短編集32(過去作品)
智代と親密になればなるほど、言い知れぬ不安に襲われるようになっていた。もちろん一緒にいる時が一番楽しく、自分にとっての安息である。それは間違いないことなのだが、襲ってくる不安を取り除くことはできない。
中学に入って勉強に疑問を感じ始めた時がそうだった。いくら勉強してもやるせなさを拭うことはできない。想像力というものが勉強をする上での自分の信念だったことを感じていたが、それがキリのなさに繋がっていることに気付いたのは、ずっと後になってからのことだった。
そういえば、後になってから思い出したり感じたりしたことがかなりあった。しかも後になって感じる時というのがすべて同じ時期だったのだ。夢を見ていていつも同じところで終わる夢、覚えていないにも関わらず、いつも決まったところで終わっていることだけは分かっていた。
旅に出るのは言い知れぬ不安を忘れたいから、しかし、結局はどこへ行っても不安を取り除くことはできない。それは自分の居場所は一箇所しかないことを認識するだけだからだ。
――言い知れぬ不安と二人で旅に出た――
まさしくそんな気持ちを抱いて帰ってくることは最初から分かっているはずなのだが、またしても出会いを求めている自分を感じる。
――結局、欲望にキリなんてないんだ――
ということを思い知らされる。それは不安も同じことである。
不安と欲望というそれぞれ相反するものに果てしなさを感じている。それが繋がってくるのが唯一夢ではないだろうか。実際には紙一重のところで感じているのに、同時にハッキリと感じることができないのである。
どこに行っても結局自分の居場所は一つなのと同じで、智代も恭子先生も純子も、門倉にとっては袋小路を彷徨っていて見つけた出口の目の前にいる、そんな存在の女性たちなのだ。
自覚はそれほどないが、潔癖症なのもなるべく不安を感じたくないという気持ちが、無意識に働いているからだろう。
その時門倉は一つの答えを見つけた。
几帳面な性格が同じところで覚める夢を演出しているのかも知れない。
同じところで必ず覚める夢、それはいつも行く喫茶店で二人きりだと思っている智代との時間に、恭子先生が現れ、その横で親しそうにしているマスターを見るところだったのだ。意識が時空を飛び越え、夢という形で現れる。そして言い知れぬ不安となってまわりを包む……。
その時、門倉は大きな決心をした。それが間違っているなど到底思えない。時期的にも気持ち的にも一番充実していたからだ。
同じところで必ず覚める夢、それは今でも見続けている。智代と結婚し、平凡な幸せをつかむことができた今でも……。
( 完 )
作品名:短編集32(過去作品) 作家名:森本晃次