WHO ARE ROBOT?
「すみません。ロボット工学の研究室はどちらですか?」
と、、受付で聞くと、
「ああ。島田さんですね。お聞きしています」
と言って、受付の女性事務員の後ろから声が掛かった。
「私は、教授から言われて案内をいたします者です」
と言って、教授室まで案内してくれた。
教授室の前で立ち止まり、背筋を伸ばすような雰囲気で案内人がトントンと扉を叩くと奥から、
「はい、どうぞ」
と少し籠ったような声が聞こえた。
案内人の態度が礼儀正しすぎてかしこまってしまった島田だったが、中に入るとそんな緊張感はすぐにほぐれた。
「やあ、君が島田君ですね。お待ちしていましたよ」
と言って、ソファーに手招きしてくれた。
教授の服はカジュアルなもので、まるでこれからゴルフにでも行きそうな雰囲気で、他で見ればただのおじさん。まさか教授だとは誰も思わないのではないかと感じた。
教授は島田の顔を少し眺めて、
「なるほど、君が島田君なんだね?」
と、最初にそう言って招き入れてくれたはずの教授が、またしても島田のことを再確認していた。
「ええ、私が島田です」
と、島田も自分から余計なことを言うつもりはサラサラなかった。
「単刀直入に言うが、うちの研究所に来ないかね?」
と言われて、さすがに驚愕した。
――何を言っているんだ。この人は――
まるでハトが豆鉄砲を食らったかのようにあっけにとられてしまっていた。
ただ、なるべく表情を崩すような気にはならなかった。教授と最初に顔を合わせた時、
――やはり、この人は俺を悪いようにしようとは思っていないんだろうな――
と感じた。
これは自分の将来が分かったからだというよりも、島田自身の洞察力によるものだった。人間観察については初対面の時ほど、他の人よりも洞察力は確かだと以前から思っていたので、初対面の人に対して感じた思いで、そのあとの自分の行動は決まると思っている。
今まで島田の感じた洞察力と、自分の将来が分かってからのそれぞれの延長線上に狂いはなかった。洞察力で、自分にとってよくない相手だと思ってその人と付き合わなかったとして、あとから分かったこととして、その人が自分を欺くような人だったりするので、
――よかった。仲間にならなくて――
と感じ、
逆に、自分と気が合うと思った人で、将来、自分にいい影響を与えると思った人とは、親友でいることができた。
ただ、それは半永久的なものではなく、長続きしないことの方が多かった。それがゆえに、
――人というのは、そう簡単に信じられるものではない――
という思いに駆られることもあり、人付き合いの難しさから、引き際については、
――将来のことを分かる性格が幸いしている――
と感じた。
島田が、
――自分のこの力を人に知られたくない――
と思うのは、引き際という意味でも大きかった。
下手に人に知られてしまって、引き際に引き止められて、自分が抜けられないことを危惧していたからだ。
島田は自分の性格に関してはあまりいい印象を持っていない。嫌いな部分も多いということだ。
特に嫌な部分としては、
――自分に自信が持てないところだ――
と思っていた。
だからこそ、こんな嫌な部分を補うために、特殊な能力を授かったと感じた。
この能力に気が付いたのは、中学になってからだった。
中学になると思春期が訪れ、それまでにない自分の性格が出てくる。その時、普通であれば、
――これは思春期だから出てきた性格なんだ――
と思うのだろうが、自分の将来について漠然としてではあるが分かるようになるというのは、
――どうにも思春期ではないような気がする――
と感じた。
もっとも、この能力は自分だけのものではなく、他の人も個人差こそあれ、誰でも持っているものだと思っていた。
そう思っていた時期は高校に入学するくらいまで続いた。中学時代のほとんどが、この能力は誰もが持つものだと思っていたので、自分だけが特殊だとは思っていなかった。しかも、まわりは自分よりも優秀だと思っていたこともあって、まわりは皆、
――俺のことなんかお見通しなんだ――
と感じていた。
島田という男性は、中学時代には密かに女生徒から想われていた時期があった。
実は島田はそのことを悟っていた。
――女の子から想われるってどんな気持ちなんだろう?
想われているというのが分かったのは、将来における自分のことが分かったからで、そうなると、将来の印象が漠然としているという理由と、さらに女性に想われることに漠然とした印象しかないことから、
――まるで他人事――
という印象しかなかったのだ。
実際に島田に告白してくる女の子もいたが、島田にはどう対応していいのか分からず、答えを伸ばしてしまったことで、せっかくの交際のチャンスを棒に振ってしまった。
島田は、その時の感覚があることと、自分の力が思春期から見えてきたことで、
――ひょっとすると、大人になってしまったら、この能力はなくなってしまうかも知れない――
と感じるようになった。
だが、この思いは間違っていたことが分かった。きっと高校に入った時、
――これは他の人にはない、自分だけの能力なんだ――
ということが分かったからである。
島田は、大学に入学した頃、やっと自分のことが分かりかけてきたのだが、相変わらず他人事のように感じる思いだけは拭い去ることはできなかった。
――大学生というのがこんなにも開放的だったなんて――
と、それまで自分が他人とは違っていることを意識していた島田は、少しビックリした。
人のことを分かるのは自分だけではないと思いながらも他人事のように感じていたのは、自分の中での矛盾だと思っていた。他の人も同じものを持っているという考え方がそもそもの間違いだったのだということに気付いてしまうと、あとは絡まった糸がほぐれていくように疑問に感じていることがことごとく解決していくはずなのに、最初の一歩が分かっていなかった。
大学に入るまで、人は基本的に自分を隠して、まわりに自分のことを知られたくないようにするのが本能のようなものだと思っていた。高校時代などは誰もは自分の殻に閉じこもっていて、まわりを露骨に敵視するような素振りすら見えたことで、その思いは核心に近いと思っていた。
しかしそれはあくまでも受験戦争という限られた世界に放り込まれたことで、誰もがまわりを敵視する環境に追い込まれたのだから当たり前だった。
誰も友達を敵だとなどと思いたくもないはずだ。だから、それでも敵だと思わなければいけない自分にジレンマを感じ、
「受験に打ち勝つのは自分に打ち勝つこと。欲や楽しみを捨てて、合格するまではすべてのことを我慢しなければいけない」
と、まわりの大人から洗脳されてしまい、さらに自分でも、
――そんなことは言われなくても分かっている――
と言わんばかりに、自分を追い詰めようとする大人に対しても、敵視してしまっているのだろう。
だからこそ、まわりすべてが敵だらけになってしまい、しまいには敵視しなければいけない自分に嫌悪を感じ、自分までもが信じられない状況に置かれてしまう。そんな状況を島田だけは、
作品名:WHO ARE ROBOT? 作家名:森本晃次