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WHO ARE ROBOT?

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 と二人は同じ大学を目指すことで、本来ならライバルとなるべき関係であったが、一緒に入学するという目的をハッキリと持って受験勉強ができたことで、暗く陰湿な時代であろう受験生時代をそれほど苦痛に感じることなく過ごすことができた。
 そのおかげというべきであろうか、二人は現役で志望校に入学することができ、
「よかったわ。二人とも合格できて」
 と千尋がいうと、
「私は信じていたわ。二人そろって入学できるってね」
 と早苗は言った。
 そのセリフには説得力が感じられた。早苗はいつものような漠然とした言い方ではなく、確信に満ちたような言い方をしたことで、余計に信憑性を感じたのであろう。
 ただ、大学に入学したことで、二人は少し距離を置くことにした。同じ大学ではあったが、学部も違っていたし、何よりも大学が自主性を持って生活する場であることを、二人は分かっていたからだ。
 その思いは早苗の方が強かった。ただそれは大学に入学するまでで、入学してしまうと、千尋の方から早苗に連絡をすることはあまりなかった。
 確かに気を遣って連絡を控えていたというのもあったが、初めて体験する大学という自主性を重んじるところに身を置いたことで、千尋の方も、それまで感じることのなかった何かを感じたのだった。
 それは大学というところが、自分が想像していたよりも自由気質で、さらに開放的な雰囲気であり、自主性というものを嫌でも感じさせられたことで、自分ひとりの世界を満喫することに目覚めたと言ってもよかった。
 そんな千尋をよそに、早苗も千尋の邪魔をする気にはならなかった。
――もし、千尋が望むなら、このまま疎遠になってもいいわ――
 と感じるほどだった。
 だが、そう思ってしまうと、今まで感じたことのなかった感覚が早苗の中に芽生えていた。
――なんとなく落ち着かない気分になったんだけど、これって何なのかしら?
 それが今まで早苗の感じたことのなかった、
――寂しさという感情――
 だということに早苗が気付くことになったのは、真田と知り合ってからのことだった。
 人と知り合ってから、寂しさを知るというのは何とも皮肉なことであるが、そのことに最初に気付いたのは真田だった。だが、真田はそのことを早苗に話そうとは思わない。
――この思いは、墓場まで持っていくことになるかも知れないな――
 と、何とも大げさな発想を抱いていたのだった。
 真田が早苗に興味を持ったのは、この寂しさという感情からだったのかも知れない。
――彼女はいつも一人でいるのに、寂しさを感じさせないような気がするな――
 と感じたからだ。
 寂しさというのは、いつも一人でいるから感じるものではない。むしろいつも一人だと感じないものだ。
――絶えず誰かがまわりにいてくれないと辛い――
 と感じる心が寂しさであり、それは、いつも誰かが自分のまわりにいてくれたということを逆に証明しているようなものである。
 まわりに誰かもいない時期がある程度まで達すれば、その感覚は頂点に達し、感覚がマヒしてくるものではないかと思うからだ。常和状態になった感情は、破裂することなく、うまく収縮してくる感覚は、実際になった者でなければ分からないだろう。
 ただ、その感情を自覚することはほとんどないだろう。その感覚に至るまでに自分の中の感覚はマヒしてしまい、マヒした感覚が、飽和状態を収縮させる作用を持たせるものではないかと今の真田は思っている。
 これも心理学を志してから、最初のうちに考えたことだった。結論に至るまでには紆余曲折を繰り返すことになったが、それも真田にとっての教訓であり、知り合った相手が早苗だった証拠なのだと思っている。
 早苗と仲良くなった真田は、早苗に友達が一人もいないと勝手に思っていたが、実際には千尋という友人がいた。そのことを知ったのは、早苗と知り合ってから一か月が過ぎようとしていた時だった。
 早苗から千尋のことを紹介された時、
「彼女は私の通っていた高校で、ずっと一緒だった迫田千尋さんです」
 と型どおりの紹介に、言葉の抑揚もなかった。
 サラッと流しているかのように聞こえたのは、それだけ彼女が棒読み状態だったからだろう。実際に紹介された千尋の方が、
「はい、幸田さんとは、高校時代にずっと仲良くしていただいていました迫田です。よろしくね」
 と言って最後には微笑んだが、彼女もどこか棒読みのようで、お互いに本当に仲がいいのか分からないと思うほどだった。
 千尋が棒読み状態だったのは、千尋なりに考えてのことだったようだ。早苗のプライドを考えてのことで、それは早苗の言い方が棒読みであることが自然であることを物語っていた。しかもそのことを早苗自体は意識していない。それだけ早苗という女性は、
――面倒くさい女――
 だったのだ。
 それなら、
「そんな相手と仲良くしなければいいじゃないか」
 と言われるかも知れない。
 だが、千尋にとって早苗はかけがえのない友達だったのだ。
 しかしそれは、親友としてかけがえのないという意味だけではなく、もう少し現実的なところでもかけがえのない相手だった。むしろ千尋にとって、現実的な方が自分にとって大きな存在なのだと言えるのではないだろうか。
 早苗は心理学の本をたくさん読んでいることもあってか、急におかしなことを言いだすことがあった。他の人であれば、
――何言ってるのこの娘は――
 と、一蹴するかも知れないが、千尋には早苗の一言一言を聞き逃さないと思う心が存在していた。
 それだけ早苗の言動には千尋に考えさせる力が込められていた。そのことに千尋が気付いたのは、仲良くなってからしばらくしてからのことだった。
 最初こそ、
――どうして私は早苗のような面倒な女にかかわっちゃったのかしら?
 と、かかわってしまったことを後悔していた。
 だが、後悔はすぐになくなった。早苗の言っていることを真面目に聞いてみると、その先を考えてみようと思うようになっている自分を感じたのだ。
 その先を考えていると、急に楽しくなっていった。それまで何かを考えようとすると、途中で自分が分からなくなり、袋小路に入り込んでしまったかのように、考えが堂々巡りを繰り返すことになっていた千尋だった。早苗の言葉の先を考えるようになると、それまでの自分がまるでウソのように、次第に結論めいたところに考えが向かっていることに気付いたのだ。
 何かを考えている時というのは、
――結論が見えていないから、いろいろな発想が生まれて楽しいんだ――
 と考えていた時代があった。
 しかし、実際にはいろいろな発想が生まれてきても、それが堂々巡りを繰り返してしまっているのであれば、それは本末転倒なことである。そう思うと、千尋は自分が考えを纏めることのできない人間だと思い、いつの間にか自分に限界を課してしまっていることに気付くのだった。
 限界を感じるということは、想像以上にショックなことだ。失恋に違いものがあるのではないかと思っている。考えてみれば失恋というのも、好きになった相手に、
「もう君とは恋愛感情を持つことはできない」
 という最後通牒を突き付けられたに等しいものだろう。
作品名:WHO ARE ROBOT? 作家名:森本晃次