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WHO ARE ROBOT?

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 もちろん、絶頂だと思っている連中に、
「下を見てみろ」
 というのは難しいことだ。
 島田は、絶頂になっている連中を見るたびに、合格発表で不合格という烙印を押しつけられた連中のあの寂しそうな表情を思い出していた。
 彼らは悔しそうな表情をしているわけではない。目の前で歓喜の連中を見ているのに、その状態を悔しく感じないのは、自分にも後ろめたい気持ちがあるからではないかと思っていた。
「受験なんて、その時の体調だけでも大きく左右されたりするからな。運が悪かったということで片づけることもできる」
 と言って、不合格者を慰めているのを聞いたことがあるが、正直、こんな言葉はタブーではないだろうか。
 しかし、不合格の人間には通用しない。そんな言葉を受け入れるだけの気持ちに余裕はないのだ。
――それなのに、どうして後ろめたい気分になるんだろう?
 これは、島田には今でも疑問だった。
 島田は、これまでに、
「不合格」
 という烙印を押されたことはなかった。
 高校受験、大学受験、就職と、無難に合格してきたからだ。
 ただ、島田は大学に入学してから、ずっと下ばかりしか見えなかった。
 まわりの連中は、大学生活を、
――普通の大学生――
 として謳歌してきた。
 そんな連中から自分が下回るはずもなく、そのせいもあってか、大学が自分の中で、
――狭い世界。限られた世界――
 にしか見えなくなっていた。
 大学でソフト開発を目指したのは、そんな中でも島田にとって自分を顧みた時、
「俺は、何もないところから何か新しいものを作ることに造詣があって、その道に進んでみたい」
 と感じるようになっていた。
 それがソフト開発だったのだ。
 理学系へ進むのが本当はいいのかも知れないが、島田の苦手科目は数学だった。理工系は好きなのに、数学だけは苦手だった。その原因は小学生から中学生になった時に発覚した。
 小学生の頃の算数は、
「途中の過程がどうであれ、間違わずに答えにたどり着ければいい」
 というものだったのだが、中学に入ると、何でも公式に当て嵌めて解く学問になってしまい、せっかく頭でいろいろ考えようとしていた算数も、過去の数学者が発見した公式に当て嵌めるだけで解ける数学に大きな疑問を感じたのだ。
――数学というのは、算数の延長系ではなく、これでは数学は算数とはまったく違った学問のようではないか――
 と感じた。
 その思いを解消できるようになったのが、先ほど述べた大学入試への受験生期間だったのだ。
 島田は、ソフト開発を始めた頃、大学に入学した頃ほど、自分に自信があるわけではなかった。確かに他の大学生に比べると比べものにならないとは思ったが、ソフト開発を目指している連中のレベルは、想像以上に高いものだった。
 島田はそれでも、高いレベルの中でも別格と言われるくらいに高度なプログラム開発テクニックを持っていて、
「君は優秀だ」
 と当時の教授からも言われていた。
 島田が大学二年生の頃であろうか。大学教授の中に、少し疑問に感じる人がいた。その人は無難な道しか選ばない人で、講義もただ漠然としているだけだった。
 ただ、他の教授も大差のない状況だったのに、なぜかこの教授にだけ、他の人とは違う嫌な部分があった。
 やる気がないのは最初から分かっていたが、どうやらその教授は、普段から自分が研究している情報処理という科目に疑問を感じているようだった。どうしていまさら疑問を感じるのかとも思ったが、いまさらではなく、最初から向いていないと思いながら、ずっと自分を偽って今まで生きてきたようだった。
 それだけ長く偽り続けられるというのも、ある意味ですごいことなのだろうが、この教授を見ていると、まるで自分を見ているような気分になっていた。
 最初は無意識だったが、人を見ていて意味もなく嫌になるなど今までになかったことなので、何とも嫌な気分になったのも仕方のないことだった。
 しかし、その教授が別の大学に転勤になったことで、彼の顔を見ることがなくなると、それまでの嫌な気分がなくなった。
――やっぱり、あの教授の顔を見ているだけで、嫌な気分になっていたんだ――
 と思い、実際にその教授がいなくなってからは、教授の顔すら思い出すことはなくなっていた。
 その時、
――俺は自分にとって都合の悪い人を簡単に忘れることができる性格なんだ――
 と感じるようになった。
 島田は大学生活の間で、その時だけ、自分が、
――情報処理には向いていないのではないか――
 と感じた。
 情報処理の会社に入ってから、しばらくは順風満帆の時間を過ごしていたが、いつしか急に仕事をすることに疑問を感じるようになった。ちょうどその時、ロボット工学の教授が、このソフト会社へ来ることが何度かあった。
 社長と知り合いということで、たまに立ち寄っているだけのことだったのだが、その時島田は、
――どこかで見たことがあるような――
 と感じたが、それが誰なのか、思い出せなかった。
――無理に思い出すことなんかないんだ――
 と感じたが、本来なら、知っている人に似ていて、その人が誰なのか思い出せないような状況に陥ってしまうと、そのまま放っていくことができない性格のはずだった。
 それなのに、どうして無理に思い出すことなんかないと感じたのか分からない。普段から自分の将来のことは分かっていたはずなのに、過去のことを思い出そうとして思い出せないことをそのまま放っておくというのは、性格的に無理なのは当たり前のことであった。
 島田は教授のことが気になり始めた。気が付けば無意識に教授の顔を見ていたり、いつの間にか目が合っていたりしていた。
 教授はニッコリと笑って余裕の表情を見せていたが、その表情には嫌味なところは何もなかった。
――それなのに――
 教授にニッコリと微笑まれて、島田は顔が硬直しているのを感じた。
――どうしてこんなに顔が固まってしまっているんだ――
 相手に余裕のある表情をされると、こちらも負けじと余裕の表情で応酬するはずなのに、なぜ怯えているわけでもないのに、顔が硬直しているのか、訳が分からなかった。
 島田は、教授の顔を見ながら、まるで時間が止まってしまったかのような感覚に陥り、まわりが凍り付いていて、動いているのは自分だけの気がした。
 いや、自分が動いているわけではない。考えることができることで動けると思い込んでいただけなのだ。まわりの連中は完全に固まってしまい、表情もそのままだった。こちらから見ていて、そんな連中が何かを考えているなど信じられなかった。だからこそ、何かを考えることができる自分だけは、何もかもが凍り付いたこの世界で動けるのだと思ったのだった。
 しかし、凍りついた世界の理由が、
――時間が止まっているからだ――
 と感じると、今何かを考えている自分に矛盾を感じる。
――今考えていることが未来だとすると、過去から現在を経由して未来に進んでいることになる。もし逆に過去だとすれば、ただ思い出しているだけなので、時間の経過には関係のないことのように思えた。だとすれば、考えていることはすべてが過去だということになる――
 と考えていると、
作品名:WHO ARE ROBOT? 作家名:森本晃次