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生まれ変わりの真実

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 支配されることに違和感は、なぜかなかった。人間から支配されることには抵抗があるが、なぜか自殺菌には抵抗感がないのだ。本当に自殺を考えたとしても、それは無理のないことであり、一思いに楽になれるのであれば、それもまた運命だとさえ思えてくる。
「この世に未練がない?」
 未練とは何だろう?
 気持ちの中に少しでも躊躇や違和感があれば、なかなか自殺などできないものだ。未練とは、自殺するにしても、乗り越えなければならない壁の一つである。
「生きていくことは自殺するより難しい。死んだ気になれば、何だってできる。自殺はいつだってできる」
 ということをよく聞くが、本当だろうか? 自殺するにも勇気がいる。実際に手首を切る人には。躊躇い傷があるというではないか。
 それこそが、この世に対しての未練ではないだろうか?
 自殺しようと思って、遺書を書いたり、身の回りのものを整理したりして、身体を綺麗にして覚悟を決めているのに、それでも、最終的に自殺を遂げられる人は、一体どれほどいるというのだろう。
 美由紀のまわりにもいるのかも知れないが、自殺ということをまわりには隠して、ハッキリしたことを言わない人もいる。全体像は見えてこないに違いない。
 手術するのに、麻酔を使うように、自殺にも麻酔のような効果のものがあれば、もっと自殺者は増えるかも知れない。自殺未遂に終わる人もいるが、死に切れずに、そのまま生きている人はどんな心境なのだろう。美由紀は、自殺に対しての「麻酔薬」が、自殺菌の正体なのではないかと思う。自殺したくない人まで、死に追いやる死神のような菌ではない。死にたいと思っている人の「願い」を叶える、いわゆる「大願成就」の菌なのではないだろうか。
 麻酔薬の類だと思うと自殺菌というものの存在も分からなくはない。入院している病院では、かなり麻酔薬の臭いがしていた。それはかつて嗅いだことのある臭いで、それがいつのことだったのか、記憶としては定かではないが、その頃から、自殺菌を意識するようになった。
 自殺菌が麻酔薬の代わりだとすれば、それは躊躇いを取り除くためのもので、存在を理解できても、どこか釈然としないものがある。
 たとえば、麻薬などのような覚醒的なものであったり、薬の中でも、タミフルのように、意識が朦朧とした中で、飛び降り自殺が増えたりするものもある。広い意味での自殺菌には、それらも含まれていると思っていいだろう。自殺を促すのは、菌だけではなく、薬にもあるのだ。
 自殺の恐怖を取り除くための薬を使うことは、それだけでも勇気のいることだ。美由紀は今までに自殺をするための理由が存在したことはなかった。辛いことがあっても、それが自殺にまで結びつくことはないと思っていた。
 今、入院している病院で、身体は次第に治ってきているのだろうが、心境の変化が訪れてきていて、感覚がマヒしていっているにも関わらず、次第に、「死」というものが近づいてきているように思えてならなかった。
 医者が一人に看護婦が数人、そして、患者は美由紀一人という不思議な病院で、病院というよりも、何かの実験室に思えた。さらに、美由紀の意識がハッキリしてくるにしたがって、病院内で、人の気配が次第に薄れてくるのを感じるのは、不思議なことだった。先生も看護婦も、本当に人間なのだろうか?
 悪い夢なら覚めてほしいと思うのだろうが、その時の美由紀は少し違った感覚を持っていた。
「悪い夢であっても、覚めてほしくないこともあるんだ。まるで、知らぬが仏とは、このことかも知れないわ」
 と思った。
 知らないことがたくさんあっても、それが幸せに思えることもある。人間、最後は誰でも死ぬのだから、どうせなら、苦しまずに死にたいと思うのが、心情というものなのかも知れない。
 死にたいと思うほど、悩むことは今までになかったが、それは、死にたいと思ってしまったら、抑えが利かなくなり、本当に自殺するのではないかと思ったからだ。幸いにもまだそこまで切羽詰った状況に陥ったことがないだけで、一歩間違えば、自殺菌の餌食になっているかも知れない。
 まわりの人は誰も自殺菌について、話をしている人はいないが、本当に誰も気づいていないのか、気付いていても、それを口にすることは、自分が自殺菌の餌食になってしまうであろう大義名分を、自殺菌に与えてしまうことになる。
 その日、美由紀は夢の中で、またしても、誰かに襲われていた。相手が男だったのか、女だったのか定かではないが、森の中に連れ込まれ、おそわれたどこかに連れ去られた。
 その時、相手は美由紀に、ふいに襲い掛かり、車の中に押し込めて、そのままどこかに連れ去った。
 目隠しをしているわけではないので、どこに着いたのかは分かったが、そこは、自分の家のすぐそばだった。
「こんなところが家の近くにあったの?」
 踏切を渡って、すぐのところの敷地内に入っていく。不思議なことに、遮断機が下りているのに、警報機の音と、真っ赤な光を感じることがなかったのだ。しかもいつの間に電車が通り過ぎたのか、急に遮断機があがり、車はそのまま通り抜けた。
 表はレンガ造りになっていて、そこには蔦が絡みついている。そんな道をしばらく走ったかと思うと、その奥にある大きな鉄の門があった。
 鉄の門が開くと、さらにその奥には警備員がいて、ゲートを通ることになった。
 そこは、昼間見た病院の入り口に酷似していた。
「まるで、男たちは、ここがどこであるか分かるように、わざと目隠しせずにつれてきたみたいだわ」
 美由紀の知りたいことを、男たちは示してくれたのだ。そう思うと、これが本当に夢なのか、それとも、記憶の中の一部なのか、いろいろ頭の中を詮索してみたくなった。
 美由紀の知りたいことは、もっと他にもあるのだろうが、まずは、ここの場所が知りたいのが先決だった。
 夢とも、記憶の断片とも知れないことが、恐怖に満ちていたのは、ここの場所がそれだけ、妖気に満ちた場所であるということだった。
 親も人も誰も来ないと言うのは、どうしても解せなかった。病院だというのに、他の入院患者も見当たらない。一体、どうしたというのだ。
 美由紀は、次第に自分が、
「本当に、私は自分なんだろうか?」
 と思うようになっていた。
 記憶の中の意識を紐解いてみて、いろいろな記憶が錯綜している。その中には、自分ではない記憶もあり、特に「夢の共有」などという意識は、自分の中の記憶から少し逸脱したものがあった。
 そうやって考えてみれば、レズビアンだという意識も、本当に自分の性癖なのかと思うほどで、男性を求めているのか、女性を求めているのか、分からなかったりした。病院に入っているのも、その意識が影響しているのではないかと思う。美由紀は、記憶を走馬灯に映してみたが、堂々巡りを繰り返してしまって、なかなか今の自分を理解することができない。
 ただ、少し感じたのは、最近、自殺を考えてしまったということだ。
作品名:生まれ変わりの真実 作家名:森本晃次