WHO ARE ROBOT?
ただそれは真田の側の一方的な思い込みであって、本当は彼が好きになった女の子が図書館にいるという情報を掴んだことで、図書館いn立ち寄っただけだった。真田を発見したのはあくまでも偶然であり、真田がビックリした以上に、彼の方がビックリしたことだろう。うろたえていたと言っても過言ではない。
だが、真田自身もうろたえていたのだ。彼のその時の心境をまともに見ることなどできるはずもない。お互いに出合い頭を何とかごまかそうとしていたので、真田には、彼の理由が他愛もないものだと思ったのだ。
しかし、その時、お互いにごまかそうと思っていたこともあって、真田としては、
――まずいところを見られた――
と思った。
彼の方では、その時真田が何を読んでいたのかなど別にどうでもよかったのだが、まさか真田が読んでいる本を見られるのを嫌っているなどと思ってもいないので、話題をそらそうとしての話が本の話になった。
触れられたくない部分に触れられたと思った真田は、彼に対して露骨に嫌な顔をした。それを見た彼も、
――まずい――
と思ったのか、その場が完全に凍り付いてしまった。
そこから二人の亀裂は絶対的なものとなり、そのまま気まずい中、友達としては自然消滅したかのようになってしまったのだ。
友達は、好きになった女の子と、めでたく付き合うようになったようだが、長続きはしなかった。好きになった女の子も彼のように閉鎖的な性格で、彼は自分と似た者同士だと思った人間とはうまくいくものだと思っていた気持ちが、完全に崩壊してしまったようだった。
――僕との関係で分かっていたことだったはずなのに――
と、彼が別れてしまったという話を聞いた時に感じたことだった。
それからの彼がどうなったのか分からないが、真田はその時の経験から、自分がロボットに興味を持っているということを封印しようと、再認識したのだ。
大学に入学し、やっとロボット工学の勉強を解禁した。
実際に高校時代には心理学の本を読むことはあったが、ロボット工学の本を読むことはなかった。最初にロボットに興味を持ち、三原則から感じた限界を払拭するために心理学の勉強を始めたのだが、勉強していくうちに、
――それぞれ平行して勉強する必要があるんだ――
と思うと、ロボット工学の方が先行してしまっていることを感じた真田は、ロボット工学を封印することで心理学に追いつかせることを選択したのだった。
心理学は勉強すればするほど、奥の深さを感じさせられた。ロボット工学にはまだ奥の深さは感じられなかった。それだけ研究するのに三原則の限界が結界になってしまって、頭打ちの状態なのだろうと感じていた。
そういう意味で、心理学の勉強の方が、真田を夢中にさせていた。本を読んでいるとその時間があっという間に過ぎていくようで、
――どこかで感じたような感覚だ――
と思ったが、それが中学時代の図書館での一時間であることに気が付いた。
図書館ではピッタリ一時間を費やすようにしていた。それはわざとそうしていたのであって、それ以上にならないように、そして一時間に満たない時間でキリがよくなっても、もう一度、その時に読んだ内容の要点をおさらいするくらいであったのだ。
毎回同じ時間を過ごしていると、慣れてくるにしたがって、時間の間隔は微妙に変化してくる。さらに集中度も毎回少しずつ違っているので、時間の感覚は、どんどん短くなってくるのだった。
――時間が止まって感じられたような気がするな――
と後から思うと感じる時があった。
それは定期的でも、後半に固まっているわけでもない。唐突にいきなり訪れた感覚だったのだが、それもその日が終わって気付くという後追いの感覚だったことで、その頃にはあまり意識していないことだった。
後から考えて感覚が深く感じられるようになることって、それほど少なくはなかったと思ったが、そのほとんどが中学時代の図書館での一時間に集中しているということにずっと気付かないでいた。
大学に入学して、知り合った早苗、彼女のおおらかな性格を見ていると、
――そろそろロボット工学への興味を解禁してもいいんじゃないか――
と思うようになっていた。
その頃までの三年間、あっという間に過ぎてしまっていたが、その間の暗かった時代は、大学生になってから、思い出したくない暗い過去として封印しようと思った。この思いは真田に限ったことではなく、ほとんどの新入生がそう思っていることだろう。まわりを皆ライバルだと思い、自分が人の見たくない部分をなるべく見ないようにしていきたいと思っているくせに、まわりからは、
――自分の考えていることを悟られたくない――
と思うのは、完全に矛盾を含んでいるものだった。
それを、別に矛盾と感じることなく、それだけ人と関わりたくないという思いが究極に発展した姿だと思うようになっていた。
心理学的には、きっとそんな時の心境も研究されているのだろう。しかし、受験生に身を置き、実際に渦中の人となってしまうと、そんな心理学の研究を目の当たりにすることは怖い気がしたのだ。
――それが分かったところでどうなるものでもない――
と感じる。
心理学というのが、矛盾を紐解くことで発展してきたのではないかと思うのは、真田だけであろうか。
真田は心理学の勉強の派生形として、哲学も研究するようにしていた。歴史的に哲学は人間の奥にある部分を抉るように思えたからである。哲学が集団となると宗教になり、その信教が、心理を操作する。それが真田の勉強の足あとになっていた。
心理学の勉強は歴史を勉強することでもあると思っている真田が、早苗と友達になったのは、彼女が歴史を好きだと言っていたことも大きかった。
「歴史って、本当に面白いですよね。昔の人だからと言って、自分たちよりも劣るというわけではなく、中には歴史の流れは時代を逆行しているのではないかと思える時期だって存在するわけですからね」
と、早苗は言った。
「ええ、そうですよね、僕は子供の頃からどうしても、時系列で人間は成長するものなので、時代が進むにしたがって、過去よりも現在、そして未来の方が希望に満ち溢れていると思うようになっていたんです。無意識だったんですが、あらためて考えてみると、実に滑稽なんですが、この考え方をするのは、僕だけではないと思うんですよね」
と、真田が言った。
「だって、人間は成長を続けていくものなんでしょうけど、いずれはその人は死んでしまう。そして新たに生まれた人たちに時代は引き継がれていくわけですよね。人それぞれなんだから、あとから生まれた人が絶対に進んだ人とは限りませんからね」
「そうなんですよ。だから、歴史の勉強というのは必要なんじゃないかって僕は思っています」
と真田がいうと、
「どうしてですか?」
と早苗は聞き直したが、
作品名:WHO ARE ROBOT? 作家名:森本晃次