小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

WHO ARE ROBOT?

INDEX|27ページ/31ページ|

次のページ前のページ
 

「税金泥棒とまで言われかねないからね。だから、僕たち研究員は世の中の人からは白い目で見られる時代もあったんだ」
「高度成長期などはそうかも知れませんね。いけいけドンドンの時代には、第一線の労働力が一番世の中を支えているというプロパガンダがあったんでしょうね」
「それはそうなんだが、労働者の地位や階級というのは、最低限の生活しかできなかったことから、本当にその他大勢にしかならなかったんだ。今の時代からは信じられないかも知れない生活をしていたんだよ」
「今は今で大変ですが、昔も本当に大変だったんでしょうね」
「その通りだよ。私のところの研究は、当時ロボット研究ということをあからさまにしていると、世間からそれこそ夢物語のように言われるだけだったので、おおっぴらにロボット研究をしているとは言えなかったんだ」
「そうだったんですか?」
「ああ、だから、私たちの研究所は、医学関係の研究所の中に入っていて、実際には、不治の病への研究や、不治の病ではなくとも、重病に対しての特効薬の研究をしていたんだよ」
「なるほどですね。表向きはというわけではなく、本当に医学研究所の中に入っていたということですね」
 と、島田は繰り返すように、念を入れて語った。
「その通りだよ」
 島田がどういうつもりで繰り返したのか分からなかったが、教授はそのことにこだわることはしなかった。
――それにしても、教授は何のために今頃、しかもこの僕にどんな話をしようとしているのだろう?
 と感じた。
「その時に私は医学関係の研究員である人間と結構仲が良かったんだ。同じロボット工学の研究員は変わり者が多く、あまり会話はなかったんだけどね。誰が何を考えているのか分からないという雰囲気だった。もっとも、それはこの私を筆頭にということになるけどね」
 と言って、教授は笑った。
 島田もつられる形で笑ったが、今からどんな話があるのかを考えると、心底笑顔になどなることはできなかった。
 教授は続けた。
「その時に友達になった研究員は、私と同い年だったんだ。彼は真剣に不治の病を治す薬の開発に燃えていたんだよ」
「薬の開発というのは想像もできませんが、結構難しいんでしょうね」
「そうなんだ。彼は優秀な研究員で、教授からも一目置かれていたようで、他の研究員からも尊敬されていたと聞いている。もちろん、人の心の中までは読み取ることなどできないので皆の本心は分からないけどね」
「ええ、それは確かにそうだと思います」
「でも、彼に対しての陰口や悪口はどこからも聞こえてこなかったんだ。もちろん、彼の才能に対しての嫉妬や妬みは他の人にもあったと思うけど、それが彼の人間としての価値を落とすことにはならなかったんだ。やはり彼は人間としてもできた人だったんだろうね」
「そういう人は結構いるんじゃないかって僕は思っています。それを感じるか感じないかということが、人間の資質を物語っているのではないかと思います」
「私もその通りだと思う。彼は研究に関しては一徹で、それこそ、自分には結構厳しい人でもあったんだ。当時、自分に厳しく他人に優しい人間は立派な人間だという思いは皆が持っていたからね」
「それは今もあると思いますよ」
「今とは若干違っていると思う。時代も違っているし、当時があって今があるわけだから、古い時代の方がパイオニアとしての存在感が強いと思うんだ。確かに過去を踏まえて今があるんだから、今の方が過去を踏襲しているという意味では形づけられていると思うんだけど、一概にも言えないと思うのは私だけなんだろうか」
 と教授がいうと、
「そんなことはありませんよ。私は過去の先駆者がいたから今があると思っているし、歴史が現在を作っているという考えから、過去のことを知るのは楽しいと思っています」
 という島田の言葉を聞いて、教授は安堵の表情になった。
「そんなところなんだよ。私が君に興味を持ったのは」
「どういうことですか?」
「君のその言動は、私が想像している言葉とピッタリくる時が結構あるんだよ。私の考えがドンピシャで的中する。それが君と私の相性であり、お互いに成長できるところだと思っているんだ」
 という言葉を聞いて、教授がどれほど自分を認めてくれているかということにビックリさせられた。
 さらに、
――教授はまだこの地位まで上り詰めて、まだ成長という言葉を自然に口にできるんだ――
 と感じた。
 しかも、その言葉が嫌味ではなく、自然と聞いている人に受け入れられそうな雰囲気は教授の一番の魅力だと思っている。
 教授というとどうしても堅物で、とっつきにくい相手だと思われがちだが、この人に限ってはそんなことはない。そう思っているのは自分だけではないということも実感している島田だった。
――そんな人でもないと、いくら引き抜きとはいえ、まったくの畑違いのロボット工学への道を目指すわけもない。せっかく培ってきた今までの道を犠牲にしてまで飛び込むのだから、普通なら考えられないことだ――
 と感じていた。
 教授が本題に入った。
「実はその親友がある日私に頼みごとがあるというんだよ」
「どういう話ですか?」
「彼はさっきも言ったように、不治の病を治すための研究をしていた。薬でいかに治すかというのが彼の目標で、そのためにだいぶ無理をしながらの研究をしていたようなんだ」
「何か切羽つまったものでもあったんでしょうかね?」
「当時、彼の母親が不治の病に罹っていて、余命も宣告されていたようなんだ。だから彼は母親を助けたいという一心だったんだが、正直に言って、彼がいくら研究を推し進めても、彼の母親を助けることはできないんだ。余命が一年と言われていたからね」
「一年ですか……」
「ああ、一年というと、正直今開発が終了していたとしても、間に合わないんだよ。君になら分かると思うんだが、開発が成功したとして、棒物実験、臨床試験などいろいろな試験を経由して、しかも法律的に認証されなければいけない。そこまでにはかなりの時間を要することになる」
「でも、そんなことは親友の方も分かっていたんでしょう?」
「それはもちろんさ。でもそれでも彼は無理をやめなかった。母親のために開発していた自分にきっと彼は途中で気が付いたんだろうね。そのことが彼を背徳心に導いた。彼は彼なりに苦しんだと思う。彼はそんな人間だったからね。だから、せめてもの罪滅ぼしの気持ちがあるのか、一刻も早く研究を済ませてしまいたいという義務感に支配されてしまったのかも知れない。次第に彼は疲労から、身体を壊してしまうことになったんだけどね」
「そうなんですか? 同じ研究員として心が痛む気がします」
 教授の話を聞いていると、無意識にであるが、島田は自分も三十年前にタイムスリップしたかのように感じながら、話を聞いていた。
「彼は、ある日恐ろしいことを言い出した。私に殺してほしいと言い出したんだ」
「えっ?」
 あまりにも話が突飛すぎて、思わず腰を抜かしそうになった。
 話をするにも前後を考えて話をするのが教授のいいところのはずなのに、いきなりこの突飛な話はなんだというのだろう?
作品名:WHO ARE ROBOT? 作家名:森本晃次