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WHO ARE ROBOT?

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――やっと皆が自分を隠さずに表に出すようになったんだ。この俺と同じように――
 と感じていた。
 もちろん、だからと言って皆に対して仲間意識を持ったわけではない。ただ、
――それでいいんだ――
 と皆が敵視している状況に自分が馴染みやすいことを感じていた。
 受験生にとって過酷な冬を迎え、年明けには受験本番になった。そんな時、島田は自分の合格だけは信じて疑わなかったが、まわりの受験生を見ていて、誰が合格し、誰が不合格なのか、その様子を見ていれば分かったような気がした。
 誰もが同じような雰囲気なのに、どうして誰が合格するのかが分かったのかというと、
――合格する人は、この状況に馴染めていて、不合格の人は、どこかぎこちなく感じる――
 と思ったからだ。
 実際に誰が合格できて合格できなかったかなど、あとになっても分かるはずもない。一人一人顔を覚えているわけではないし、合格発表の時、合格不合格を見て一喜一憂する姿に、受験の時のぎこちなさは感じられないからだ。
 不合格の人の場合、相変わらずの暗い表情になっているが、受験の時の雰囲気とは明らかに違っている。
 合格発表でのドラマは、歓喜に溢れている連中と、地獄を見て、人生のどん底を感じている人の二種類だ。受験の時に皆一様に暗い雰囲気を醸し出していたが、その状況は厳密に見れば一人一人違っている。しかし、合格発表での雰囲気は、二種類でしかないのだ。そのことを分かるには、どちらにおいても、他人事で見ることができる人でなければできないことだろう。それを思うと、それができるのは自分一人だけなのだと島田は感じていた。
 島田は、想像していたように合格できた。合格できて、それなりに安堵はしたが、他の人のように歓喜するようなことはなかった。
――やはり俺は、少々のことでは感動なんかしないんだな――
 と思った。
 受験勉強はそれほど楽なものではなかった。得意科目は成績が抜群だったが、苦手科目を克服することは、他の受験生と同じでそう簡単にできることではないと思っていた。
 そもそも苦手科目というのは、自分が嫌いな科目である。どうして嫌いなのかというと、自分の中で論理的に考えることができないからだ。少しでも矛盾や疑問を感じたら、それが解決しなければ先に進むことはできない。そのことをよく分かっていた島田は、他の人に比べて、余計に苦手科目の克服には苦労するだろうと自分で感じていた。
 予備校でも、そのことを理解していたので、予備校の先生からは、
「苦手科目を克服するのは大変だけど、ちょっと考え方を変えてみると、何か違ったものが見えるかも知れないよ」
 と言われた。
 島田には、そんなことは分かっていた。分かりすぎるくらい分かっていたのだ。ただ、先生の言っていることは至極正論で、逆らうことはできなかった。逆らうことは簡単だが、ここで逆らってしまうと、自分は二度と苦手科目を克服することはできないと思い、先生の言葉をぐっと飲み込むことにした。
――確かに、ちょっと考え方を変えるだけでいいんだよな――
 と自分に言い聞かせたが、それができるくらいなら苦労もしない。
 そう思うと、苦手科目を無理に勉強するよりも、得意科目をさらに伸ばすことに力を入れた。
――苦手科目の点数がいくら悪くても、得意科目さえ最高の点数が取れればいいんだ――
 と思ったのだ。
 普通に考えればその考えは危険なはずだ。
 受験生のレベルが高く、合計点数の合格ラインが上がってしまうと、いくら得意科目で点数を稼いでも、追いつけないかも知れない。だからと言って、無理だと思っている苦手科目の克服に力を費やして、無駄な時間を過ごすことを思えば、どちらがいいのだろうと思うと、島田は時間の無駄をしない方を選択した。
 実は、これが先生の話をしていた、
「ちょっと考え方を変えてみる」
 ということだったのだ。
 得意科目を勉強していくうちに、苦手科目のどこが納得できないことだったのかが、次第に見えてくるように感じてきた。
――今なら分かるかも知れない――
 と感じて、島田はこの時とばかり、苦手科目を勉強してみた。
――なるほど、これなら俺にも理解できるぞ――
 と感じた。
 勉強の楽しさの真髄を初めて感じたような気がした。
――世の中には精神論を唱えて、楽をするのを嫌って、自ら困難な道を選ぶことを美化する兆候があるけど、それって本当なんだろうか?
 と感じるようになった。
 考えてみれば、島田は自分が納得のいくこと以外、信じることをしなかった。
――それが自分のポリシーであり、これは他の人にはないことで、自分だけにあることだ――
 と思うようになった。
 島田は受験勉強の間に、できることはすべてやり尽くしたという気がしていた。その証拠が、
――もう納得のいかないことはなくなっていた――
 という自負があったからだ。
 だから、受験本番では、自分の合格は揺るがないものだという自信があり、まわりを見るだけの余裕があったのだ。
 そんな時、
――こいつは合格するだろうな。こいつは不合格だろうな――
 と考えていた。
 自分のことであれば、少しの先のことが見えているはずだったのに、受験に関しては見ることができなかった。一抹の不安もあったが、受験本番で、まわりの人の合格不合格を想像していると、次第に自分が合格する姿が見えてきた気がした。
――やっぱり、受験ということで柄にもなく緊張していたんだろうか?
 と感じていた。
 島田は、自分の合格を確信しながら試験に臨んだことで、合格発表でも余裕があった。
 もし、少しでも合格に不安があったのなら、発表を見るまでは、他の人のように緊張で胸が張り裂けそうになっていたであろうし、合格が確定した瞬間には、今度はまるで天にも昇る心地になっていたことだろう。一気に精神状態が跳ね上がることは、島田にとって今までにはなかったことだ。そうなればどうなるのか、自分でも想像がつかなかった。当然地に足がつくことはなく、何も考えられない状態に陥っていたに違いない。
 合格発表の時、まわりを見て、今度は合格した人の表情を見ることで、この人が受験の時、どんな顔をしていたのかということを想像してみた。想像できたのは、やはりあの時の暗い雰囲気にぎこちなさがなかった様子だった。
 大学に合格すると、島田は勉強だけに力を注いだ。まわりではサークル勧誘が行われていたり、友達を作ることに躍起になっている人を横目に見る形になったが、
――あれが、合格発表の時の連中と同じ人間なんだ――
 と感じた。
 歓喜に満ちた表情は、島田にとっては発展途上に思えた。それは、目標達成に対しての発展途上であり、その人に確固たる目標があるかないかは問題ではない。合格の歓喜は、合格した人に差別なく訪れるものだ。だから、合格の絶頂は絶対にゴールではないのだ。
 だが、友達を躍起になって作ろうとしている連中、サークルの勧誘を自分が上になったような錯覚を感じながら見下ろして見ている連中。その表情は完全に有頂天だった。
 有頂天は絶頂を迎えていた。
――これ以上の幸福はないんだ――
 という感覚が、錯覚であると誰もが感じていない。
作品名:WHO ARE ROBOT? 作家名:森本晃次