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短編集33(過去作品)

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 現実でも夢の中でも出会える女性。そんな女性を私は捜し求めていたのだ。
 だが、真子に出会ってから、夢の中で私に従順な女性の出現はなくなってしまった。現実の真子を射止めた代償のようなものかも知れない。夢を見ていたとしても、起きてからまったく覚えていない。そう考える方が辛かった。
――会っているのに、覚えていない。覚えていないことがこれほど辛いとは――
 寝付けなくなったのは、そう感じるようになってからだ。眠っていても覚えているのは怖い夢を見た時だけ。これでは、眠りに就くことに抵抗を感じても仕方のないことだ。それを真子に相談するのも何となく筋違いだと思ったが、どんな気持ちを夢に対して持っているかを知りたかった。
「僕は夢で何度も真子に会っていたんだよ」
「会っていたの?」
「うん、以前から僕にとって素敵な女性が夢の中に出てきたりしていたんだ」
「まあ、少し妬けるわね」
 そう言っているが、私の言いたいことが分かるのか、含み笑いをしている。それに構わず私は話を続けたが、ひょっとして私も苦笑いをしていたかも知れない。
「でもね、夢に出てきたような素敵な女性が目の前に現われると、今度は夢に出てこなくなったんだ」
「夢でも会いたいの?」
 やはり私の苦笑いの意味を分かっているようだ。
「うーん、会いたいんだろうね。でも今で十分だと思っているんだ」
「欲張りなのね」
「欲張りは悪いことじゃない。欲があるから頑張れるってことだってあるんだからね」
「そうね。あなたの気持ち、とてもよく分かるわ」
 もう真子は含み笑いをしていない。真剣に聞いてくれていて、真面目な顔で私を見つめている。そんな真子が私は好きなのだ。
「真子はどうなんだい? そんな夢での経験はあるかい?」
 ここからが聞いてみたいところである。
「私はいつもあなたと夢で会っていたい気がするわ。夢でもあなたに抱かれていたいの。いつか言ったわよね。私はあなたの前では従順になれるんだって」
 その言葉は、何度となくベッドの中で聞いた言葉だった。私のことを優しいと言ってくれるわけを、
「あなたの前でだけは、他の人の前では絶対に見せない私になれるの。これが本当の私なのよ」
 と表現する真子は、本当に素敵だ。
 いつもいつも言ってくれるわけではない。それだけに私には深く心に刻まれている。毎回言われてはせっかくの言葉も希薄に感じられてしまうからだ。
「でもね、夢って不思議なの」
 今度は少し声を低めにして、しみじみという感じで真子が話し始めた。
「どういうことだい?」
「夢に出てくるあなたが、本当に今目の前にいるあなたなのか分からなくなることがあるの。いつもあなただと感じながら、感じていることに幸せを感じながら見ている夢、でも、時々我に返ってしまう時があるみたいなの」
「夢だからそういうこともあるんじゃないのかい?」
「ええ、何度か夢だからって思っていたんだけど、夢だからって、すべてをそれだけで片付けていいものなのか、分からなくなる時があるの。きっとそんな時に夢でのあなたが、私の知らないあなたに見えるのかも知れないわね」
 言われてみれば私は考え込んでしまった。
――私は本当の自分をすべて、真子に曝け出しているのだろうか――
 と考える。少なくとも今自分で考えている私のすべてを真子に曝け出しているように確信している。しかし、それはあくまで自分が知っている私だけで、本当にそれが私のすべてなのだろうか? 
――ひょっとして私も知らない私が存在しているかも知れない――
 そう考えると、真子の言いたいことも分かってくる。目の前の真子がいつもの真子ではない気がするのは、気のせいだろうか?
 私が真子の夢を最近見ていないと思っているが、それも本当なのだろうか?
 見ていないつもりで、起きてから忘れてしまっているということもありうることだ。絶対にないとは言えない。いや、そう考える方が私にはしっくりくることがある。
 時々真子と一緒にいて、
――あれ? いつもの真子と違うような気がする――
 と思うことがあるが、それも一瞬のため、感じたことがすぐに消えてしまっている。しかし感じたというインスピレーションは残っていて、それが何となく違和感として頭に残ることも少なくない。
――私も真子のすべてを知らないのかも知れない――
 すべてというより、真子が私の前でだけ見せる態度から、真子の本心を完全に見切っていない気がする。表に見えている態度が従順であればあるほど、その奥にあるかも知れないものが見えてこないのは、人間の意識に錯覚や思い込みというものがあるからだろう。そこまで考える必要はないのかも知れないが、真子が私の夢にまったく出てこないことを考えていけば、自然とそういう考えに行き着くことも仕方がないように思える。
――これから少しずつ知っていけばいいんだ――
 最初のインパクトが強かっただけにそう感じている。真子はあまりにも私の理想の女性に限りなく近いのだ。
 今日は気持ちのよい目覚めである。確かに読書の魔力が通じたようで、気がつけば眠っていた。いつ眠りに就いたか分からないほど気持ちのよい眠りはないようで、それだけに目覚めも最高に気持ちいい。
 目覚めはどちらかといえば悪い方ではない。目が覚めるまでに少し時間が掛かるのは他の人と変わらないが、目覚まし時計をセットしていなくとも、時間が来れば自然に目が覚めている。それだけ聡い方であり、神経質なのだろう。
 ただ目が覚めるまでが気持ち悪いのだ。それだけ目覚めるまでに時間が掛かる。
 目が覚めるまでの間に見た夢を忘れてしまっていることが多かったが、今日は覚えている。覚えているのは怖い夢ばかりだと思っていたが、そうでもなかった。夢の中で素敵な女性が出てきて、私を優しく包み込んでくれた。
 その女性は真子ではなかった。それはハッキリと分かっている。夢に出てきた女性は今まで私が理想としていた女性が真子とは違う雰囲気の女性であることを、思い出させてくれた。
 私は気が多いのだろうか?
 真子は私にとって素晴らしい女性であることに違いない。しかし私が求めている女性とは少し違うのだ。真子は私にいろいろ求めている。私の中にあるものを引き出してくれる女性で、言葉の一つ一つが私自身を気付かせてくれる。
――私にも人に与えられるものがあったんだ――
 と思っただけで、嬉しくなってくる。
 元々、女性に対して甘えたいタイプの私が、女性に何かを与えるなど考えたこともなかった。それが、私を有頂天にさせたことは言うまでもない。
 だが、与えることばかりだと、そのうちに疲れてくるもののようだ。与えてくれるものがないと、一方通行な気持ちになり、元々甘えたいタイプの私は次第に億劫になってしまいかねないからだ。
 与えてくれる女性……。私はそれを夢の中に見出したのだ。
 夢というものは潜在意識が見せるもの、それだけに自分が日ごろ頭の中で思い浮かべている女性が浮かんでくると考えるのが自然である。
 顔立ちも真子とは少し違っていたようだ。
作品名:短編集33(過去作品) 作家名:森本晃次