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タイトルは終わってから考えます

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ああ、くそ。
これはもうまったく、完全にボクの楽曲じゃない。
ボクのセカイは彼に支配されてしまった。

『暴君の誕生』を目の前にして、
なんでこんなに、
心が躍るのかといえば、

それは彼が『神』に愛されているからに他ならない。
神なんて薄っぺらい概念を信じたことはなかったけれど、今ならばそれが信じられる。
ミュージシャンをやっていながら、楽曲を演奏しながらこんな風に感じたことは、今までなかった。
音というモノが言葉を超える瞬間があるのなら、
今は、
きっと、まさに、そうだ。

とボクが思った次の瞬間、ドラムの音が完全に止んだ。
それまで見えていた空に続くような道しるべを一瞬の後に失ったボクとベーシストは、
つられるように手を止めた。

自然と目が向かうのはドラムキットの前の彼の方へだ。

何で?
なぜ?

荒くなる自分の吐息を発しつつ縋るように向けるボクたちの視線に気がついてすらいないのか、彼は右手のスティックをいきなり自分のTシャツの背中に突っ込みながら、ぼりぼりと孫の手を使うように自分の背を掻いた。
そして、

「凡庸なメロディですね」

と彼は呟いた。
そして、口の端を歪めてにやりと笑った。
「まあ、それでも仕事だから叩きますケド」
そう続けた彼の口調は、内容に反して驚くほどまったくに嫌味が無かった。
だからボクは唖然とするしかなかった。
いや、むしろ時間が経つにつれ、その言葉が胸の奥に緩やかに差し込んでくるナイフのように心臓を貫き、恥じ入って、消えてしまいたくなった。
『凡庸なメロディ』
正にその通りだ。
基本小銭稼ぎのために手癖で作った楽曲だし、サビのメロディはバレない程度に昔の歌謡曲からのイタダキだ。
彼の言葉はボクの作曲姿勢を端的に糾弾し、かつ諦めて、嘲笑で返してきたのだ。

ただ、
それでもボクはまだ『ミュージシャン』だった。

彼のドラムに反応してギターを抱えることは出来た。
ピックで弦をかき鳴らすことが出来た。
どうやら魔物のような音楽ビジネスの中で魂まですり減りきってはいなかったようだ。
ボクはそのまま、ギターをかき鳴らした。
まるでコードもろくに知らなかった高校生の頃のままのように、ふっと息をひとつ吐くと、気持ちの赴くままにピックを弦にたたきつけた。
多分それは30秒にも満たないわずかな時間。
未熟な、だけど本能の赴くままのギターソロ。
こんな風にギターを弾いたのはどれだけぶりだろう?
――――『ドヤ顔』というべきなのだろうか?
ボクが彼をにらみ返したとき、きっと変な微笑みが張り付いていたんではないかと思う。

それを受けて彼は、

微笑んだ。

だからボクは『あはは』と笑った。
彼はつられこそしなかったものの、俯くようにしてくっくと笑ったようだった。
「馬鹿ですね」
と彼が呟いた。
なのでボクは、
「そう、馬鹿なんだ」
と応じた。
すると彼は堪えきれなくなったのか、どっと大声で笑い出した。