小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

WHO ARE ROBOT?

INDEX|9ページ/31ページ|

次のページ前のページ
 

 この場合の覚悟は、
――自分を捨ててでも、相手を手に入れる――
 という思いがあるに違いないからだ。
 相手が嫉妬しているのを分かっていて、好きになった相手が異常性格であることも分かっていることで、彼を手に入れると、他のすべてを失うことは分かっていた。表向きの体裁は整っていても、それは抜け殻でしかない。そういう意味でも千尋には、三人で会うことがなかったことはありがたかった。
 三人の関係を知っている人もごく少数であればいるにはいた。その人から見れば、三人で出会わないメリットが一番あるのは千尋に見えたに違いない。そういう意味で、千尋の覚悟はすべてにおいて優先していて、この関係の主導権を握っているのは、千尋なのだと思っていたに違いない。
 千尋は、まわりから見ればそう思われることも分かっていた。分かっていたが、それは千尋にとっても好都合だったのだ。
――そう思ってくれた方が、本当の関係を見られることがないので、他の二人に対して遠慮しなくていいんだ――
 と感じたからだ。
 千尋にとって、三人のこの関係は、本当は息苦しくていやではあるが、崩れてしまうことも嫌っていた。もし壊れてしまうと、せっかくの覚悟が水泡に帰鶴と思ったからで、最初から何もなかったことになると思ったのだ。
 もし、彼女が最初からやり直してもいいという気持ちが少しでもあれば、この関係が崩れてもいいと思ったかも知れない。しかし、彼女には前しか見えていないところがあった。過去に戻りたくないという思いがあったのだ。
 千尋は、いつも真面目である自分の姿をまわりに見せつけているところがあった。
 ただ、自分の本当の姿をまわりに見せつけたいという思いがあるのは事実で、それが真面目な性格を裏付けているのだった。
 子供の頃、千尋の両親は離婚した。
 父親はとても厳格な人で、母親はおおらかな性格であった。
――そのアンバランスが夫婦生活をうまく回らせていたんだ――
 と、子供心に感じていて、今でもその思いは変わっていない。
 ただ、この関係は一触即発でもあったのだ。歯車がうまく絡んでいる間は、これ以上ないというほどのおしどり夫婦に見えたかも知れない。しかし、どこかで歯車が狂ってしまうと、収拾がつかなくなるところまで行くのは必至だった。
 だが、そんな泥沼への一直線の中にも、いくつかのターニングポイントがあったのではないかと千尋は思っている。
――あの時とあの時――
 千尋は大人になってから思い出すと、それらしい時期に気付いていたように思えた。
 そんな中で一番辛かったのは、ターニングポイントを両親ともに分かっていたと思える時期に、大ゲンカしていたことである。
――私にでも気付くんだから、二人にだって気付いたはず――
 それなのに、二人は衝突した。お互いに遠慮し合って生きてきた感情が、歯車が狂ったことで、初めて自分の主張を通そうと、お互いにぶつかったのだ。
 そこには覚悟などありもしない。ただ自分の言い分をまるで子供の喧嘩のように言い合っているだけだった。
――こんな罵り合い、これが自分の両親だなんて――
 と思うと、辛くて仕方がなかった。
 しかし、こうなってしまうと、他人ではどうにもならない。お互いの殻に閉じこもって自分の言い分を相手に対してぶつけているだけなんだから、たとえ子供であっても他人でしかないのだ。
 そう感じたことが一番悲しかった。
 千尋が、
――自分が手に入れたいことであれば、相手がいくら親友であっても、容赦することはない。自意識を叶えるためには覚悟すればいいだけなんだ――
 と思うようになったのだろう。
 しかも、両親の離婚の時、いくら血を分けた子供であっても、他人だと思われたのだから、親友など他人でしかないのだった。
――あれだけ辛かったはずなのに――
 という後悔がないかと言われると、まったくないと言えるだけの自信はないが、覚悟をすることで、そんな感覚は簡単に吹っ切れたのだった。
 そんな千尋は、子供の頃に親の離婚を経験したことが今の自分を作っていると思っているので、
――あの時の感情を忘れてはいけない――
 と感じている。
 しかし、
――過去には二度と戻らない――
 という感情も頭の中にあって、たまにその感情が頭の中で矛盾を感じさせることになり、自分が分からなくなることがあるようだ。
 早苗という女性は、おおらかに育ってきた。裕福な家庭というわけではなかったが、両親がおおらかな性格だったこともあって、別に何も困ることなく育ったのだった。
 成長期の中学時代、好きになった男の子がいたが、早苗自身、晩生だったこともあって、好きな相手に告白できずにいた。そもそも、自分がその男の子を好きだったという意識もしばらくしてから気付いたのであって、それを気付かせてくれたのが、彼に彼女がいたという実に皮肉な話だった。
――ロマンチックなんだわ――
 嫉妬するわけでもなく、自分が彼のことを好きだったのだと気付いた時、彼女と仲良くしている彼を想像して、
――何かしら、このムズムズした気持ちは――
 と感じたのだが、別にその正体を見極めたいとは思わなかった。
 高校生になると、千尋と知り合うことになるのだが、千尋が早苗と友達になった時の気持ちは、
――何ておかしな女の子なんだ――
 と、天然といわばそれまでだが、千尋の思いもしない発想をする女の子だったのだ。
 それが新鮮で、惹かれたのだが、あくまでも自分にないものを持っているという理由が一番だった。
 ただその時、千尋も、
――私には、彼女のようにはなれない――
 という思いがあり、二人の間に見えない結界のようなものを感じていた。
 普通なら結界を感じたのなら、すぐに離れてしまうに違いないのに、なぜか早苗から離れることができなかった。
 早苗は高校時代から、心理学を勉強したいと思っていたが、そのきっかけになったのが千尋の存在だった。千尋には自分にないものを感じたことで、
――人の考えていることが分からない。分かりたいと思うんだけど、ちょっと怖い。でも、自分の考えていることを分かってほしいと思うのはどうしてかしら?
 不思議な感覚だった。
 確かに千尋のことを分かりたいと思いながら、その前に彼女に分かってほしいと思っている自分もいた。だが、最初に分かってほしいと思ってしまうと、相手のそんな気持ちを悟ることに怖さを感じる。何とも矛盾した考えである。
 普段からおおらかで、余計なことをあまり考えることのなかった早苗に、ここまで考えさせる千尋は、
――きっと私の中のまだ伸びきっていない伸びしろを、彼女が引き出してくれるんだわ――
 と思うようになった。
 心理学を勉強したいと思ったのは、心理学を勉強することで、これから自分が感じることの中で納得できないことにぶち当たった時、心理学の考え方に当て嵌めることで、自分を納得させることができるようになるのではないかと思ったからだった。
 早苗は心理学の勉強を志すようになって、
――どうせ勉強するなら心理学以外でも、もっとたくさん興味を持てる学問を志してみたい――
 と思うようになった。
作品名:WHO ARE ROBOT? 作家名:森本晃次