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WHO ARE ROBOT?

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 それなのに、友達は皆、試験の一週間くらい前から勉強を始める。誰も相手をしてくれないことで、一人孤立してしまう時期があり、この時期が早苗には一番嫌な時期だった。
 試験中よりも、この時期の方が嫌いだという人は少なくないだろうが、早苗のような理由の人は、ごくまれではないだろうか。
 早苗のようにきっかけがないと何かをする気にはならないというのは、高校時代くらいまで気持ちの中で大げさなくらいに意識していたことだった。
 そんな思いがあったからなのか、大学に入ると、一番前でノートを取るという行動に出たのだ。
「これがきっかけになれば」
 と、千尋に対して口にしていたが、千尋にはその気持ちは分からなかった。
 千尋は早苗が、きっかけがないとなかなか動かない性格であることは分かっていた。千尋は、早苗と違って、
「私はとりあえず、まず行動することを心掛けているようにしているのよ」
 と言っていた。
 それは、子供の頃に親が離婚したことで嫌というほど思い知ったことだった。
 親は、離婚をずっと考えていたくせに、なかなか離婚に踏み切らなかった。その間に大ゲンカがあったり、千尋に嫌な思いをさせることなど日常茶飯事だった。その気持ちを知ってか知らずか、離婚の話をしているのを聞いてみると、
「あなたは離婚する気があるの?」
 と、母親に離婚を切り出された父親は、
「ああ、今すぐにでもしたいと思っているよ。でも」
 というと、
「でもって何よ」
 と、母親の声が一オクターブ上がる。何が言いたいのか分かっているようだ。
「千尋がいるじゃないか。まずは千尋のことを考えてあげるべきではないか?」
 というと、母親もすぐには口を開けないようだが、急に我に返ったように、
「何よ。それっていいわけじゃないの」
 と母親が怒り出す。
 それについては、千尋も同意見だった。
――自分たちの都合に私を巻き込まないでよ――
 と言いたかった。
 だが、夫婦のことは夫婦しか分からないし、何よりも自分を言い訳にしている以上、言い訳になっている自分が出ていって何になるというのか、子供心に出ていくことの恐ろしさがすぐには分からなかったが、自分を納得させるには、そう解釈するしかなかった。その思いはおおむね間違っていないだろう。千尋という女の子は、頭のいい女性なのだが、それはきっと、嫌いな親であっても、気を遣う気持ちになっていることから生まれた環境による性格なのかも知れない。
 その気持ちや性格を一番分かっているのは、早苗だった。
 早苗はその頃の千尋を知っているわけではないが、千尋の気持ちを理解しようとしている最中に、親が離婚した頃のことを話してくれた。もちろん、深いところまで話してはくれなかったが、それでも、それまで繋がっていなかった歯車が噛み合ったような気がした。
――千尋は、やっぱり私を映す鏡なのかも知れないわ――
 と感じた。
 性格は正反対だが、根本では似ていると感じたのは、早苗の話を聞いただけで、二人の関係の将来が見えてきたような気がしたからだった。
 真田は、子供の頃から、何もないところから新しいものを作り出すことに興味があった。小学生の頃は作文だったり、工作だったり、暗記物の学問などよりも、よほど好きだったのだ。
 ロボット工学に興味を持ったのも子供の頃からだった。特撮アニメなどで、ロボット開発を行う博士や研究所を見て、
――大人になったらロボット博士になりたい――
 と真剣に思っていた時期があった。
 しかし、現実は難しいもので、実際にロボットの本を片っ端から読んでいると、その気持ちが萎えてくる内容が結構あった。それが「ロボット工学三原則」にあるような矛盾がどうしても、研究の限界を感じさせるのだった。
 それでも、ロボットへの夢をあきらめたわけではない。少し気持ちは萎えてはいたが、その分、心理学を研究することに目覚めたのだった。ロボット工学三原則に見られる矛盾は、自分の中で解決できないのあれば、心理学を研究することで補えると思ったのだ。
 最初から心理学への興味があったわけではなく、他への興味からの派生であったということを、他に心理学を勉強している連中に話をするつもりもなかった。ただ、ロボットに興味を持っているということだけは、話をした友達もいなくはなかった。それは中学時代のことで、そのことが思わぬ波紋を呼ぶことになり、他の友達から無視される結果を招いたことがあった。
 図書館でロボットの本を読んでいるところを見つかったので、下手に隠し立てする必要もないと思って、
「ロボットに子供の頃から興味があってね」
 と話をし始めた。
 図書館で真田を見つけた友達は、真田とはあまり親しいというほどの相手ではなく、学校であっても、たまに挨拶する程度だった。
 実際にその友達は、あまりまわりとの協調性のない人で、孤立していると言ってもよかった。
 真田も中学時代あまりまわりと絡むことはなかったので、似た者同士のように見えたかも知れないが、真田本人は、
――全然違う――
 と思っていた。
 どちらかというと、何を考えているか分からないその友達を見下していたところがあった。
 どうしてそんな風に感じたかというと、彼もまわりとの協調性のなさを実感していて、まわりと協調できないのは、すべて自分が悪いからだと思っていた。
 そんな彼を見ているから、真田も彼に対して優位性を感じ、同じ人と関わらない状況でも状況はまったく違っていると思ったのだ。
 彼は真田に、
――なついてくる――
 ようだった。
 まるで犬のように靡いてくる様子は、最初こそ、真田の優越感を擽っていたが、それが長く続くと次第に億劫になってくる。自分が惨めに感じられてくるのだった。
「真田君が仲良くしてくれるので、うちの子も安心だわ」
 と、彼の母親からもそう言われてしまっては、真田の中で身動きが取れなくなってしまっていた。
 そんな彼に図書館で迂闊にもロボットの本を読んでいるところを見つかってしまった。彼には見つからないように注意していたのだが、迂闊だったというよりも、彼の性格を読み切れていなかった自分が迂闊だったということだろう。
 彼は図書館などに姿を現すことはなかった。
「図書館にいると眠くなってしまうので、立ち寄ることはないんだ」
 と言っていたので、真田は安心して図書館に籠ることができた。
 実際に彼に対して億劫に感じ始めた時の隠れ家として図書館があるのはありがたいことだった。
 図書館には、思ったよりもロボット関係の本もあった。さらに心理学の本ももっとあり、一日一時間でも足りないくらいだった。
 本を読んでいる時、真田は時間があっという間に過ぎていくことに気付いていた。一時間というのがこんなに短いものだということにビックリしていたくらいだ。
 ただ、一時間以上図書館に籠ってしまうと、さすがに彼が探しに来ると思い、ちょうど一時間という時間を選択したのは、間違っていなかったはずだった。
 それなのに、なぜ彼が図書館に現れて、ロボットの本を読んでいる真田の姿を発見することになったのか、今となっては覚えていない。案外と他愛もない理由だったような気がする。
作品名:WHO ARE ROBOT? 作家名:森本晃次