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WHO ARE ROBOT?

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――確かにその通りなんだよな。でも、真田さんもよく言うよな。相手の考えに土足で踏み込んでくるような言い方なんだよ。本当は腹が立つんだろうけど、あまりにも的を得ていることで、こちらとすれば、何も言えなくなってしまう――
 と考えていた。
 島田は、自分では、ズバズバと言いたいことを言えるタイプだと思っていた。しかし、相手にズバリ指摘されると、ここまで何も言えなくなってしまうなど、思ってもみなかった。
 真田は、島田の考えている顔を見ながら無表情だった。島田が何も口にしないことにイラついているわけでもなければ、何かの答えを待っている様子もない。もしそうであれば、顔に出るからだ。
――ここまで無表情になれるなんて――
 と、完全にヘビに睨まれたカエルになってしまった自分を感じていた。
――僕がこんなにも相手に臆するなんて――
 人にはない能力を持っていることで、他人に対して優位性しか感じてこなかった島田には、まるで青天の霹靂のような感覚だった。
――ひょっとして、真田さんには、僕にはない能力を持っていて、その力のおかげで、優位性しか感じていないのでは?
 と感じた。
 それが自分と同じ能力でないことは分かっている、島田は自分と同じ能力を持っている人間。坂崎教授など、その能力の潜在性を見ていて分かったのだ。
 しかし、真田には能力を保持していることを感じない。自分に優位性を持っていることで感じることだった。
――人に対して優位性を感じている人は、相手にない能力を持っていると思っているのかも知れない――
 と感じたが、その優位性も相手にない能力についても無意識なのだろう。
 そうでなければ、もっと相手に優位性を強く感じるはずである。優位性を感じながら、
――相手に嫌われたらどうしよう――
 という思いが見え隠れしているはずである。
 そういう意味では真田にはそんな感覚は感じられない。だから優位性も感じているに違いないし、自分にない何かの能力を有しているのを自覚しているに違いないと思えた。
――でも、真田さんが感じている優位性というのは、この僕にだけなんだろうか?
 と感じた。
 島田の場合はまわりのほとんどの人に今まで大小の差こそあれ、優位性を感じてきたつもりだった。
――優位性を感じると、知らず知らずに言葉が出てくるものだ――
 と感じていた。
 まわりの人に助言をしたり、嫌われるかも知れないと思えるようなことでも、大丈夫だという根拠の元に口に出したこともあった。その思いが過大だったために、相手に本当に嫌われたこともあったが、そんな相手は別に嫌われても構わないと思う人ばかりだった。
――しょせんは、僕に追いつくことなどできないやつなんだ――
 と考えてしまい、むしろ嫌ってくれた方がこちらから相手をバッサリと切るよりも、気が楽になるくらいだった。
 島田には、そんな相手は結構いたような気がする。
――一緒にいて、害しかないやつって、まわりにはこんなにもいたんだ――
 と感じ、わざと嫌われるようにした時期があった。
 きっとそんな時、
「あいつは協調性がない」
 と、島田から絶縁されたやつは、まわりに吹聴していたことだろう。
 その話を聞いて、島田をそれまでと違った目で見る人間は、
――こんなやつは信じられない――
 として、こちらから切ることができた。
 自分から探りを入れる手間が省けたことをありがたいと思った。粛清と言ってもいいかも知れない。
――粛清というと、独裁者のようだな――
 と考えたが、独裁者がすべて悪いとは思えない。
――国や民族への思いが強く、ある意味、人民を強い力で導くことも時としては大切ではないだろうか。それが独裁であったとしても、やり方次第では強力な塊となって、まわりの力に左右されない国家が出来上がるんだろうな――
 と思っていた。
 独裁を、
――自由と平等に対する冒涜――
 として一刀両断にするのも、人間の持っている一種のエゴなのかも知れないと思う島田だった。
 こんなことを言えば、時代に沿わない発想になるのかも知れないが、時代というのは動いている。半世紀前には当たり前だったことが今では間違いとして考えられていることだってあるのだ。
 要するにどれだけ時代と歴史を正しく判断するかということではないだろうか。
 島田が教授の友達の死の真相を知ったのは、それから少ししてのことだった。まだ真田とは仲良くなる前だったので、いつも一人だった島田を教授が飲みに誘ったのだ。それまで教授も島田を誘うこともなく、いつも一人だった。当然、他の研究員が誘われることもなかっただろう。
「島田君。今日一緒に呑みに行かないか?」
 教授からの誘いはいきなりで、青天の霹靂でもあった。
「どうしたんですか、教授。珍しいですね」
 島田は教授に引き抜かれた時のことを少し思い出していたが、あれから時間も結構経っている。実際の時間の感覚よりも教授と一緒に話をしたことの方がかなり昔のことのように思えた。
 二人はなるべく研究所から遠い場所を選ぶことにした。研究所の連中に見られたくないという思いがあったわけではないが、誰も知らない場所に行ってみたいという思いはお互いにあったようだ。
「一度気になっている店があったので、実はすでに予約を入れてあるんだ。一緒に行ってくれるよね?」
 教授が先走って何かをするという性格であることは分かっていたので、別に驚きはしないが、それだけ島田が断ることはないという考えがあった証拠であろう。
 その店は奥に個室が数部屋あり、ちょうど二人用の小部屋もあったので、そこを予約していた。
「お客さんもいませんので、四、五人用のお部屋でも構いませんよ」
 という店主の誘いを丁重に断って、教授は敢えて、この小部屋を予約したということだった。
「君と話をする時は、これくらいの狭さの部屋がいいと思ってね」
 島田も、狭いことにこだわりはなかった。むしろ、二人だけの話ともなると、狭い方が切実な感じがして、刺激が得られそうで願ったり叶ったりだと思っていた。
「いえいえ、むしろこれくらいの方が落ち着きます」
 島田は、落ち着くという一言で片づけたが、教授もきっとその一言に含まれている感覚を理解したことだろう。
「今日は、少し昔話をしようと思ってね」
 と、教授が切り出した。
「ええ」
 という返事をするが、島田はそれほどかしこまった気分にならなかったのは、教授の選んだ部屋の広さがちょうどいい緊張感に包んでくれたからではないだろうか。
「あれは、私がまだ研究員として新米だった頃のことだったかな? そう、ちょうど君くらいの頃だっただろうか。その頃はまだロボット工学の研究というと、まるで夢物語のような感じに世間から見られていて、肩身の狭い思いをしていたものだよ」
 教授の新米の頃というと、今から三十年以上前になるのではないだろうか。今ではすっかりロマンスグレーの様相を呈してきた教授も、当時は、脂ぎった顔に、視線をギラギラさせた青年だったに違いない。
「そうでしょうね。研究というのは、結果が出て初めて認められるものだと思います。いくらプロセスがうまく行っていても結果が出なければ、何にもなりませんよね」
作品名:WHO ARE ROBOT? 作家名:森本晃次