WHO ARE ROBOT?
他の人はそれほど切羽詰まった状況ではない時に、島田だけが先に進んでいるのだから、まわりには彼の努力や悩みが見えるはずもなかった。
まわりがやっと問題点を絞り込み、初めて切羽詰まり出した時には、島田の中ですでに解決していることだった。すんなりと、こなしてしまっているように見えるのはそのためで、島田という男のすごさを誰も知ることはなかった。そういう意味では彼は損な性格だと言えるかも知れない。
彼は子供の頃から孤独だった。まわりに協調性がなかったのは、彼の悪いところなのかも知れないが、彼がすべてにおいて他の人よりも早く解決してしまうようになったのは、この性格があったからなのかも知れない。
それでも子供心に、
――どうして俺はこんなに孤独なんだ――
と、まわりに対して協調できないことに関して、感覚的に疎かった彼には気付かなかった。
だが自分がまわりの人に比べて、苦労を必要以上にしないのはいいことだと思っていた。まわりと違うと思っていた島田には、まわりの連中が皆同じ性格にしか見えなかった。もちろん、まったく同じだなどと思っているわけではないが、他の人が見て自分と他人の違いほどの距離を感じているわけではない。
遠くから眺めていると、皆が小さなかたまりにしか見えない。それが一人一人の個性を感じることができなくなっていて、自分だけが違っていると感じるのだった。
そして、違っている自分が他の人に比べて優秀であるということも感じていた。実際にそうなのだが、その気持ちを感じているということをまわりに知られるのは嫌な気がした。
だが、たまに、
――俺が他人よりも優れていることを、まわりの人間に思い知らせてやりたい――
と思うことがあった。
それが、世の中の理不尽を感じる時だった。
本当は島田には世の中の理不尽さは普段から感じているのは間違いないようだった。しかし、その感覚が普段はマヒしているようで、自分でもマヒしているということが分かっていなかった。
――自分の感じている感覚でマヒしている部分がある――
と感じている人がどれほどいるだろうか?
誰もそのことについて話題にすることはない。
本当は誰もが気付いていて、まるで暗黙の了解のようにお互いに話をしないようにしているだけなのか、それとも、まったく気付くこともなく、気付いた自分がやはり他の人と違って優れているからなのかのどちらかなのだろうと島田は感じていた。
島田は子供の頃、
――俺はロボットなんじゃないだろうか?
と感じたことがあった。
他の人間との違いを感じた時、他の人が普通の人間であり、自分の卓説した能力は、ロボットのような正確な頭脳を持っているからではないかと思っていた時期があった。
それこそ子供の発想なのだが、それはいくら彼が他の人と違って優秀だと言っても、本当に人間なのだから、子供のような発想を抱くことは至極当然のことで、そこに違和感がある方がおかしいとは思えなかったのだ。
島田という男は、大人になって子供の頃を思い返すと、自分がそういう人間だったということに気が付いた。他の人はなかなかここまで気付かないだろう。そういう意味でも彼はやはり他の人に比べて優れていたのだろう。
ただ、彼は子供の頃に聞いた言葉で一つ気になっていたのは、
「二十歳過ぎればただの人」
という言葉だった。
子供の頃には神童と言われて、
「末は博士か大臣か」
と言われていた少年が、大人になれば、他の人と変わらなくなるというような言葉である。
それは子供の頃にあった差が縮むということであり、子供の頃に伸びた背が、途中から伸びなくなるということなのか、それとも、子供離れした発想であっても、本当は当たり前の発想であり、他の子供にもちょっとした考え方の違いだけで、誰にでも考えることのできるものだったのかも知れないと感じた。
島田は、大人になってから、
――「二十歳過ぎればただの人」になりたかった――
と思っていた。
子供の頃からマヒしていた感覚が、大人になって気付いたことで、子供の頃、意識していなかったが、結構余計な気を遣っていたことに気付いたのだ。大人になってまで、こんな気を遣いたくないという思いが頭の中にあり、
――俺は普通の人間になって、他の連中のように普通に恋愛や青春をしてみたい――
と感じた。
大学に入った頃には、まだそこまで考えていなかった。自分が他の人と違っているということを武器に、友達もできるだろうと思っていた。それは集団の中に自分がいて、まわりを従えるということを楽しみに考えるようになったからだ。
彼が、問題点や問題に対して早く取り組むことができるようになったのは、
――自分の姿が見えるからだ――
と思っていた。
自分の近い将来が見えているということで、それが他の人と違って何でも先に進むことができるようだった。
自分の近い将来というと、
――俺がこれをできるようになると、まわりから尊敬の目を受けることができる――
だったり、
――これをこなることができて、まわりに教えてあげると、皆が自分を中心に輪を作ることができる――
という思いを勝手に想像していたようだ。
ただ、実際に問題点を絞り始めると、最初に見た自分の将来への発想を忘れてしまっていた。だから、自分がどうして他の人にないような先を見抜く力があるのか分かっていなかったのだ。
それに気付いたのは、大学に入学してからだった。
それまで友達などいなくてもいいと思っていたのに、大学に入って感じた大学という解放感に、どこか懐かしさを感じたのだった。
その懐かしさは、子供の頃のことだと思うようになると、
――友達というのもいいよな――
と感じた。
友達がほしいとまでは思わなかったが、ただ、
――人から慕われたい――
と感じ、その思いが正直な思いだったことを思い出したことから、子供の頃に自分が妄想していたのだと分かったのだ。
ただ、その思いを認めることは、自分の持っている能力を失ってしまうかも知れないと感じた。
――それは嫌だな――
とも思ったことで、島田の中で今までになかったジレンマを感じてしまったのだ。
島田は大学時代、実際に友達ができたこともあったが、長続きすることはなかった。
ただ挨拶するだけの友達はいなくもなかったが、その中から仲良くなりかけた友達もいたが、それは一対一で友達になりたいと思っている人ばかりだった。
島田もその方がいいと思っていたので、願ったり叶ったりだったのだが、実際にはすぐに仲がぎこちなくなり、自然消滅がほとんどだった。
つまりは、いつも同じ理由での友達解消だったに違いない。
ただ、本当に友達になったと言えるところまで仲良くなったのだろうか?
島田には、友達と言えるだけの相手だったのかどうか、疑問でしか仕方がない。
一度、
――彼は本当に友達だ――
と感じた人がいた。
彼は、島田の心を揺るがすような態度に出ることはなかった。無難な付き合い方であり、そんなさりげなさが彼にはありがたかったのだ。
――彼は本当の友達なんだ――
作品名:WHO ARE ROBOT? 作家名:森本晃次