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タイムアップ・リベンジ

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――俺にとって幹江というのは、自分を癒してくれるための大切な人だったんだ――
 と感じた。
 幹江は俊治にとってなくてはならない女性であった。俊治は、なるべくそんな幹江に自分の弱さを見せたくないと思った。本当はすべてを曝け出して甘えたい気分なのだが、
――加奈との喧嘩で疲れた自分を癒してほしい――
 などと口が裂けても言えるはずもなく、態度に出してはいけないとも感じていた。
 そのことを幹江は分かっていたのかも知れないが、そこまで感じる余裕がその時の俊治にはなかった。
――何とか、その時の問題を解決させることに集中しないと……
 と、やはりその時も見ているのは、目の前のことだけだった。
 それでも、今の自分とは、だいぶ違っていただろう。若さのエネルギーというべきであろうか、俊治は自分の中にあったエネルギーを今なら思い出せるような気がした。というのは、
――今だから――
 というわけではなく、
――静香がいてくれるからだ――
 という思いが強いに違いない。
 静香を見ていると、雰囲気は幹江を彷彿させるように思っていたが、一緒にいると、少し違っているような気がしていた。
 確かに幹江のイメージがないわけではない。しかし、それよりも加奈のイメージの方が強かった。
 二十五歳の時の幹江が、今俊治の前に現れた。これが何を意味することなのか、俊治にはまだよく分かっていない。
 幹江は、すでに自分は死んでいて、その時から年を取っていないと言った。しかも、
――時間がない――
 と言った。
 それがどういう意味なのか、よく分からないが、俊治には何かのデジャブがあるように思えてならなかった。
 そのデジャブが、すでに起こっていることなのか、それともこれから起こることなのか、すぐには分からなかったが、少なくとも今はデジャブという感覚はあっても、ハッキリとしたものを感じることはできなかった。
 静香を見ていると、やはり意識してしまうのは、加奈のことだった。
 考えてみれば、俊治にはその時幹江という女性がいたから、何とか加奈と付き合うことができた。加奈もかなり疲れていたはずなのに、それでも俊治と別れようとはしなかった。その思いは俊治と同じように、
――私が愛しているのは彼だけだわ――
 と思ってくれていたのかも知れない。
 ただ、そうなれば、
――加奈はストレスをどうやって解消していたのだろうか?
 と考えるようになった。
 俊治が知っている限りでは、加奈にそんな人が回りにいたようには思えない。もし、そうであれば、加奈と喧嘩している時に、ウスウス感じるに違いないからだ。
――加奈は、俺に幹江という女性が後ろにいたことを知っていたのだろうか?
 と考えていた。
――そういえば、幹江はいつも自分の右斜め後ろにばかりいてくれたような気がするな――
 いつも俊治の前では控えめな態度を取っていた幹江だったが、俊治にとって幹江は、なくてはならない存在だった。それは分かっていることなのだが、
――幹江にとって俺は一体どんな存在だったのだろう?
 と思うようになった。
 加奈と別れて、俊治は幹江と真剣に付き合おうと思っていた。
 幹江に告白すると、幹江は断ることはなかった。しかし、完全に承諾したという雰囲気でもなかった。付き合ったという意識は確かに俊治の中にあったが、幹江の中にも同じようなものがあったのかというと、ハッキリと断言することはできない。きっと、あの時の幹江にも断言できるほどのものはなかったのではないだろうか?
 幹江は、俊治が付き合っていると思っていた時、今までの幹江ではなかったことを俊治は何となく気付いていた。しかし、別に嫌がっているわけではないことから、そのことに目を瞑っていた自分がいたことを、なるべく自分でも信じようとはしていなかったのは事実だった。
「幹江は俺と一緒にいて、楽しくないのかい?」
 と声を掛けたことがあった。何となく、俊治を見る目が自信なさそうに感じられたからだ。
「そんなことはないわ。ただ……」
「ただ?」
「ただ、俊治が前の俊治ではないような気がして」
「俺は変わってないよ」
 と言ってみたが、それは本心ではなかった。本当は、
「前のように、加奈に対しての想いがすべて君に向けられているからさ」
 と言いたかった。
 しかし、それが相手に対して言っていいことのようには思えなかったからだ。
 まるで加奈のことを「ダシ」にして、幹江の気持ちを自分に引き付けようとしているように感じたからだ。
――そんな姑息なことはしたくない――
 という思いと、本当はそれよりも、
――加奈のことで相談していた時の俺とは違うというよりも、幹江の方が違っているのでは?
 と感じたからだ。
――まさか、俺にとって幹江という女性の存在価値は、加奈とのストレスを解消してもらうためにあった?
 そんなバカなことはない。幹江とはずっと以前からの知り合いで、気心も知れていた。ただ、それも、
――相手に対して感情的な思いを持っていなかったからこそ、長く付き合っていられるのかも知れない――
 と、考えられないこともない。
 実際に俊治は加奈と付き合っていて、完全に疲れ果てていた。そんな自分を幹江が癒してくれなければ、どうなっていたかと思うと、少し怖い気がした。
――幹江には悪いことをした――
 幹江と別れた時に、そう感じた。加奈と別れた時とは正反対の感情があったと言っても過言ではない。
 静香が俊治と暮らし始めて五年が経っていたが、その間に何度か、
「俊治さんは、私と一緒にいて、よかったと思ってくれる?」
 と聞かれたことがあった。
「思っているさ。お互いに遠慮して気を遣っているのかも知れないけど、君は俺にそんな思いを感じさせない存在だからね」
「ありがとう。そう言ってくれると嬉しい。ねえ、これからも一緒にいていいの?」
「ああ、いいよ。親子のようで楽しいじゃないか」
「そうね、お父さんと娘だもんね」
 と言って、ニッコリと笑っていた静香だったが、その表情は寂しさというよりも、もっと違ったものを瞬時に与えた。
「こんなに大人っぽかったんだ」
 という感情である。
 初めて会ったのが十八歳の時、あどけなさが残る中で、どこか大人っぽさを感じた。しかしその大人っぽさは今から思えば、
――緊張だったのではないか?
 と感じられる。
 緊張だと思うと、数日で静香のイメージから、大人っぽさは消えていた。つまりは、
――緊張から来る大人っぽさなんて、本当の表情じゃない――
 と思ったからだ。
 静香を見ていると、加奈を思い出してくる。
――どこが似ているんだ?
 といろいろパーツを思い出してみるが、よく分からない。二十五年という歳月が経っているというのもあるが、それでも、好きになった女の印象はなかなか忘れるものではなかった。
 ただ、全体的な雰囲気も似ているというわけではなかった。しいて言えば、
――出会った時に感じた印象が、二十五年前とソックリなんだ――
 という思いであった。
 ということは、