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タイムアップ・リベンジ

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 いわゆる「他人の夢」だったのではないだろうか?
 普通なら、そんなことができるはずもない。ただ、それも、
――できるはずがない――
 と思っているからできないのであって、できるかも知れないと思うことでできるのかも知れないと思うと、何を根拠にそう思えるのだろうか?
 俊治は、三十歳代に感じていたバーチャルな世界を思い出していた。
――亜季に感じた短かったが恋愛感情は、嘘ではなかったんだ――
 という思いが渦巻いている。
 バーチャルな世界を今思い起すと、それは、
――繋がりのある世界――
 というイメージだったのだ。
 チャットというよりもメッセンジャーを使って、初めてボイスをした時に感じたことだった。
 最初のボイス機能では、まるでトランシーバーのように、こちらが話をする時、相手が話すことはできない。片方だけしか話すことができないだけに、
――繋がりが大切だ――
 と感じたのだ。
 片方だけしか話せないというイメージを繋がりとして感じたのは、夢を感じていたからだ。
 最初に見た幹江の夢をずっと自分の中の夢だと思っていた。
 それは当たり前のことであり、人の夢に入り込むことなどできないという発想があったからだ。
 しかし、夢を見ている自分は、最初に見た夢では、普段だとできないだろうと思うことでもこなすことができた。
――夢というのは潜在意識が見せるもの――
 という思いがあることで、
――夢であっても、必ず限界があるものだ――
 と感じたことだ。
 だが、幹江の夢の中では限界というものが感じられない。そこが自分の世界ではない証拠だからだ。
 もちろん、限界がないわけではないはずだ。ただ、その人の夢だけに、限界が分からないのだ。それはとても恐ろしいことで、真っ暗な中を何があるか分からない状態で、放置されているのと同じ気持ちだ。
――限界がないということは、これほど恐ろしいことだったなんて――
 と、俊治は考えるようになっていた。
 そう思うと、自分の夢の中に出てきている人たち、それは本当に自分が想像した人たちなのだろうか? 中にはその人が自分の中から抜け出して、俊治の夢の中に入りこんでいるのかも知れない。俊治のように感じられなかった限界を薄氷を踏む思いで、その世界に存在していたのではないだろうか。そう思っていると、夢を見るのも怖い気がしてきた。
 その日の夢は、明らかに限界があった。すなわち自分の夢である。
「私は、俊治さんと話がしてみたくて、ここに来たの」
「何を今さら話すことなんかあるんだい?」
「あなたは、私がどうして二十五歳なのか不思議に思わないの?」
「それは思うさ。夢の中の世界であっても、君が僕の作った夢の中だけに存在する幹江ではないということを感じるからね」
「私は、二十五歳から、年を取らないの」
「えっ?」
 これは、ずっと俊治が自分で感じていたことではないか。今までの人生の半分は、無為に過ごしてきて、二十五歳から年を取っていないと思うことが、そんな自分を納得させる唯一の考えだと思っていたからだ。
「不思議でしょう? でも、これは事実なの。どうしてかというと、私はこの世にもういないからなの」
「じゃあ、霊として彷徨っているということかい?」
「そういうことになるわね。でも、別に人生に未練があったわけでもないし、行き先がないわけでもないの。どちらかというと、私には時間がないと言うべきなのかしらね」
「時間がない?」
「ええ、時間がないという意味をきっとあなたには分からないと思うの。もし分かる時が来るとすれば、その時はあなたが死ぬ時なんじゃないかって思うの」
「それは、限界という言葉がキーワードになっているの?」
「ええ、そこから考えるのが一番の近道なのかも知れないわね。時間と限界というのは、まったく関係がないように見えるけど、密接に繋がっているものなのよ」
 幹江の話を聞いていると、頭が混乱してくるが、ここが自分の頭の中の世界であることから、話が繋がってくるような気がする。幹江がわざわざここに来たのは、それを言いたいからなのだろうか?
「人は、一生に一度、誰かから大切なことを教えてもらうことになってるの。あなたにとって、今のこの瞬間が、そうなのかも知れないわね」
「それは、君には分からないのかい?」
「ええ、これだけは、その人にしか分からない。しかも、いつ分かることになるかということも、簡単に判断できることではないの」
「でも、死んでしまった君が、どうして彷徨っているのか、知りたい気がする」
「実は私もハッキリとは分からないの。ただ……」
「ただ、何だい?」
「ただ、言えることは、何かのリベンジを果たそうとしていることは確かなようね。きっと他の人はそれを『やり残したこと』っていうのかも知れないわ」
「確かに、霊がこの世を彷徨う時というのは、この世に何か未練を残している時だと聞くけど、君もそうなのかい?」
「ええ、そのようなの。人生に未練はないつもりんだんだけどね」
 人生に未練がなく、この世に未練があるというのも不思議な気もした。
 俊治は、この状況に慣れてきた。
 最初は、信じられないという思いから、言い知れぬ不気味さを感じ、身体が震えていた。しかし、それは怖さがあったわけではない。怖さというよりも懐かしさだろう。しかし、その懐かしさは、本当は感じてはいけないものだということに気付くと、震えは次第に止まってきた。
 しかし、今度は怖さがこみ上げてきた。この状況を理解したというのだろうか。その時には震えは止まっていたが、指先が痺れていて、喉がカラカラに乾いていた。
 怖さは震えをもたらすわけではなく、指先に痺れや喉の渇きをもたらす。それが次第に身体に震えをもたらすから、
――怖い時に、身体が震えるのだ――
 と感じるのだろう。
 俊治の場合は逆だった。
 いや、俊治の場合も今までは怖い時に身体が震えると思っていた。しかし、その時だけは特別で、それがなぜなのか、すぐには理解できなかったが、理由は二つあるような気がした。
 一つは、本当に怖いからで、もう一つは、時間がゆっくり流れているからではないかと思えるからだった。
 理由が二つあると言っても、考えてみれば、その原点は一つなのかも知れない。本当に怖いと思っているから、時間がゆっくり流れているのかも知れない。
 いや、逆に時間がゆっくり流れているように感じるほど、恐ろしい思いをしているとも考えられる。
 ただ、時間がゆっくり流れているという感覚は、すべての時間がゆっくりと流れているように感じられがちだが、俊治の場合、少し違っていた。
 時間がゆっくりだと感じたのは、最初と最後の一点を取って、
――全体的な時間が長い――
 と感じたからだ。
 実際にピンポイントで時間を考えると、絶えず時間がゆっくり進んでいるわけではなく、進んでいる時間は普段と変わりない。ということは、時間が途中で止まってしまった瞬間があるということになる。
――そんなことがありうるのか?