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WHO ARE ROBOT?

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 と思ったのは、彼の態度には、島田が考えていることを先にいうような相手だったのだ。
――今までの俺のようじゃないか――
 と感じたのだ。
 だが、彼はある意味、
――人たらし――
 だったのだ。
 彼は人の心を読むことに長けていた。相手の心を読んで、相手にいい思いをさせることで、悪くいえば相手を欺くことに長けていたのだ。
 同じ相手の心を読むことに長けている人には二種類の人がいるのではないか。一人は相手を欺く人。そしてもう一人は相手を欺かない人。
 彼の場合は、
――欺く人――
 の方だったのだ。
 人の心を読むという点では島田は完全に疎かった。そういう意味では相手にとって実にやりやすいタイプだったのだろう。
――こんなにやりやすい相手もいないな――
 と思われていたのかも知れない。
 そんな相手に引っかかってしまった島田だったが、彼は途中でそのことに気が付いた。自分が騙されているとはさすがに思えなかったが、
――彼と一緒にいていいことはない――
 と思ったのだ。
 彼の正体を知っていたわけではないが、
――彼と一緒にいることは自分のためにならない――
 と思い、彼には悪いと思ったが、次第に彼から離れていった。
 騙している方は、自分が騙されていることに関しては疎いもので、島田を欺くつもりだった彼は、結局、本人の気付かない間に島田から去られてしまって、置き去りにされていた。
 お互い様ではあるが、まるで笑い話のようだ。失礼ではあるが、島田にとっては、事なきを得たというべきであろう。
 元々二人は人種が違った。
 騙そうとした方は、一つのことに関してはかなり突出したところがあり、もし相手が島田でなければ、きっと騙し通せたかも知れない。
 しかし、島田は確かに一つのことに突出しているのは間違いないが、それ以外のことにも精通していて、騙す方の気持ちを分かるのも、当然といえば当然だった。
 島田のことをハッキリと知らない人は、彼の知識の豊富さが、判断力を研ぎ澄ませることで、騙されるようなことがなかったのだと思うのだろう。だが、本当は何事も人よりも先に分かってしまうことが島田が道を踏み外さない理由であった。しかし、それは人に分かりずらいことであり、表に出ていることだけを見て、
「島田は頭がいいからな」
 という一言で片づけられてしまうのだろう。
 それが島田には幸いしていた。
 本人としても、まわりから自分の本質を知られないことが自分にとって有利であるということを理解していた。人より先に自分のことを分かってしまうなど、まるで超能力のような力を、人によっては気持ち悪いと思うかも知れないからだ。
「自分のことが分かるんだから、人のことも分かるのかも知れない」
 と思う人もいるだろう。
 自分ですら分かっていないことを、先に他人から知られてしまうということは嬉しいはずもない。だから、島田にはなるべくなら、自分のこの能力を他人に知られないようにしないといけないと思っている。
 ただ、分かる人には分かるというもの。彼の能力にいち早く気が付いたのは、誰あろう教授だった。教授が島田を引き抜いたのは、島田の能力を研究に生かせると考えたからで、実際に島田を引き抜くのは、案外と難しいことではなかった。
 さすがに最初は島田も教授の言っていることがよく分からなかった。
「僕が教授の研究所に入所したとして、教授に何かメリットはあるんですか? 僕の専攻がロボット工学に直接影響するとは思えないんですが」
 と、教授との面談で、島田は教授の気持ちを分からないまま、探りを入れるように話した。
 島田の研究は工学系のソフト開発ではなく、事務処理系のソフトであり、一般的なITというべきであろう。
「確かに島田君の専攻は、ロボット工学に近いとは思えないんだけど、僕は君の専攻に対して興味があるわけではなく、君自身に興味があるんだ」
 とさらりと教授は言った。
 その言葉に力があるわけではなく、言葉に重みはあるのだが、セリフとしては聞き流されるほどアッサリとしたものだった。そのギャップに島田はドキッとして、教授が何を考えているのか、探ってみたくなった。
 教授はニッコリと笑っているが、その姿が忌々しく感じられ、落ち着いているつもりでも、教授を前にしている自分が今までにない緊張感に包まれているのを感じた。
「教授は、僕の何に興味があるんですか?」
 と聞くと、
「それは君が一番分かっていることだよね。ただ、君はそれよりも、どうして私が君のことを知ったのかに興味があるのではないか?」
 その日の面談は、元々就職した会社の部長から呼び出され、
「K大学というところがあるんだが、そこのロボット工学の教授が私の知り合いなんだ。教授が君に会いたいと言っている。悪いけど、今度訪れてみてくれないか」
 と言われた。
 部長から呼び出されて何を言われるのか見当もつかなかったが、まさか営業ではなく人を訪れてほしいなどと言われるとは思ってもいなかった。
「えっ、その教授という人を私は知りませんよ?」
「いいんだ。どうやら君の話を聞いてみたいと言っていたので、話をしてきてくれるだけでいいんだ」
「分かりました」
 島田は、よく分からなかったが、いきなり新入社員の自分を部長が呼び出したのだ。緊張しないと言えばウソになるだろう。
 島田は、自分の将来を分かる能力を持っている。部長から呼び出された時も、その内容がどういうものなのか、なんとなく分かっていたような気がした。それは漠然としたものだったが、悪いようにされることはないと思っていた。
 それを証明するように、最後になって部長から、
「悪いようにはしないから」
 と言われた。
 それを聞いて、
――やはり自分は将来のことが分かるんだ――
 と再認識した。
 再認識はしたが、やはり漠然としていた。それはどこまで分かるのか、その時々で違っていたからだ。
 相手のセリフまで分かることもあれば、これから起こることが自分にとっていいことなのか、悪いことなのかという漠然としたことだけしか分からないこともある。ただこの能力は、
――人に知られてはいけない――
 ということと、
――あまりこの能力に頼り切ってはいけない――
 という思いの二つを感じるようになったのだ。
 部長に言われるまま、教授と会うことになった。いや、
――会うことにした――
 と言った方が正解である。
「じゃあ、部長にお任せします」
 という言葉がすべてを表していたのだ。
 翌日部長から声を掛けられ、
「じゃあ、今度の金曜日、朝から教授を訪ねてくれるか? 向こうにはアポイントを取っておいた。教授は感激しているようだったよ。私としてもよかったと思っている」
 と言われ、教授との初対面となったのだ。
 いよいよ当日、K大学を訪れた島田は、懐かしさを感じた。自分の出身校ではないが、この間まで大学生だった自分が、またキャンバスにいるのだから、不思議な気がした。
 普段は先のことが分かると思っている島田なので、なるべく過去のことを振り返らないようにしていた。だから懐かしいなどという感覚はあまり味わったことはない。それだけにその時は素直に新鮮な気持ちになったのだった。
作品名:WHO ARE ROBOT? 作家名:森本晃次