短編集33(過去作品)
自分の暴力がどれだけ人を傷つけてきたか、自分でも分からない。分かっていても暴力をやめられたかどうか分からないが、もっと早く自分を取り戻せただろう。
今の仁科は自分を取り戻すことができない。自覚しても、すでに遅いところまで来ているのだ。きっとすべてを「他人事」だと思っているからに違いない。
鏡に写った顔に道化師を見た瞬間から、自分の運命を知るに至った。
道化師の白粉は死化粧なのだ。少なくとも自分のまわりの人は皆そうだ。
鏡の中の男の表情は変わらないが、仕草だけはおどけていた……。
( 完 )
作品名:短編集33(過去作品) 作家名:森本晃次