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WHO ARE ROBOT?

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 自分から相手をフッた場合も同じことで、相手に自分にとっての限界を感じたから最後通牒を突き付けるのだ。
 早苗という女性と話していると、彼女の発想は自分の中で思いついただけで、それを発展させようという気持ちがなかった。ただ思いついたことを口にしているだけで、話題を相手に投げているのである。人によっては、
――投げっぱなしで無責任な話だ――
 と思う人もいるだろう。
 そんな人は早苗と合うはずもなく、意外とそんな人はたくさんいたりした。
 そのおかげで、千尋は早苗を独占できると思っていた。
――こんなにいろいろな発想を抱かせてくれる人を敬遠するなんて、皆何を考えているのかしら?
 と思ったほどで、千尋にはすでに面倒くさいという発想を早苗に対して抱くことはなくなっていた。
 千尋は、早苗から聞いた話を着色して、一歩進んだ発想を頭に抱く。それを早苗には話していた。
「千尋ちゃんって、何て素敵な発想をするの? 感動しちゃうわ」
 と、大げさに言われて、少し恥ずかしく感じてしまうが、
「何言ってるの。元々はあなたの発想から生まれたことなのよ」
 と言いたいのを、喉の手前で押し殺していた。
 押し殺したと言っても、それほど必死になっているわけではなく、口にしないということを選んだだけだった。
 そんな二人の関係は、まわりから見ると、分かっていないようだった。実際に早苗と千尋が親友だなどと知っている人はごく少数だったのではないだろうか。同じ高校から入ってきた人でも、二人が親友だということを知っている人はほとんどいなかった。
 別にまわりに隠そうとしていたわけではない。表に出さないだけで、それだけ早苗にも千尋にも、他人の関心がなかった言ってしまえばそれまでなのだろう。
 ただ、二人はその方が好都合、お互いも別に親友とは名ばかりで、相手に何かあっても、助けようとするのが親友なのだという定義があるとすれば、二人は親友ではない。お互いに冷静な付き合いの中で、冷たさの中に時折感じさせる暖かさが二人を包んでいるといっても過言ではないだろう。
 二人には、お互い以外の友達は、ほとんど存在しなかった。千尋は高校時代まで友達はいたが、大学に進学する時、他の友達とは進路が皆と違っていた。ほとんどは就職してしまい、そのせいで疎遠になった。
 元々、高校時代までの付き合いだったのだろう。自分だけが大学生になったことで、千尋には後ろめたさがあった。その後ろめたさは無意識で、疎遠になったのは、社会人になったことで皆忙しいのだろうという遠慮からだと思っていた。
 しかし、突き詰めれば遠慮も後ろめたさに繋がることもある。そのことを千尋はすっかり忘れていた。
 早苗からは一人でも寂しさは感じられなかったが、千尋からは寂しさというオーラが醸し出されていたようだ。本来なら一人であれば寂しさを感じさせる方が当然というもので、早苗のように寂しさを感じさせないのは、稀なのではないかと思える。
 早苗と最初に知り合った真田は、早苗に対して感じた興味深いイメージを持ったまま、早苗から千尋を紹介された。最初は、
――普通の女の子なんだ――
 と、別に興味が湧くこともなかったが、実際に三人で話をしてみると、千尋の発想が少し自分たちと違っていることに気付いていた。
 どこが違っているのかすぐには分からなかった。
「千尋は本当に突飛な発想をするでしょう?」
 と、早苗が真田に千尋の話を振った時、
「えっ、まあ」
 と、うろたえたかのように口籠った態度を見せた真田に対し、千尋は困惑したような表情を浮かべていた。
 その時の真田の態度は、別にうろたえていたわけではなかった。早苗の言動に興味を持ったことで、千尋の言動が早苗の言動の発展系であるということにすぐに気付いた真田にとって、早苗がそのことに気付かなかったことが不思議だったからだ。
――どうして?
 という思いが強かった。
 しかも、言われた千尋は困惑の表情を浮かべてはいたが、何も口にしようとはしない。まるで苦虫を噛み潰したかのような表情を、早苗に分かってもらおうという雰囲気でもなかった。
――とりあえず、自分の気持ちだけは表情に出しておこう――
 とだけ考えたのだろう。
 もし、ここで気持ちを発散させておかないと、自分で勝手に飽和状態を作り出すまで、抑えてしまう自分を感じていたからなのかも知れない。
 内に籠ってしまう人間は、えてしてそういうところがあるのかも知れない。飽和状態というのは、一見苦しそうに感じらるが、精一杯に膨らんだ状態は、空気の薄くなった状態で、破裂してしまうと、自分が傷つきさえしなければ、爽快な気分になれるのではないかと思っている。
――破裂してしまうと思うからなんだ――
 と、いまさらながらに感じたと思っている真田は、以前からそのことには気づいていたかのように思えていた。
 実際に捻挫などした時、痛みが究極の状態になった時、患部が腫れ上がってしまい、熱を持ったり脈打ったりしてしまったりするだろう。
 しかし、そんな時でも、
――ここを通り過ぎれば痛みを感じなくなる――
 と、思っているので、それほど苦しみを辛いとは感じない自分がいるのだった。
 実際に、痛みはなくなっていた。ただそれは痛みが本当になくなったわけではなく、マヒしてしまっただけだった。
――絶頂を迎えた快感が、通り過ぎた時に出てくる虚しさに似ているのかも知れないな――
 と、少し隠微な発想をしてしまった真田だったが、これ以上の比喩は存在しないように思えた。
 早苗は自分が人に影響を与える存在だということに気付いていなかった。むしろ一人でいることの方が本当はよかった。それなのに、なぜ千尋と親友のようだと言われて嫌な思いがしないのか、自分でも不思議だった。
――本当は、千尋のことが好きなんじゃないかな?
 と感じた。
 その「好き」という感覚は、友達として好きだというものではなく、もっと生々しいところで好きだという感覚だと思っていた。
――女同士ではしたない――
 と思えるような発想であったが、それだけではなかった。
――本能が求め合っているんだわ――
 と感じたが、それは、そのものズバリ、
――身体を求めている――
 という思いに至っていた。
 だが、千尋の方にはそんな思いは欠片もなかった。千尋に少しでも隙が存在していれば、早苗は容赦なく千尋に襲い掛かっていたかも知れない。
――下手をして、せっかくの友達関係まで崩してしまったらどうしよう――
 という思いがなかったとは言えない。
 早苗にとって千尋は、
――無くしてはいけない関係を育んだ相手――
 という意識があった。
 しかし、千尋の方は少し違っていて、
――自分を召喚させてくれる存在が、早苗なんだ――
 と思っている。
 ここでいう「召喚」とは、千尋は自分が普段から、
――自分は他の人とは違う――
 と思っている状態から、他の人と会話ができるまで、自分を「堕とす」という感覚でいたのである。
作品名:WHO ARE ROBOT? 作家名:森本晃次