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生まれ変わりの真実

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 もし、迫丸が仲間だとすれば、仲間意識のない仲間の存在を認めなければならない。それが嫌なので、迫丸に対してのイメージを正反対に残しておくことを決めたとすれば、悪戯されたという意識は、仲間意識の歪な変化だったのかも知れない。
――迫丸の中にも、美由紀に対して似たような意識があったのかも知れない――
 ただ、それはどんな意識なのか、迫丸にしか分からない。ひょっとすると、美由紀を愛する気持ちに近かったのかも知れない。
「好きな子を苛めたくなる」
 子供にえてして多い感覚だが、同じものを迫丸が持っていたとして、どこに不思議があるだろう。
 迫丸は、美由紀のことをどう思っていたのだろう? 子供の頃から、気持ち悪さだけしか見えなかった少年だ。高校生になって、まったく違った高校に入学し、
「やっと、離れられた」
 と思ったのも、事実である。
 迫丸自身、本当に美由紀を意識していたのかどうか分からない。苛められたと言っても、そうしょっちゅうだったわけでもない。ただ、苛められたりしたことのない美由紀にはショックだったということと、気持ち悪さに関しては、最初から意識していたということだけだった。
 美由紀の勝手な過大妄想だっただけのことなのかも知れない。それにしても、ずっと忘れていたはずの相手を、今さらどうして思い出さなければならなかったのか、そして、あれだけ毛嫌いしていた相手に、自分の隠れた性癖を夢の中とはいえ、曝け出さねばならなかったのかを思うと、情けないと思う美由紀だった。
 恥かしさよりも、情けなさで見も震えんばかりだった。確かに夢の中では彼に対して、恋心に近いものがあった。しかし、それを認めてしまうと、自分の淫乱さを認めることにもなり、今まで自分の中にあった気持ち悪いという感覚を、根底から覆さなければいけなくなる。それは美由紀にはできないことだった。
 彼を気持ち悪いと思うことで、美由紀は自分の中である種の性格を形成してきたような気がする。それが何なのか、夢から覚めるにしたがって、考えてみた。だが、目が覚めると忘れてしまうのが、夢の中のこと、意識がしっかりして来れば、それだけ夢の中での出来事は、夢の中のこととして、風化されてしまいそうだった。
――あの男のことを、認めなければいけないのか?
 一体、何を認めようというのだろう? 自分が彼を好きになったということ? それこそ、夢の中でのたわごとに過ぎない。快楽に溺れてしまった夢を見たことは、自分にとって情けないことだが、迫丸のことを自分の中で認めなければいけないとなれば、情けない自分でも、甘んじて受け止めなければいけないと思えるくらいだった。
 夢は次第に覚めていく。意識がしっかりしてくると、窓から差し込んでくる明かりが懐かしい。
――やっと悪夢から目覚められた――
 そういえば、前にも怖い夢を見た時に、同じ感覚を味わった気がした。怖い夢を見た時に共通しているのが、どうやら小窓から見える明かりを感じることで、目が覚めたのだという意識になることのようだった。
 夢から覚める時独特の気持ち悪さはなかったが、その代わり、頭痛に苛まれた。最初は気持ち悪さだと思っていたが、案外、気持ち悪さがないことに気付くと、次に感じるのが頭痛だったのだ。
 頭痛に苛まれるのは、吐き気から襲ってくる頭痛があることに気付いたのは、実はこの時が最初だった。吐き気から襲ってくる頭痛は、他の頭痛とは違い、かなりのキツさを伴っていた。頭痛が収まる頃には再度吐き気が戻ってきて、そのまま発熱してしまうこともあるくらい、厄介なものであった。
 それにしても、どうしてあれだけ夢の中で、あの男を愛してしまう感覚に陥ってしまったのだろう? さらに、今さらあの男の夢を見るなんて……。不思議なことを多く感じさせる夢であった。
 しかも、夢から覚めてしまうと、あれだけ愛していると思った感覚が、一瞬にして冷めてしまったのだ。それは、夢の中で自分が淫乱であることを証明したかのようで、思い出しただけでも顔が真っ赤になりそうだ。夢の中では、どんなに厭らしい格好をしても、恥かしさはなかった。あったのかも知れないが、快感が羞恥心を超越し、支配していたと言ってもいいくらいであった。
 迫丸の夢を見た時の目覚めは、普段よりも気持ち悪いものだった。夢の中と、目が覚めてからの感覚があまりにも違っていたからなのかも知れない。夢と現実のギャップは、あって当然だと思っているが、根本では変わりがないはず。夢が潜在意識の成せる業だと思っているからで、もしそうだとするならば、迫丸に対してのイメージの、夢と現実での決定的な違いは、どう説明していいか分からない。分からないだけに、ギャップがジレンマとして残り、ジレンマが目覚めの不快さを、さらに苛めているのかも知れない。
 夢から覚めたその日、窓から日差しが差し込んでいたのを朝日だと思っていたが、実際には夕日だった。
「そうだわ。今、夜間の勤務だったんだ」
 美由紀の仕事は、シフト性で、夜間もありだった。ずっと日中の仕事ばかりだったが、最近、夜間の人が辞めてしまったことで、美由紀も時々夜間の仕事をするようになっていた。
 仕事は、きついわけではないが、勤務時間が不規則になるのは、思っていたよりも、つらかった。人が帰宅する時間に出勤し、寝ている時間に働くのだ。最初は事務所内の静寂が、恐怖心を煽るくらいであった。
 ただ、その日は夜勤明けで、その日の夜の出勤がなかったのは幸いだった。もし、出勤ということになれば、気持ちの切り替えが必要で、迫丸の夢を見た後での気持ちの切り替えは、かなり無理をしなければいけないと感じていた。
 出勤がないのはありがたかった。気分転換に、近所のスナックに寄ってみようと思ったからだ。最近は夜勤が入ったため、なかなか立ち寄ることもなかったが、一時期は、仕事の帰りに毎日のように立ち寄っていた。寂しさから解放されたいという一心で立ち寄ったスナック。今では常連となっていて、気分転換にはちょうどよかった。
 軽く夕食を摂り、テレビを見ていると、あっという間に午後八時になっていた。表はすでに夜のとばりが下りていて、明るさは、街灯と、それぞれの家から洩れてくる明かりくらいだった。美由紀の部屋は住宅街の一角にあるコーポであり、最寄りの駅までは徒歩で十五分と、少し中途半端な距離であったが、美由紀は気に入っていた。
 駅前から商店街を抜けて帰るのだが、昔ながらのお店も乱立していて、最近では店を閉めたところも少なくはないが、それでも情緒を感じさせる商店街が好きだった。
 コンビニやスーパーで、その日の食事を調達し、家に帰りつくと、テレビを見ながら夕食を食べる毎日だった。
 一人で気楽な時もあるが、寂しさは突然襲ってくる。寂しさを感じた時は、自分が躁鬱症ではないかと思うのだが、鬱状態に陥った時は、あまり動かない方が賢明だということに気が付いた。
作品名:生まれ変わりの真実 作家名:森本晃次