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タイトルは終わってから考えます

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彼が両手に握っていたスティックをドラムキットにたたきつけた。
ビクッとボクの身体が跳ねた。
ベーシストもそれは同じだったようだが、そこは腐ってもスタジオミュージシャンだ。
自分が押さえるフレットは外さない。
スネアが跳ねる。
本当に『跳ねる』
そのリズムは、一瞬でボクの心臓を鼓舞した。
彼の目が見開いている。
ベーシストは彼に見とれるようで、ぼうとしながらも『導かれて』いる。
およそそれはボクが考えていたリズムとはまったく違った。
作曲者の視点からすれば冒涜もいいところだ。
なのに彼のリズムには破綻がない。
いや、それどころか挑んでくる。

ひたすらに、
ボクのメロディに対して、
『    』だと挑んでくる。

刻むシンバルがボクの心を殴りつける。
ボクは慌ててギターを抱えた。
いや、いや、それはないだろう?
ボクは作曲者で、この場ではプロデューサーの代行で(安い楽曲なので仕方が無い)、この狭いスタジオの中では神にも等しい存在のはずだ。

なのに、
なのに、なぜ彼は、
そんなボクをガン無視してこんなビートを刻むんだ?

ところが、ボクの疑問は驚きの『解』を産む。
ギターを抱えてフレットを押さえ、ピックをたたきつけたその瞬間、ボクは、

――――取り込まれた。

ベースとドラムは楽曲の背骨の存在で、ギターとヴォーカルはいわばその背骨に乗っかって踊るピエロだ。
それがボクの哲学で、ポップソングとはかくあるべきだと思っていた。
『慌てろ』とそのリズムはボクに脅迫してくる。
慌てろ、もっと慌てろ。
ピエロっていうのはそんな生やさしいモノじゃない。
死に物狂いで観客を楽しませるモノなんだろう?
笑顔の化粧の下に、恐怖を完全に隠しきった上で。
恐怖とはつまり、ピエロの存在意義として、『観客を満足させられるか否か』というその一点に集約される。
しかもそう、『うまくいくこと』が当たり前なのだ。
フレットを押さえながらボクは浮かび上がる。
脆弱な自分がスポットライトの中に立つ姿がイメージできる。

ここのメロディの運びに合うフレーズは何だ?
次の一瞬でボクの指はどこへ運ばれるべきだ?

――――そんなことを考えるのは愚かで、むしろ必要すら無い。

彼の刻むビートはふてぶてしい微笑みとともに、ボクの慢心を殴りつける。

――――負けられない。

ボクは意図的にたがを外し、フレットの上で自分の指を解き放った。
ちらと見た不安げなベーシストの目が、何かを悟ってボクと同じように自分の手元に落ちる。
その一瞬を、一瞬が訪れるのを知っていたかのように、彼のスネアが一段高く響く。
『タン!』という乾いて跳ねた音。
一撃ではあっても聞き逃すことがない音。
セカイにあるあらゆる目覚まし時計より効果的にボクの心の扉を叩く、打ち込む楔のような音。