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生まれ変わりの真実

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 親との確執は、親も気づいてはいるかも知れないが、それほど表に出しているわけではない。美由紀の中で密かに恨みのように燃えているだけだ。だから、交通事故に遭ったというのであれば、心配してきてくれるものだと思っていたが、あまりにも冷たいではないか。
 ただ、それも、看護婦さんの言葉を鵜呑みにした場合のことであって、美由紀にはまだまだ信じられないところがいくつもある。看護婦さんに対して何を聞いていいのか、いっぱいありすぎて分からなくなってはいるが、それにしても、看護婦さんの方から話してくれる情報があまりにも少ないのだ。
――何も言うなと、言われているのだろうか?
 という疑問が湧いて出ても不思議はない。自分でさえも、まるで夢を見ているようだと思ったからである。部屋を出ることもままならない状態で、次第に自分のいる場所がどこなのか、漠然としていたさっきよりも、今の方が知りたくてたまらなくなっているようだ。今頃になって、部屋の狭さを痛感している美由紀だった。
 美由紀が入院して、三日が経った。部屋から出ることはできるが、遠くには行けないようになっている。ナースセンターの前を通りすぎようとすると、看護婦さんに止められた。
「どこに行くんですか?」
「体調がいいので、少し散歩をと思って」
「あまり遠くに行ってもらっては困ります」
 と言って、三日目になってやっと通してくれた。それまでは、ナースセンターの前から先に行くことは許されなかった。大した病気でもないのにおかしなことだった。
 その日、美由紀は表に出てみた。表に出て愕然としたのだが、病院の表に出るには、警備員が見張っている門を抜けないと出ることはできない。警棒を腰に提げ、さらに、獰猛な犬を連れている。
「これじゃあ、まるで監獄じゃないの」
 壁はかなり高く頑丈に作られていて、表に出るのは、ほぼ不可能だった。
「どうして、こんな?」
 美由紀は他の入院患者と会ったこともない。看護婦数人と、主治医と名乗る男性の先生一人以外とは、誰とも会っていない。
「やはり私は、何かの病気でここに連れてこられ、知らない間に、実験材料にでもされるのではないか」
 と思うほどだった。
「ここはどこなんですか? 私は一体」
 と、看護婦に詰め寄ったが、誰も何も答えてくれない。どうやら聞いても同じようだった。
 一人ベッドに横になり、いろいろ考えてみた。入院する理由など何もない。なぜ、こんなところにいるのだろう? 大体、ここは一体どこだというのだ。美由紀の頭の混乱は収まるわけはなかった。
「どうだね。具合は」
 そこへ医者が入ってきた。もう何も話す気にはなれなかった。何を聞いても答えてくれるはずもないし、興奮するだけ、相手の思うツボだと思ったからだ。
 医者は、まだニコニコ笑っている。その笑顔に美由紀がゾッとしたものを感じたのである。
 美由紀は、完全に開き直っていた。誰に対しても、何も言わないようにしようと思った。だが、美由紀の性格は、熱しやすく冷めやすい方だったので、開き直りもそう長くは続かない。
 今度は、鬱状態が襲ってきた。それまでと同じようにまったく無口で何も言わなかったが、明らかに態度は違っていたはずだ。さっきまでは、相手を寄せ付けないような敵対した表情だったが、今度は無表情になっていることだろう。だが、相手を寄せ付けないという意味では、無表情の方が、効果はあるのかも知れない。
 ただ、ここではどうなのだろう? すべてが美由紀の想像を絶するような状況に、臆しているわけではないのだが、ついていくことができない。
「どうやら、まだ、落ち着いていないようだね」
 何を言っているのだろう。これ以上落ち着いたような表情はないはずだ。
 無感情ほど、相手に気持ちを悟られないようにできるはずだ。無表情になることには慣れていたので、きっと効果があるだろう。そう思うと、少し自分にも優位性があるような気がして、少し余裕が出てきた気がした。
 だが、しょせんはベッドの上、逃れることのできない「まな板の鯉」だった。無表情で対応しようとしても、相手は笑顔しか見せない。その奥には、
「そんなに気張っても無駄だよ。私たちは君のことは何だって知っているんだ」
 と、言っているのと同じにしか聞こえなかった。
 お釈迦様の手の平で弄ばれる孫悟空を思い出した。
「そんなにお前がすごいというのなら、私の手の平から抜けてごらんなさい」
 と、言われ、簡単にできると答えた孫悟空。雲に乗って一気に何千里もすっ飛んで行ったつもりで、遠くに見える五本の大きなタワーを目にした。
 これが世界の果てだと錯覚した孫悟空は、記念にサインをして帰ってくる。
「私は、世界の果てまで行ってきました」
「ほう、それはすごい。どんなところであった?」
「五本の塔が経っているところでした。行った証拠にサインも残してきましたよ」
 と、自信満々で答えるが、お釈迦様が差し出した指には、孫悟空のサインが書いてあった。
 どんなに粋がってみても、自分よりも力量の優れた相手に対抗するには、相手よりもさらに自分が精進しなければいけないということ、さらに最低でも素直でなければ、最後は自分の無力を思い知ることになるだけだということを、思い知るだけだった。
 そんな孫悟空の話を、美由紀は思い出したが、ここにいる限り、自分の意志で動くことができないようだ。
 牢獄のような建物に、知らない人ばかりがいる環境。そして、何よりも気持ち悪く思うのが、
「皆、何かを隠している」
 ということだった。夢の中では相変わらず、最初は包帯がグルグル巻きになった顔を思い浮かべてしまうが、次に感じることは、包帯を取るのが怖いと思うことだった。なぜ怖いと思うのか。どんな傷が顔にあるのか、それが怖いのか。美由紀はその次の過程を叶えることを止めた。それは、想像するだけで文字通り、自分を否定することになるからである。
「私、自殺を試みたのではないかしら?」
 と思うようになったのは、三日目からのことだった。最初にそう思うと、自殺を裏付けるような事実を、頭の中で思い浮かべようとしている。
 ただ、どうして自分が自殺しようと思ったのか分からない。不思議なことに、自分が自殺を考えたのではないかと思った瞬間から、あれだけ気にしていた自殺菌の存在が頭の中から消えていたのだ。
 再度自殺菌のことを思い出したのは、それから二、三日経ってからのことだった。いくら考えても、自殺する理由など浮かんでこない。そこで、考え方を少し変えてみたのだった。
 一つのことを考え始めると、性格と同じで、猪突猛進。他に疑うことを知らなかった。それだけ自殺ということに対して、自分にはあり得ないことだという意識が離れず、信じられないという思い以外、思い浮かぶことはなかったのだ。それが急に自殺菌を思い浮かべたということは、それだけ、もう考えるだけの力もなく、逆に考えつくしたとも言えるのだろう、
 今度は頭の中を自殺菌が漂っていて、自分が自殺菌に支配されているのではないかと思うのだった。
作品名:生まれ変わりの真実 作家名:森本晃次