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生まれ変わりの真実

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 理由が何だったかを思い出せないことで、今の記憶の錯綜に繋がっているのではないかと思う。自殺するにはそれなりに理由があるはずだ。だが、頭に中には、理由などなくとも、「自殺菌」のせいで、まるで薬の影響のように、フラフラと自殺のような感じになってしまったのではないかと感じたのだ。
 ただ、今ここにいるのが、本当に自分なのかと感じたのは、誰か他に夢を共有している相手の意識と入れ替わっているのではないかと思っている。入れ替わっているということは、その人が、美由紀自身の身体に乗り移っているということになるのだが、ここの病院で、美由紀は別に身体に何ら変調はなかったのだ。
 確かにかすり傷の一つや二つはしていたが、入院するほどではない。それなのに、どうして自分が病院にいるのか分からない。
 いや、そもそも、ここは病院なのだろうか? まるで独房のようなところに押し込められて出ることもままならない。今のままなら、ここから出ることは不可能ではないかと思っている。医者や看護婦を見ていると、日に日に信じられない感情に陥ってくるが、何を信じていいのか、今は自分すら信じられなくなっている美由紀だった。
 自分が信用できないと思うのは、過去にもあった。
 あれは、結婚してすぐくらいのことだっただろうか。
 美由紀は結婚してからすぐ、一度浮気をしたことがあった。軽い気持ちで、一度だけ……。
 相手も、遊びだったようで、お互いに後腐れがなかったことはよかった。美由紀もそのことを意識するわけでもなく、結婚生活の中で、すぐに忘れていったのだ。
「相手に感情移入があったわけではないので、一度くらいなら、浮気も悪いことではないわ」
 と、勝手に自分を納得させた。強引に納得させるわけでもなく、言い訳をする必要すらないほどの出来事に、すっかり感覚がマヒしていたのだ。
 軽い浮気ほど、中途半端なものはなかった。言い訳もなく、軽い後ろめたさだけが残ったような感覚は、今までの貞操感覚を、鈍らせるには十分だったのかも知れない。
 元々、貞操感覚など、美由紀にあったのだろうか? レズビアンだと思っていた美由紀は、男性との関係は、むしろ、軽いもののように思っていた。相手が女性であれば、他の人の貞操観念に値するものがあったかも知れないが、相手が男性なら、その限りではない。それが美由紀の性癖からくる一つの弊害なのかも知れない。
――どうやら、私はどこかの瞬間で、夢を共有している誰かと入れ替わったのかも知れない――
 今まで、自分の中にあった記憶に出てきた人たちの存在も、中には夢を共有していた人のものも入っているのかも知れない。逆に本来なら自分が体験したり感じたはずの記憶を他の誰かが共有しているのかも知れないと思うと不思議な気がした。
 もし、そうであれば、ここに両親が現れないのも分かる気がする。そして、何かのきっかけで、美由紀が誰かと夢を共有していることを知った人が、美由紀を研究材料として選んだのかも知れない。この病院は、その施設ではないかと思うと、納得できなくもない。
 ただ、それにしても、ここはどこなのだろう? いくら研究のためだとは言え、美由紀一人にこれだけの施設。少し信じられない感じだった。
 さらに、最新設備が整っているわけではない。医者や看護婦の姿も、ファッション的には古いものに感じられた。
 美由紀が何を聞いても、誰も何も答えてくれないだろう。答えようと思っても、説明がつかないのかも知れない。
 だが、それでも意を決して聞いてみた。
「ここは一体どこなんですか?」
「ここは中央病院ですよ。この間も説明したじゃないですか」
「でも、他に患者もいなくて私だけですよね。これってどういうことなんですか?」
「この病院は、確かに患者さんはあなただけです。あなたのための病院と言ってもいいくらいですね」
「えっ、そんなことがあっていいんですか?」
「ええ、あなた以外に、今は誰も患者さんと呼べる人が、このあたりにはいませんからね」
「ここは、何科になるんですか?」
「いわゆる精神科に近いものです。それは、あなたも薄々お分かりでしょう?」
「ええ、でも、私は精神科に入院するような病気なんですか?」
「病気ではないですよ。ただ、あなたが急に何をするか分からない状態になることで、ここにいてもらっているんです。あなたは何も心配することはないんですよ」
「でも……」
 ここまで何も聞かずにいて、その間にいろいろ考えていた。最悪のことも考えていたが、どうやら、看護婦の話していたことは、美由紀の中で考えていた。「最悪の事態」に近いことのようだ。
「それは、何か私の性癖に関係のあることですか?」
 思い切って、恥かしいことも聞いてみた。ここに至っては、恥かしいことなど何もないと思ったからだ。いろいろ聞いてみて、分かっていることを少しずつ引き出すしかないと思ったからだ。
「性癖? そうですね。それも含めたところになりますね」
「私は、誰かと夢を共有しているんじゃないかって思っているんですけど、記憶の錯綜に何か関係があるんですか?」
「ハッキリとしたことは、私にも分かりませんが、あなたがある程度のことを分かっているような気はしていましたよ。それに、今、ある程度の開き直りがあることもですね」
「どうして分かるんですか?」
「開き直りがあるから、いろいろ考えていると思ったんですよ。考えていれば、何となく気付くこともあるでしょうし、探るような目をしているけれど、決して何も聞いてこないのは、それだけ、私たちを信用していない証拠でしょうね。でも、今度は聞いてきたということは、信用よりも、事実を知りたいと真剣に思うようになったということなんでしょう」
「そんなにいろいろ私に話してくれて、いいんですか?」
「ええ、私が分かることは、隠す必要はないということになっていますからね。ただ、私が答えたことを信じる信じないは、別の問題ですけどね」
「そういえば、先生が来ませんが?」
「先生は、もうここにはいません」
 どこかに転勤になったということか? それなら代わりの医者が来そうなものだが?
「あなたのことは、私に任されていますからね」
 美由紀の気持ちを察したのか、看護婦はそう言った。
「ここの表の世界は、どうなっているんですか?」
 これも気になるところだった。
「表は好景気に沸いてますからね。でも、ここは別世界ですね」
――好景気? 時代が変わったということか? あれだけの不況が一気に好景気に好転したということだろうか?
 一体、今は未来なのか過去なのか。美由紀の頭は混乱していた。確かに病院の雰囲気、看護婦の制服、この間の医者のいでたち、どれをとっても、過去にしか思えない。
「今は、一体、何年なんですか?」
「昭和六十年になります」
「えっ?」
 昭和六十年というと、美由紀の生まれた年ではないか。では、いったい今の自分はどこにいるというのだろう?
「先生の話では、あなたの記憶は未来のものらしいですね。先生はビックリしていたようですが、私はさほどビックリしませんでした」
「どうしてなんですか?」
作品名:生まれ変わりの真実 作家名:森本晃次