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WHO ARE ROBOT?

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「きっと、空気が読めないんでしょうね。でも、私は言いたいことを口にしているだけなので、別にそれでいいと思っているのよ」
 と、早苗はいう。
「どうしてそう思うの?」
「だって、思いついちゃったんですもの。せっかく思いついたり思い出したりしたことを口に出さなければ、忘れてしまって、永遠に口から出てくることはないでしょう? そんなのもったいないわよね」
 という早苗の話を聞いて、
――それも確かにそうよね――
 と感じる友達だった。
「早苗さんの言っていることも一理あるような気がするんだけど、もったいないわね。せっかく思いついたことも、まわりが分かってあげられないというのは気の毒だわ」
 というと、
「ごめんね。なんとなく気を遣わせてしまっているようで。でも、私には私の道があるのよ。もしそれで友達を失うというのであれば、それでもいいの。私と合わなかったというだけのことなので、それはそれで仕方のないことじゃないかしら?」
 彼女の言葉を聞いていると、彼女には友達というのは二の次のような気がしてきた。別に強がっているわけでもないし、話を聞いているだけで友達の方が説得されているようにさえ感じられた。
――私だけでも、彼女と友達でいてあげればいいんだわー―
 と感じたが、彼女もいつまで彼女と友達でいられるか、自分で自信がなかった。
 友達の名前は迫田千尋という。実は彼女は真田の今の彼女だった。
 真田が千尋と知り合えたのも、この時早苗に対して千尋が、
――私だけでも友達に――
 と思ったおかげだと言っても過言ではない。
 早苗と真田が知り合ったのは、大学入学してすぐのことだった。やっと一年の講義も決めて、大学生活が本格的にスタートした頃だった。大学というところは高校までと違って、自由であるが、何でも自分で決めなければいけないところであった。自主性に任されているということで、真田には願ってもないことだった。
 真田は、大学に入学した時には、何になりたいという具体的なものは何もなかった。ほとんどの大学生はそうなのかも知れないが、それでも大学の勉強には興味があり、自分が何を専攻することになるのか、まるで他人事のようだが興味があった。
 そんな時、早苗と知り合った。
 早苗は講義ではいつも最前列でノートを取っていた。仲間がいるわけでもなく、真面目にノートを取っている姿は、真田の興味を引いた。
 講義室で一番前でノートを取っている人はいつも数人いた。そのほとんどは、
――いつものメンバー――
 だったが、皆つるむことはなく、一人が多かった。
 早苗もその一人だったのだが、同じように一人で黙々とノートを取っているうちの一人には違いなかったが、一度気になってしまった瞬間があった。背中が丸まっていて、覇気がなかったのだ。
 他の連中の黙々とノートを取っている姿は、覇気を感じさせるものではなかったが、最初から最後まで一貫している雰囲気ではなかった。しかし、早苗の場合、背筋を丸めながら、その態度には最初から最後までその姿勢は一貫していた。普通そこまで背筋を曲げていれば数分単位くらいで身体を起こしてみたりして、姿勢を変えなければきつくなってしまうのは必至だろう。
 真田はその姿を見ながら早苗に興味を持った。ある時講義が終わって、
「あの、いつも講義の時、先頭の席でノートを取っておられますよね?」
 と、ありきたりでベタな言葉を掛けた。それ以外にどう声を掛けていいのか分からなかったのだ。
「ええ、そうですけど、あなたは?」
 早苗は大げさなくらいに警戒している姿を見せたが、言葉は平然としていたのがアンバランスで、さらに彼女への興味を深めることになった。
「僕は真田って言います。よろしくです」
 と、簡単な自己紹介をしたが、早苗もそれ以上、真田のことを聞いてこなかった。
「私は講義を受けるのが好きなんです。ただ、それは勉強が好きだという単純なことではなく、講義室の雰囲気や、教授の教え方を見ていると、飽きないというか、何かを得られるような気がしてですね」
 という早苗に対して、
「何か……、ですか?」
 漠然とした表現をする早苗に対して、その部分を突っ込んでみたつもりで聞き返した。
「ええ、何かです。だって、教授だって人それぞれ、講義のやり方にもいろいろあるでしょうし、学問もそれぞれですからね。それに私は教授がどうしてその道を志すようになったのか、講義を聞いていると分かってくるような気がしているんです。講義そのものよりも、私はそっちの方に興味がありますね」
 やはり漠然としてしか感じなかった。
 同じ漠然とした雰囲気ではあるが、千尋が友達として仲良くなりたいと思った高校時代の早苗とかなり違っているということを、真田はもちろん知る由もなかったことだろう。
 早苗の方は、高校時代は友達というと、千尋だけになっていた。千尋の考えていた通り、早苗の性格を受け入れてくれる人は、高校時代には存在しなかった。千尋だけが早苗の友達だったのだが、実は千尋は早苗を尊敬するまでになっていた。
――皆が、早苗の本当の姿を知らないおかげで、私は早苗を独り占めできているんだわー―
 と千尋は感じていた。
 将来のことで悩んだり、現在進行形で悩んでいることなど、早苗に打ち明けることで、最終的に悩みの小ささに気付き、
――自分のできることだけをしていればそれでいいんだー―
 と思うことが、その証明であると感じさせてくれるのが早苗だった。
 早苗は余計なことを口にすることはしない。逆に早苗が口にすることはそのほとんどに意味があるのだ。最初の頃は、
――何て漠然とした言い方なんだろう?
 としか感じていなかったのに、いつの間にか、
――彼女の言葉を聞き逃さないようにしないと――
 と感じるようになっていた。
 短時間でこれだけ正反対の思いにさせられた早苗に対して一定の敬意を表する気持ちを持った千尋も、まわりからは、
「あの子も、幸田さんと同じ穴のムジナなんだわ」
 とウワサされるようになっていたが、千尋はむしろ、
――早苗と同じだと思われるのは、私としてはありがたいことなんだわ――
 と感じるようになっていた。
 受験生の頃は、友達付き合いをしていても、心の底では、お互いをライバルであり敵のように思っているというのを垣間見ることができると、
――何とも情けないように思えてくるわ――
 と早苗は感じていた。
 それに比べて自分と千尋は、前と変わらぬ付き合いを続けていて、彼女たちがうわべだけの付き合いだったことが浮き彫りにされた反面、自分と早苗は変わらずの付き合いができることに誇りすら感じていた。
――やはり私は間違っていなかったんだわ――
 と思うようになると、それまでうわべだけで付き合っていた他の友達とも疎遠になっていった。
 受験生という立場だったことが、疎遠になった理由を詮索されずに済んだのはありがたいことだった。
 早苗と千尋は幸いにも成績的には拮抗していた。大学を決める時も、お互いに先生から勧められた大学は同じだった。
「また同じ学校で会えるといいわね」
 と千尋がいうと、
「ええ、私もそう願っているわ」
作品名:WHO ARE ROBOT? 作家名:森本晃次