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タイムアップ・リベンジ

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 俊治は、静香の就職祝いをした時のことを思い出していた。
――そういえば、あの時は、余計なことを聞いてしまうと、静香がどこかに行ってしまうのではないかって思ったっけ――
 今は、もう余計なことを聞こうとは思わない。あの日から二人の距離は一気に狭まった気がしていた。俊治は静香が自分の娘のような気がしてきて、狭い部屋にいたにも関わらず、いつになくお互いにそれぞれのことをしていても、何ら違和感のない生活を過ごしていた。
 それでも静香は、ただの同居人ではなかった。自分の娘のような気がしていたからだったが、次第に娘では物足りない気がしてきていたのに、お互いに自分のしたいことをする生活に、満足もしていたのだ。
 それは、干渉し合ってしまうと、お互いにギクシャクしてしまって、
――静香がいなくなってしまう――
 という思いを、今さらながらに抱かなければいけなくなることに対して、情けなさを感じてくるからだった。
 俊治は、自分の記憶の中に、封印してしまっている部分があることに、その頃気が付いていた。それが静香の二十歳の誕生日の前だったのか後ろだったのか、なぜかハッキリと覚えていない。
 もし、その意識がハッキリとしていたのなら、静香の二十歳の誕生日が、自分の意識の中から消えてしまいそうな気がしたからだ。静香の意識は次第に俊治の意識を左右するようになっていた。静香の一言一言に重みを感じるようになってきたからだ。
 かといって、静香は相変わらずの無口だった。あどけない表情をしてみたり、急におどけて見せたりするので、お茶目な部分が無口なイメージを払拭してしまうが、静香はまわりに与えるイメージと。俊治に与えるイメージとでは、かなりの差があるように思えたのだ。
 俊治は時々静香を他人の目で見ようと心掛けることがあった。他人の目で見た方が、二人の関係を素直に見ることができ、暖かさを感じることができるからだ。静香と一緒にいて心地よい気分になれるのは、他人の目で見ている自分を意識できるからであった。
 しかし、他人の目で見ていようが見ていまいが、お互いに最初から一緒に暮らそうと思っていたわけではない。静香は後から、転がり込んできたのだ。
――そういえば、二十五歳の時、時々他人のように見ている自分にドキッとしたことがあったっけ――
 と、感じた。
 それが誰のことだったのかすぐには思い出せなかったが、自分にその頃、
――結婚するなら、この人だ――
 と思った人がいた。
 相手がどこまで俊治のことを考えていたのか分からないが、結婚までは考えることのないただの恋愛だとしか思っていなかったのだろう。
 俊治は、その時、自分が裏切られたような気がしていた。俊治が考えていたほど、お互いに気持ちが近かったとは誰が見ても思えなかっただろう。俊治が一人、先走っていたことだけは間違いないだろう。
 思えば今から二十五年前のこと、時代もかなり変わった。しかし、俊治にとって、
――俺の時間は、あの時から止まってしまったんだ――
 と感じるほどだった。
――あれだけ好きだったのに、あれだけ愛していたのに――
 と、まるで恋愛ソングの歌詞のようだ。
 しかし、そんな感覚も最近まで忘れていた。思い出すことは、それ以前のこと、時が止まったと思っている瞬間からこっち、思い出すほどの記憶があるわけではない。
 そうやって考えると、何と自分の人生の薄っぺらいことだろう。二十五年前から時が止まってしまったと思っていることで、今でも自分は二十歳代のように感じることがある。そのくせ、頭の中の基準はやはり五十歳なのだ。
 四十五歳で、静香と知り合って、一緒に暮らしている。静香に対して恋愛感情を持っているわけではない。可愛いとは思うが、普通に恋愛したいだとか、結婚したいだとか思わない。もしそんな感情を持ったとすれば、ここまで一緒にいなかったかも知れない。
 そんな感情を持たない性格になってしまったのか、それとも、そんな感情を持つことが怖いと、自然に感じるようになってしまったのか。そして、自然に感じた怖さが、自分の感情を押し殺すことを感じさせないほど、感覚をマヒさせてしまっているのか、俊治はそのどちらかなのだということを、自分なりに感じていた。
 二十五歳までの自分なら、そんな人生はまっぴらごめんだと思っていたことだろう。先に望みのない人生。そんなものは人生と言えないと思っていた。
 二十五歳までは、感情の起伏が激しい性格だった。思ったことをすぐに行動に移したり、表情に表したりしていたものだ。そのたびに、先輩などから見かねて、
「お前はすぐにカッとなってしまうのか、すぐに顔や態度に感情が現れる。気を付けた方がいい」
 と言われてきた。
 今は、ほとんどそんなことはない。ただ、
「性格がそんなに簡単に変わるものではない」
 と言われているが、俊治もその考えに賛成だ。
 自分のまわりの人を見ていると、性格が変わったように見えて、それは表面上のこと、内面に変わりはない。そういう意味では、俊治の表に出しやすい性格もそう簡単に変わることはないだろう。今までに、それで損をしてきてことも多々あっただろう。
 ただ、それを、
――損をした――
 とさえ思わなければ、怒りに感じることもなく、諦めもつく。そんな性格に変わってきていた。
――俺の性格って最悪だよな――
 表に出すことはやめられないくせに、諦めは簡単についてしまう。自己満足さえできれば、それでいいということなので、今のように決して表に出ようとさえしなければ、何とか時間を乗り越えていけると思っている。
――俺に夢はないのか?
 と、自問自答することもあったが、考えてみれば、二十五歳までに自分の夢について考えたことがあっただろうか?
 考えようとしたこともあったが、いつも、
――そのうちに見つかるさ――
 と、その時見つからなくても、先延ばしにすることでその時は、
――考えることができただけでも良しとしよう――
 と、自己満足していたのだ。
 十八歳の静香を最初に見た時、違和感を持ったが、すぐに違和感は消えていたのを思い出した。
 最初に感じた違和感は、
――この娘は、二十五歳の時に、喘いだ結果、自分が今の生き方を決めた時に似ている――
 と感じたことだった。
 自分のような性格の人は、そうはいないと思っていたはずで、もしいたとしても、そんな人が自分に近づいてくることはないと思っていた。実際に、二十五歳から自分のまわりにはそんな人はいなかった。いなかったからこそ、自分の中の時計を止めたまま、生きてくることができたのだと思っている。それが、
――孤独――
 という言葉に似合った人生であり、寂しさを感じてはいるが、マヒした感覚に飲みこまれていることを分かっていた。そういう意味で、自分に似た性格の人が、自分の近くに寄ってきたことに対しての違和感だった。
 そして、すぐに消えた違和感であるが、もし、自分の性格に似た人が、自分と年齢も近く、同じような経験から時を止めたと思っている人であったのなら、そのまま違和感は続いていたように思う。
 静香のように、年齢も性別もまったく違っている人間であることが、