのに、途中から、嫌ではなくなってしまった――
 それは、営業所の人たちが自分をどのように考えたかということから始まっているのかも知れない。
 それは、営業所の人たちの人間性から来るものなのか、それとも、香澄自身が彼らに馴染んできた証拠なのか、少なくとも途中から馴染んできたような気がした。
――初めて来たはずなのに、すぐに馴染めたというのは、前にもここでこの人たちと会っていたのかも知れない――
 と、そんな気分にさせるほどだった。
 そんなことがあるはずはなかった。
 もし、小さかった頃に、この場所を訪れたことがあったとしても、それは記憶の中にあることというだけで、実際に、ここの人たちと馴染んでいるわけではない。時間にしても一年や二年というわけではない。十数年という月日が経っているはずだからだ。
 二時間という中途半端な時間を、一時間ずつの前半後半に分けて、時間の間隔を感じるなど、今までにはなかった。
 確かに、時間を前半後半に分けて感じるというのは、今までに何度もあったことだが、それは半日以上だったり、逆に、一時間の間のような短さだったりした時だった。二時間が中途半端だというのは、
――時間的に、長いとは感じないのに、その間に、一日の間で分割する時間にまたがってしまう――
 と感じるからだった。
 この日のように、最初は昼下がりで、最後は夕方が見えてくる時間、明らかに一日の中で意識的に分割してしまう時間であった。
 香澄は、
――時間は分割するものだ――
 という意識を持っている
 そして、その分割は、同じ時間で刻まれている。起きている間を三分割にして、午前、午後の六時まで、そして、六時以降の寝るまでの時間、自分の中での勝手な分割だが、この分割があるからこそ、毎日を無駄に過ごしているような気にならないのだ。
 毎日、同じ感覚の分割なのだが、そこに精神的なことが絡んでくると、同じ時間でも感じ方が違ってくる。
――長いようで短かった――
 あるいは、
――短いようで長かった――
 とそれぞれの思いを感じることが多くなるのだ。
 しかし、今回のように、分割された時間の中で、さらに深い精神的な変化が訪れると、細分割してしまうことになる。すると、最初に感じた感覚、そして、後半の感覚。それだけではなく、感じた時間を通り越して、しばらくして思い出した時に感じる感覚と、ここでも三段階の思いがあるのだった。
 この二時間を、営業所を出てしばらくして思い出すと、今度は、
――長いようで短かった――
 と、感じるようになった。
 その時になって、それまで見えてこなかった喫茶店が、いきなり視界に現れてきた。実に不思議な感覚だった。
 最初に入った時と正反対の方向から来ているので、雰囲気が違って見えたが、最初に見た時に感じたことを思い出して、少し不思議な感覚があった。
――あんなに大きな店だったかしら?
 記憶の中にある店に比べて大きくなっているかのように感じた。
――夕方だからかしら?
 夕方だから、今まで前に見たところが大きく見えたことはなかった。それは知っているところを意識もせずに見ているからであり、
――今回のように、もう一度店に入ってみよう――
 と思いながら、表から見ると、最初に表から見た時の残像がまだ瞼の裏に残っているのを感じ、目の前に現れた景色と、瞼の裏を重ね合わせてみた。
 すると、明らかに大きさが違っていた。こんなことはあまりなかったことである。
――最初に見てから、まだ数時間しか経っていないではないか――
 たった数時間の間で、ここまで感じていたイメージと違っているなど、普通は考えられない。
――たった数時間――
 この思いが、実はミソなのかも知れない。
 時間に対しての感覚で重要なのは、
――中途半端ではない――
 ということだった。
 ということは、
――ここでいう数時間というのは、私にとって、中途半端な時間となるのだろうか?
 と感じた。
 夕日が背中から当たっているのを感じた。背中が熱いくらいだ。
 しかし、喫茶店はその夕日に当たって輝いているような雰囲気はしない。
――白壁のはずなのに――
 それはまるで、影のように怪しく浮かび上がっている感覚だった。そこだけ光が逆から差してきていて、店自体に後光は差したようになっている。
――店が大きく感じたのは、後ろから差してきている後光に、店全体が浮き上がって見えたからなのかも知れない――
 そこまで感じるまで、どれほどの時間が経ったというのだろう?
 冷静に考えてみると、理論立てて考えているので、少し時間が掛かったかのように感じるが、いつもの経験からいくと、
――結構、あっという間のことだったに違いない――
 と感じた。
 理論立てて考えているようで、実際に頭の中では、最短距離で考えていたことのように思う。ただ、改まって考えると、自分に納得させなければいけないという思いから、どうしても、順序立てた理論を組み立てる必要があるのだ。
――理論さえ組み立てれば、納得できないことはない――
 と、自分の中で結論づけられたものに対して、時間を当てはめてしまうと、どうしても、時間の分割が必要になり、分割される時間は、等間隔であることを前提にして考えられるようになってくる。
――ただ、それにしても、感じた大きさ以外にも、何かが違っている――
 と感じるようになっていた。
 その思いがどこから来るものなのか、最初は分からなかったが、夕日は反対から差しているのに対し、そこだけ反対方向から差してきているように思えるのは、どう考えてもおかしいという思いからだった。
――そうだ、どこか平面に見えるんだ――
 田舎の風景の中に、ポツンと佇む一軒の喫茶店、そこはまわりに比較対象を求めることのできない場所であった。
 つまりは、喫茶店自身が、比較対象であり、喫茶店を見ていて感じたことが、その場においての、
――絶対的な感覚なんだ――
 と思うしかなかった。
 したがって、喫茶店が大きく見えたのなら、まわりがその引き立て役のようになって、小さく感じられているのかも知れない。そして近づいていくうちに、本当なら大きくなって見えてくるはずの喫茶店が、近づいて行っても、大きさに変わりはない。ちょうど感覚と視界が合致したところにやってくると、その時自分がどのように感じるというのか、香澄はドキドキしていたのだ。

                 第二章 目力と男女の視線
作品名:絵の中の妖怪少年 作家名:森本晃次