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タイムアップ・リベンジ

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 そして、きっとお互いに似たところが多いことで、付き合うことになったのだろうが、一旦すれ違ってしまうと、似たところがあるだけに、平行線となって、遠ざかることはなくとも、近づくこともない。そんな関係は友達としてならいいのかも知れないが、男女の間に成立するものではない。さっさと別れるしかないのだ。加奈は理解していたのだろうが、俊治に理解できるはずもなかった。
――似ているところが多いから、すぐに修復できるだろう――
 と思っていた。似たところがあることで、お互いにいいところも悪いところも丸見えになることが、どれほどの諸刃の剣なのか、俊治には分かっていなかったのだ。
 だから喧嘩が絶えなかった。お互いの主張が重なって、それが微妙にずれている。
 何がいけなかったのかというと、
――お互いに相手の考えていることが分かるくせに、妥協を許さなかった――
 というのが、一番だったのかも知れない。
 そのことを心の奥では意識しながら、
――妥協を許さない――
 という思いが強いと、相手のことが分かるだけに、ずるいところがどうしても見えてくる。そこへ持ってきて、妥協が許せないのだから、始末に負えないのだろう。
 喧嘩でも、言葉は自然と露骨になってくる。
――こういえば、相手の感情を逆撫でするんだろうな――
 と思うことでも、敢えて口にしてしまう。
 相手が、顔を真っ赤にして怒りだし、次第に顔が真っ青になってきたりしているのを見ると、
――してやったりだ――
 とまで思えてくる。
 自分も相手の言葉に対し、自分の中の逆鱗に触れたことで、怒りに震えているのだから、相手にもダメージを与えないと自分が情けなくなる。完全にジャブの打ち合いで、いつ、どちらかが倒れるかを気にしているだけだった。
 それでも、お互いに倒れることはない。
 攻撃をしているうちに、防御も分かってくる。
――自分を守らなければいけない――
 と思うと、今度は攻撃の手が緩んでくる。つまりは、最初に相手に対し、立ち直れないだけのダメージを与えない限り、最後は痛み分けにしかならないということだった。
 それが、付き合っている者同士の喧嘩なのかも知れない。
 俊治は加奈と別れてから、
――二人が別れるきっかけになったのは、喧嘩ばかりしていたからじゃないのかも知れない――
 と感じるようになった。
 確かに喧嘩ばかりしていて、
――疲れた――
 というのは、本音であろう。しかし、それだけで別れを決めるほど、喧嘩の内容がくだらないことではなかった。喧嘩をするには、それなりの理由があり、最後は痛み分けになったとしても、相手のことが分かるだけに、仲直りをすぐに考えられるほど、切り替えができていたのだ。
 ただ、相手のことが分かるというのは、心底からの考え方ではなかった。どちらかというと、
――相手の行動パターンから、何を考えているかが分かる――
 という程度のもので、相手に対しての恒久的な考えが分かるわけではなく、どちらかというと流動的で、その時々のことしか分かっていないので、表面上しか見えていないのかも知れない。
 付き合っていた期間は、一年くらいのものだっただろうか。最初に二か月ほどは喧嘩をすることはなかったが、それから後は、ほとんど喧嘩が絶えない毎日だったような気がする。
――よくも、こんなにも毎日喧嘩するネタがあるな――
 と俊治は感じていたが、きっと加奈も同じ思いだったに違いない。
 喧嘩をして、どちらから歩み寄っていたのかといえば、最初の方は、加奈の方だった。俊治の方としては、
――こんなに喧嘩になるんだったら、別れてもいいや――
 と思っているところに、加奈が謝罪してくる。
――可愛いところがあるじゃないか――
 という思いから、次第に加奈のことを好きになってくる自分が分かってくる。少々の喧嘩くらいは、仕方がないと思うようになってきたのだ。
 しかし、途中から加奈は謝りを入れてこなくなった。それまで分かっていると思っていた加奈のことが、今度は分からなくなった。これが加奈のことを分かるのが遅れた理由だったのだ。
 しかし、一旦好きになってしまった相手を嫌いになるのは、好きになることよりも難しい。それを分かってきたことで、俊治は加奈から離れられなくなった自分に初めて気が付き、まるでクモの巣に引っかかってしまった蝶のように、もがけばもがくほど抜けられないという地獄を味わうことになることを悟った。それが、別れに直面した時に、どうしていいのか分からなくなる感情だったのだ。
 意地になっていたという感情もあった。意地になっている時は自分でも分かるもので、意地になっているからこそ、意地から抜けられなくなってしまう。それは、
――意地を通すことが、自分の存在意義でもある――
 という、特殊な感情があったからに違いない。
 しかし、意地を通そうとするということは、それだけ自分が他の人と交わりを持っていないという証拠であり、心を割って話のできる人がいないということであったからだ。
 だが、それが勘違いであったことを教えてくれたのが、幹江だった。
 もう一人の好きになった相手、それが幹江だった。
 しかし、幹江に対しては、加奈に対しての感情とは少し違っていて、加奈に対してが表の感情であったのであれば、幹江に対しては影のような感情だったと言えるだろう。
 幹江と会う回数は、加奈と会う回数に比べれば、かなり少なかった。
 加奈と俊治が付き合っているというのは、自他ともに認める事実であり、幹江に対しての感情は、付き合っている相手としての感情とは違うものだった。
――幹江にたいしては、姉さんのようなイメージになるのかな?
 幹江との付き合いは、表から見ると、俊治の方がお兄さんで、幹江の方が妹のように見えるだろう。実際に、幹江も俊治に対して慕っているかのようだったからだ。
 だが、実際に慕っていたのは俊治の方で、相談事が多いのも俊治の方だった。
 幹江は、そんな物事を判断するのが得意な方ではなかったようだが、こと俊治のことに対してだけは、絶対の自信があったようだ。俊治に対して自信があったからこそ、他のことに関してはそれほど自信がなかったのかも知れない。
――俊治のことが万事に適用するというわけではない――
 ということであろう。
 そのことを幹江も最初は分からなかった。
――俊治のことはほとんどのことが分かるのに、どうして他の人のことになると、分からないんだろう?
 と悩んだりもした。
 しかし、人には一人くらい俊治を相手にするように、一人はよく分かる人がいても不思議ではないのだろう。幹江にとってそれが俊治だったというだけで、別に深く考えるようなことではないはずだ。
 それが分かってくると、今度は逆に俊治に対して凝りを保つようになった。下手にべったりとくっついてしまうと、本当に他の人のことが分からなくなるからだ。