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生まれ変わりの真実

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――もう少し素直だったら、寂しい思いをせずに済んだのかな?
 とも思ったが、人に対して強情なところがあり、自分に対しても納得のいかないことへのシビアな態度が、自分の気持ちを頑なにしているのだろうと思っていた。
 寂しさは自分の気持ちを反映していて、今の自分の中で一番強い感情なのだと、美由紀は感じていた。寂しさを感じることは、しょうがないことだとして片づけるのは簡単だが、病院のベッドの中で考えることができれば、いい機会だと思っていたのに、なぜか、ベッドの上での思考能力は、無に近かった。
 踏切の音を聞いていると、また麻酔に掛かったように意識が朦朧としてきた。そして、次に目を覚ました時、美由紀は自分の顔に違和感があることを感じていた。
「何か布のようなもので縛られているようだわ」
 それが包帯で、顔全体に巻かれていて、まるでミイラのようにまわりから見えるであろうと思うと恐ろしかった。自分で想像しただけで気持ち悪い。ただ、これも初めて感じる感覚ではなかったように思う。だからこそ、すぐにそれが包帯だと分かり、それと同時に、包帯であることが間違いであってほしいと思ったのだ。
 美由紀が盲腸で入院した時、顔全体とまでは行かないが、頭全体と、半分の目を覆い隠すほどの包帯を巻いている人を見たことがあった。
 気持ち悪さが意識の中に残り、その数年後に見たテレビドラマで、今度は顔全体を、包帯でグルグル巻きにされた人の姿を見た。まるでミイラ男のようだと思ったが、その人は女性だった。
 彼女は、別にケガをしたわけではない。整形手術を顔全体に施していて、大きな手術の後だったのだ。
 美しくなりたいという一心から、一生懸命にお金を溜めて、整形手術を受ける。だが、名医と言われていた医者の医療ミスで、彼女は、包帯を取ることができなくなってしまった。
「包帯を取るまでには、まだまだ時間が掛かります」
 と患者には時間稼ぎをしたが、あまり長いと、いくら何でも疑うものである。信じられなくなった彼女は医者の前で包帯を取ると、その顔はどこも傷ついているわけではなく、彼女の中では十分合格と言えるほどの顔に作り変えていたのだ。
 彼女とすれば、
「手術が成功したのに、どうして、そんなに包帯を取らせたくなかったのだろう?」
 と思うことだろう。
 だが、医者としては、絶対に見たくない顔だった。いや、医者としてというよりも男としてなのかも知れない。
 医者はうろたえた。分かっていたつもりではあったが、目の当たりにすると、恐ろしくて声も出ない。
「先生、ありがとうございます。こんなに綺麗な顔に仕上げてくれて、私嬉しいです」
 と女が医者に近づくと、医者は、手で虚空を掻きまわすようにしながら、
「寄るな」
 とでも言いたげに、手を闇雲に振っている。明らかに行動が常軌を逸していた。
「どうしたんですか? こんなに綺麗なのに、どうして、すぐに教えてくれなかったんですか?」
 女が歩み寄ると、医者は、さらに狂気の沙汰で怯えまくる。声を出そうにも出ないのか、しきりに首を抑えて、苦悶の表情を浮かべる。
 女には、何が何だか分からない。
 すると女が急に苦しみ出す。
 顔を抑えて、
「熱い、顔が熱い。先生、これどういうことなの?」
 業火に焼かれているかのように苦しみだした女を見て、医者は、今度は怯えというよりも、冷静さが少し戻ってきたが、同じ冷静さでも狂気に満ちた冷静さだった。
 女が苦しんでいる顔を見て、医者は微笑んでいる。
「燃えろ。このまま燃えてしまえ」
 とでも、言っているかのような表情は、まるで魂を悪魔にでも売ってしまったかのように狂気に満ちていた。
 真っ赤な炎が次第に青白く変わってくる。それは男の気持ちを表しているかのようで、静かに冷たく燃えていた。
 女が絶命すると、その顔には、やけどの跡ではなく、無残な切り傷に、ところどころが化膿している、実に醜い顔だった。
 本当は、手術の失敗による顔なので、最後の顔が彼女の本当の顔なのだろうが、実は以前にこの医者は、同じ医療ミスを犯している。その時の相手が自分の好きなタイプの女性で、心の中で、
「どうして、その顔を変えてしまうんだ。俺にとっては最愛の顔なのに」
 と、思った。その気持ちが、医者に医療ミスを起こさせたのだ。
 医者の気持ちも分からなくもない。もちろん、被害に遭った女性が一番気の毒だ。ドラマを見ていて、どちらの気持ちも分かった美由紀は、その切なさに、無常を感じた。
 医者は、それでも医療ミスを何とか隠し、そのまま医者として君臨していた。そのことを罰するような意味でのドラマなのだろう。
 だが、美由紀は無常と切なさをドラマの中に感じ、しかもその時に、自分が二人目の被害者になった気分になっていた。結局最後は、皆死んでしまった。最初の医療ミスは自殺だった。それは分かるのだが、不思議なことに、二度目の医療ミス、そして、医者の発狂したかのような乱行はすべて表に出ることはなかった。
 ドラマの最後としては、医者も、最後の患者も、自殺ということだった。しかも、二人は以前から関係があり、無理心中だったという話で終わっていた。
 ただ、事実として、医者と患者が深い関係にあったというのは立証されたという。
「包帯の中の女が私をイメージして見てしまったのは、医者と女が深い仲で、ドラマとしては、女が宙に浮いていたことで、感じたことだったのかも知れないわ」
 美由紀は、ドラマを見ていて、すぐに自分をドラマの中に当てはめる傾向にあった。その時のイメージがなぜ今頃になって思い出すのか、分からなかった。美由紀には、ドラマの最後が、全員自殺だったというのも、気になっていた。ひょっとして、二人が自殺だったというのも、作者に「自殺菌」なる発想があったのではないかと思えてならない。大っぴらに自殺菌を表に出しても、子供じみた考えになるだろうと思い、ドラマでは最後を自殺として結ぶことで、自分の中にある発想を書き出したかったのかも知れない。
「作者は、今元気でいるのだろうか?」
 自殺菌を含ませてはいても表に出してしまったのだから、ひょっとすると、毒気にやられてしまっているのではないかと考えるのだ。
 ドラマを見てからしばらく経って、ドラマを思い出したことがあった。
 あれは、自分が些細なことで喧嘩したことが原因で、自殺を考えた時だ。今から思えば、どうして自殺など考えたのか分からないが、無性に寂しさを覚えたのだろう。その時にドラマを思い出したことで、ハッとして自殺を思いとどまったのだ。
 自殺しようと考えてしまったのも自殺菌のせい、それを思いとどまらせようと何かの力が働いたのだろうが、美由紀にはそれも自殺菌だったのではないかと思えた。自殺菌の中で葛藤があるのか、それとも自殺菌の中に、二つの性質があるのか、そんなことを考えていると、自殺を思いとどまった自分が不思議に思わなかったのだ。
 もし、自分の中に自殺菌がいるとすれば、これからも何度か自殺しようと思うかも知れない。しかし、そのたびに止めてくれる菌もいる。
作品名:生まれ変わりの真実 作家名:森本晃次