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WHO ARE ROBOT?

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 それは普段から意識していることではなく、早苗と一緒にいる時に感じるものだった。だから、まわりに対しては、特に他の女の子とは違ったところがないというようなイメージを植え付けたいと感じていたのだ。
 しかし、そう思っていても、実際には性格などというのは滲み出るもので、召喚という意識をまわりに悟られることはなかったが、自分にとっての早苗をなるべくまわりに意識させないようにしたいという感覚はあったのだ。
 友達だと思われることは仕方がないとしても、親友だと思われるのは心外だった。それは早苗と友達だということを他人に知られ、自分がおかしな人間であるかのように思われることを嫌ったわけではなく、正反対の思いが千尋には存在していた。
――自分が早苗に興味を持っているということを悟られて、他の人も早苗に興味を抱いてしまうと、せっかく早苗を独り占めしてきたことが無に帰してしまう――
 という思いからだった。
 早苗に興味を持つということは自分だけの特権であって、この思いを他の人が共有することは許せないことだったのだ。
 千尋には、そういうところがあった。独り占めしたいという感情は、子供の頃から持っていて、それは千尋が三人姉妹の次女だったことに影響している。
 長女や末っ子は、甘えさせられていた。長女は祖母に、末っ子は母親に、それぞれ可愛がられていた。それなのに次女の自分は、洋服などは姉のおさがりで、また事あるごとに、
「お姉ちゃんなんだから、妹に譲ってあげなさい」
 と言われてきた。
 自分が長女から譲ってもらうように促されたことなど、ほとんど記憶にないのに、どの口が言っているのかと、理不尽な言葉に千尋は唖然とし、何も言えなくなってしまうのだった。
 千尋は早苗にとってそれほど執着する相手ではなかった。その立場は高校時代から変わっていなかった。
 しかし、その立場が反転する時がやってくるなど、早苗も千尋も分かっていたことなのだろうか? 特に早苗には青天の霹靂だったに違いない。それまでの二人の不動ともいえる関係に割って入ったのが真田という男の存在だった。
 真田は友達がほとんどいなかった。高校時代から友達を作ろうというタイプではなかったし、大学に入ったからと言って、進んで友達を作ろうともしなかった。
 最初はそれでも友達を作ろうと思っていた。
「大学に入るんだから、友達を作ることも大切だよ」
 とまわりの人からも言われていた。実際にそのつもりでいたのだが、どうにも大学というところ、真田が考えていたよりも、相当軽薄に見えたようだった。
 その雰囲気をほとんどの人は、高校時代の暗かった自分の生活と比較して、
「こんなにも楽しい世界なんだ」
 と、想像はしていただろうが、まわりの雰囲気に呑まれてしまい、浮かれてしまっても仕方のないところはあるのかも知れない。
 何しろ、それまでの閉塞した生活、そして、
――まわりは皆敵なんだ――
 と思っていたような人間にとって、まるでパラダイスのような生活は、感覚をマヒさせるに十分な効果を持っていた。
 だから、皆友達を作ることに躍起になっていて、友達の数がまるで自分のステータスのように思えるのだろう。敵だったはずのまわりが、今度は「内輪」になるのだ。快感だと言ってもいいのではないだろうか。
 しかし、真田はそこまで軽薄にはなれなかった。感覚がマヒする以前に、冷めてしまったのだ。
――なんだ、この雰囲気は――
 ほんの少しでも距離を持てば、かなり遠くから見つめているような気分になるのも、溺れてしまう感覚なのかも知れない。まるで台風の暴風域のように、中に入ってしまうと、巻き込まれるが、少しでも離れていると、そこは影響のまったく及ばない場所であり、しかも、
――蚊帳の外――
 として、冷静に見ることができるのだ。
 暴風域とそれ以外の場所にはれっきとした結界があり、結界を超えるか超えないかは、台風同様、分からない。しかし、越えてしまうと、
――ここが結界だったんだ――
 と気付く人もいるだろう。
 要するに越えなければハッキリと分かるわけではないということだ。
 真田は、自分がその結界を超えた気がした。最初は友達を作りたいと思い、大学に入学してから少しの間は、見るもの聞くものが新鮮だった。それは浮かれた気分になるまでには至らなかったが、一歩間違っていれば陥ったかも知れない。それは時間的なものなのか、それともタイミングの問題なのかは定かではないが、明らかに結界を意識したことは間違いない。
 だから、真田は、
――大学では勉強するものだ――
 と思っていた。
 部活も考えた時期があったが、一度結界を超えてしまうと、部活の勧誘も白々しく感じられた。入部するまではちやほやされて、入ってしまうと、そこは先輩後輩のガチガチの関係が待っている。そのいい例が新入生歓迎コンパではないか。呑める呑めないは関係なく、新入生を歓迎という名目で潰そうとする。確かに洗礼という言葉を使えばいかようにも判断できるのかも知れないが、すでに冷めた目でしか見ることのできない真田にとって歓迎コンパは、
――悪しき習慣――
 でしかなかったのだ。
 そうやって考えてくると、大学生活というのも、最初に考えていたほどいいものではない。だんだんそれまで新鮮だと思ってきたことがわざとらしく感じられてきて、次第に視野がどんどん狭まってくるのを感じたのだ。
――とりあえず、勉強するか――
 と思い、授業には必ず出席し、最前列でノートを取ることにした。
 大学の講義では、いつも同じメンツのメンバーが最前列でノートを取っている。彼らはそれぞれ暗黙の了解があるのか、どの講義も教室が違っていても、その「陣地」は決まっていた。いわゆる指定席というのだろうが、それを皆が承知しているのだ。
 そんな彼らをどうしても真田は、
――仲間だ――
 と感じることはできなかった。
 暗黙の了解で毎回同じ行動を取っている彼らにもわざとらしさを感じ、
――あの軽薄な連中とどこが違うんだ――
 としか思えなかった。
――まだ、あの軽薄に見える連中の方がマシなのかも知れないな――
 と感じるようになったのは、最前列でノートを取っている連中に余裕という言葉が感じられなかったからである。
 余裕というべきか、「遊び」というべきか、この場合の「遊び」はハンドルなどの遊びと同じ意味で、いわゆる「伸びしろ」と言ってもいいものであった。
 真田はそうは思っても、授業に出てノートを取るのはやめなかった。そんな中で一人の女性が真田に興味を持った、それが早苗だった。
 真田も早苗に興味があった。同じノートを取っている連中とはどこかが違っていた。彼女もひょっとして、
――自分が他の人と違っているということを意識しながら、講義を受けていたんじゃないのかな?
 と感じたからである。
 実際にその感覚に間違いはなかったが、早苗は真田が感じていたよりも、想像以上に異質な女性だった。
 どうして異質と感じたのかが分からなかったが。早苗から千尋を紹介されて三人で話をするようになってから徐々に分かってくるようになった。
――早苗という女性は、千尋という友達の影響を大きく受けているんだ――
作品名:WHO ARE ROBOT? 作家名:森本晃次