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WHO ARE ROBOT?

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「いや、今は彼だけなんだ。ロボット工学の研究にも法律があって、その法律では、人間の魂を移植してはいけないという条文があるんだ。これは結構厳しい罰で、違反すると、投獄はおろか、極刑にも値するものになるんだ。何しろ人道に対する罪ということになるからね」
「でも、実際にその友達という人は魂をロボットに入れたんでしょう?」
「ああ、でも、その時にはまだそんな法律はなかったんだ。法整備よりもロボットの開発が先行していたということで、これはロボット工学に限ったことではないけどね」
「確かにそうですね。でも、彼はそれからどうなったんですか?」
「今ではロボット研究もさらに進歩して、人間の魂を他のロボットに移植する技術も開発されたんだ。だから、彼が最初に入ったサイボーグは引退して、今は新しいロボットの中に入っているんだよ」
「まるで生まれ変わったかのようですね」
「そうなんだよ。その時に彼の記憶を消去することに成功したんだ。だから、彼は自分をサイボーグだという意識はあるけど、元々自分が人間だったということも分かっていない。逆になるべく人間のつもりで生きようと思っているくらいなんだ」
「元々人間だった人が、その記憶がなくなって、サイボーグの中で人間に近づこうとしているというのは、何とも皮肉なものなんですね」
「そういうことなんだよ。きっとこの話を初めて聞いた人は、彼のことを気の毒だとか、かわいそうだと思うかも知れないが、私は彼をどうしてもかわいそうだという目で見ることができないんだ」
「どういう目で見ているんですか?」
 と島田が聞くと、
「どういう目かと言われると、ハッキリと答えることはできないんだが、彼は今でも不治の病の研究をしている。どうして自分が不治の病を研究しているのかということに最近疑問を持ち始めたんだ。それが今の彼の悩みというところだろうか」
「でも、過去の記憶がないんだから、何とでも言いくるめられるんじゃないんですか?」
「いや、そんなこともないんだ。さっきも言ったように、彼は自分をなるべく人間として見ていこうと考えているんだけど、人間というのは、自分に目的がないと、自分を見失ってしまったりして苦しむじゃないか。彼もそうなんだ。ただ、彼は目的がハッキリしているだけに厄介なんだ。ハッキリしている目的に対してのプロセスが欠如していることで、自分が目指しているものへの疑問が湧いてくることになる。それが彼のサイボーグとしての悩みなのかも知れないね」
 教授の話は理解できた。
 しかし、それはあくまでも人間と人間の話としてであって、自分がサイボーグと接したことがないので、ピンとくる話ではない。
 だが、島田はその話を聞いているうちに、自分の知っている人の中に、
――ロボットではないか?
 と感じた人がいるような気がしていた。
 島田は、最近真田と仲がいいので、真田の知り合いと時々一緒に酒を飲んだり、どこかに出かけたりすることがあった。
 その相手というのは、早苗であり、千尋であった。
「男性二人に女性二人、ちょうどいいじゃないか」
 と言って笑っていた真田を思い出した。
 真田は島田に自分の友達を紹介した時、嬉々としていたような気がした。それまで
自分のことであっても、あまり表に出すことがなく、控えめなところがあった真田だったが、友達を紹介する時は、
――俺には、こんなにも素晴らしい友達がいるんだぞ――
 とでも言いたげだった。
 島田もそうなのだが、研究員というのは、あくまでも自分ファーストであり、友達を自慢するなど、普通であれば考えられないことである。人を差し置いても自分を表に出したいと思っているのは研究員独特の考えで、それだけの考えがなければ、きっと研究員などという個性を生かさなければ生きていけないような世界に身を置くことはできないに違いない。
――そんなにも素晴らしい人たちなんだろうか?
 島田はそう思いながら、三人と接していた。
 島田は暗示にかかりやついタイプの人間だった。
――俺は、情報処理の世界でも、ずっと研究所に缶詰めになっていて、ロボット工学の研究所でも缶詰め状態だ――
 と思っている。
 最初こそ缶詰めになっていることに疑問を感じ、ノイローゼになりかかっていた。他の研究員の中にはノイローゼになり、脱落していく人も少なくはなかった。
――なるほど、だから、あんなに募集人員が多かったんだ――
 と感じた。
 情報処理の募集要因はかなりの数だった。そういう意味では、
「情報処理の学校に行っていれば、就職には困らない」
 と言われていたものだ。
 島田は安易な気持ちではなかったが、情報処理に進んだことが結果的に就職活動の役になったことをありがたく思った。しかし、実際のふるい落としは、就職前ではなく、社会人になってからだった。
――僕たちは人間扱いされていないのかも知れないな――
 と感じたものだった。
 それでも島田はふるい落とされることもなく、限られた人員の中に残ることができた。普段であれば、よくやったと自分を褒めてあげるのだろうが、どうしてもそんな気分にはなれなかった。
――ホッとした――
 というのが本心だったのかも知れない。
 その思いがあったからか、缶詰め状態になっても、ノイローゼには完全にならなかった。ノイローゼになるよりも先に、感覚がマヒしたのだ。
――ノイローゼになるのが先か、感覚がマヒするのが先か――
 これが、研究所での二度目のふるい落としだったのだ。
 二次審査にも合格した島田は、研究にいそしむ毎日で、いろいろなソフトを開発し、研究員としてなくてはならない存在になっていった。
 だが、そんなある日、坂崎教授から引き抜かれたのだ。
 島田としては、
――僕はここには必要不可欠な人間のはずなのに、どうしてこんなにも簡単に引き抜きに応じるんだ?
 と、疑問に思った。
 しかし冷静になってまわりを見てみると、自分と同じようなレベルの人が研究所にはひしめいていた。
――僕なんかいなくても、まわっていくんだ。結局僕は歯車の一つでしかなかったんだな――
 と思い知らされた。
 その思いもあって、ロボット工学の研究所への引き抜きに、何の抵抗もなく応じることができた。
――でも、また同じ缶詰めだ――
 と感じたが、今度の缶詰めは今までとは違っていた。
 ロボット工学というのは、秘密主義であり、他の人の知らないことを自分たちだけが知っていることに優越感のようなものがあり、嫌な気はしなかった。それが、このお話の最後の大団円の含みとなるのだが、それはラストで話すことになるだろう。
 ここで缶詰めにはなっていたが、表で飲んだり、友達と会話することは意外とフリーだった。もちろん、箝口令が敷かれているものも当然あるのだが、それなのに、結構開放的なのはそれだけ研究員が信用されていると思っていたのだ。
 島田は、真田を中心に、早苗や千尋を見ていると、
――三すくみのようだな――
 と感じていた。
作品名:WHO ARE ROBOT? 作家名:森本晃次