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タイムアップ・リベンジ

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――まるで違う世界の人のようだ――
 と感じさせたことから、違和感がなくなってしまったのかも知れない。
 しかし、性格は同じに思える。突入経緯が違っているだけだ。その違っている突入経緯に興味があるわけではない。興味があるとすれば、その人そのものにである。
 だから、俊治は静香を自分の部屋に連れていっても、余計なことは聞かなかった。
――聞いてしまうといなくなってしまいそうで怖い――
 という、自分を臆病な性格だと思わせたのは、自分が臆病ではないと思うことで、静香の過去を知りたいという感情を呼び起こすことをしたくなかったからだ。
 この思いも、怖がっていることに違いないが、少なくとも、自分を納得させるにはこちらの方が説得力はある。そのくせ、表にこの感情を出そうとは思わなかった。あくまでも自分の中で、
――聞いてしまうといなくなってしまいそうで怖い――
 と思うことに徹したのだ。
 俊治の性格の根本はここにある。肝心なことを自分の中に収めてしまって、その外にある性格を自分の性格だと思うことだ。その性格が功を奏したのか、最近まで、二十五歳で失恋してしまったということを覚えてはいても、どれほどのものだったのかということを覚えていない。
――まるで、部分的に記憶喪失になったかのようだ――
 と感じるほどで、
――その時の感情を思い出すことができないわけではないが、もし、思い出したとすれば、それはまるで昨日のことのように感じるに違いない――
 何しろ、自分の中で時間を止めてしまったのだ。そんなことができてしまうのだから、肝心なことを記憶の奥に封印して、思い出さないようにするくらいのことはできても不思議のないことだろう。
 俊治は今、少しずつでもいいので、二十五年前のことを思い出せそうな気がしていた。一気に思い出すのではなく、徐々にである。一気に思い出してしまうことは自分の考えに自分から背くことであり、今の自分をも否定してしまいそうに感じるからだ。
 どうして、そんな風に思うようになったのかというと、理由は静香にあった。
 静香が俊治の部屋にやってきてから五年が経った。ずっと今まで静香だけを見ていたので、静香の成長は手に取るように分かった。
 さすがに最初に出会った時の静香に比べれば、完全に大人のオンナに変わっていた。しっかりしてきたところもあれば、妖艶さも感じる。俊治は最初、しっかりしてきたところと、妖艶さが別のところから来ていると思っていた。
 普通はそう思うだろう。
 妖艶な雰囲気から、普段しっかりしている様子を感じることはなかなか難しい。妖艶な雰囲気と、しっかりしているところを同じ時間、同じ空間で感じることなどできないからだ。
 感じることができるとすれば、完全に二重人格の相手を見ているからだと思う。静香には今まで一緒にいて、二重人格だと思えるところを感じたことはなかった。
――最初の一年で感じなければ、その後も感じることはない――
 というのが、俊治の他人を見る目であった。
 静香の中にあるしっかりした部分と、妖艶な部分、俊治には重ねて見ることができた。しかし、だからといって、
――静香が二重人格だ――
 という思いに駆られるわけではない。
――静香のしっかりしている部分は、妖艶な部分の中に存在しているように思う――
 本当なら、逆のような気がする。しっかりしているという基準があって、その中に時々見せる妖艶さが、たまらなく男性を惹きつけると思うからだ。
 しかし、それは男性から見た勝手な思い込み、妖艶な女性のしっかりした部分を見てしまうと、男性の中には萎えてしまう人もいるだろう。女性の妖艶な部分を感じた男性は、相手の女性に求めるものは、
――自分に対しての服従心――
 のようなものではないだろうか。異常性欲に感じられるが、それも男女の間の感情の一つ。否定するのは簡単なのかも知れないが、否定してしまうと、その二人は自分を見失いことになりかねない。
 だが、静香に感じたのは逆の感情だった。こんなことを感じることができるのも、自分だけなのではないかと思う俊治だった。
 俊治は自分が二十五才の時に好きだった女性と思い出せるようになっていた。それは、静香を見ていると、どこかその思い出がよみがえってくるからであった。しかし、完全に思い出せたわけではない。好きになった女性のことなのに、どうして思い出すことができないのか、自分でも不思議に思う俊治だった。
 俊治には、その頃に好きになった女性が二人いた。
 一人は、新入社員として入ってきた女の子だった。名前を中西加奈と言った。加奈自身も俊治のことを意識しているような気がしていたのを思い出したが、そもそもそう最初に感じたことが間違いの始まりだったのか、記憶の中に封印していた理由は、そのあたりにあるのかも知れない。
 大人しさがあどけなさを控えさせているような雰囲気で、普通に見ているだけではあどけなさを感じることはできないに違いない。
 地味な外見からは大人しい雰囲気しかイメージすることができない。何かきっかけがなければ、彼女のことを気にする男性はいないだろうと思えるほどだ。
 俊治も最初は彼女のことを意識しているわけではなかったが、無意識に彼女のことを見ていたのだろう。まわりから、
「木村さんは、彼女のことを好きなのかも知れないわね」
 という噂が聞こえてきた。
 その噂を聞いて一番ビックリしているのは、当の本人である俊治だった。
「そんな、誤解もいいところですよ」
 おせっかいなパートのおばさんから、声を掛けられて、必死で否定する。
 俊治は、それまで何とも思っていなかったはずなのに、必死で否定しているうちに、何かむず痒さを感じていた。好きになったかどうか分からないが、まわりから、自分のことを話題にされるという状況に、くすぐったさを感じていた。
――まんざらでもないな――
 と思うようになったからなのか、
――噂は本当のことになるかも知れない――
 と感じた。
 加奈は、四年制の大学を出ていた。俊治の会社で、四年制の大学を卒業して入ってくる女の子は珍しくはないが、皆それぞれに個性を持っていた。
 そういう意味では地味な彼女が個性を持っているという印象はない。まわりの人たちが彼女をどのような目で見ていたのか分からないが、あまり人を近づけさせない雰囲気を持っているのは確かなようだ。
 そんな雰囲気を持っている女性は、まず同性から好かれることはない。敵はいても、味方はほとんどいないに違いない。
 俊治は、自分が天邪鬼だと思う時がある。それは好みの女性においてもそうだった。他の人が、口を揃えて付き合いたいと言っているような女の子に対して、自分も付き合いたいとは思わず、誰も見向きもしないような地味な女の子を好きになったりするところがある。
 高校時代に、
「あなた、私に同情して付き合ってくれていたんじゃないの?」
 と言われたことを思い出した。
 自分ではそんなことなどないと思っているのに、相手からそう罵倒されると、
――お前は何様のつもりでいるんだ――
 と、心の中で憤りを感じてしまう。そう思うということは、