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生まれ変わりの真実

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 快感に身を委ねるようになって、考えることが無駄であることに気付いた。むしろ、身を委ねることで、浮かんでくる発想を大切にすることが、その時の美由紀には大切ではないかと思えたのだ。
――夢は私に何を見せようというのだろう?
 夢と現実の狭間で快感に身を委ねる。それが、その時の美由紀だったのだ。
 小学生だった美由紀が、次の瞬間には、中学生になっていた。
――次の瞬間――
 それは、迫丸の指が、美由紀の乳首に触れた時だった。
 すでにブラジャーは剥ぎ取られていて、男の人差し指の腹の部分で、ゆっくりと愛撫されていたのである。
――中学生の頃の私って、すでに感じる身体だったのかしら?
 美由紀は、中学の時は、典型的な暗い女の子だった。まわりが集団を作っていく中で、自分はいつも端の方にいて、誰とも接しようとしない。完全に気配を消していたと言ってもいいだろう。
 もちろん、彼氏がいるわけもなく、男の子からも、近寄りがたいと思われていたに違いない。
――話題にすら上がらない女の子――
 それが美由紀であり、自分でも毎日何を考えていたのか不思議なくらいだった。まだ小学生の頃の方がいろいろ考えていたように思う。気が付けば何かを考えていたのが、小学生の頃だったからである。
 迫丸は、家が近かったこともあって、同じ中学校に進んだ。彼も、男子の中では、美由紀と同じように、皆から気持ち悪がられていたようだ。かくいう美由紀も迫丸を気持ち悪いと思っていて、
――私は彼とは違うんだ――
 という意識だけは、ハッキリと持っていた。
 中学の頃から、迫丸という男は、今夢で見ているようなことをするだろうという思いを持っていたような気がする。
――それがまさか夢だとはいえ、自分に対してするなんて――
 夢とは潜在意識が見せるものだという意識がある美由紀は、迫丸に悪戯されている夢を見ることに嫌悪感を感じる。確かに、幼い頃の記憶に、迫丸から悪戯されたというイメージが残ってはいるが、ここまでハッキリした記憶ではない。幼児体験としては、ショッキングではあったろうが、記憶から消そうと思えば、消せないことはないと自分で思っていたことであった。
 それなのに、今さら蒸し返すような夢を見るというのは、どうしたことだろう? しかも内容は、想像を絶するようなことである。
 小学生から中学生に掛けてというと、本当に美由紀の人生の中では、一番暗かった時期だったかも知れない。高校時代は、受験というものが控えていたこともあり、誰もが孤独さを持たなければいけなかった時期だと思っている。ただ、それも美由紀の中だけで感じていることなので、実際には違うのではないかということを、かなり後になって思うようになっていたのだが……。
 迫丸の指は、決して力を込めようとしない。それは、同じリズムで愛撫されていて、急に快感で、身体が弾けるような反応を示す美由紀にとって、物足りなさを感じるくらいだった。
 そう思った瞬間、それまで無表情だった迫丸の顔に、笑みが浮かぶ。その顔には余裕が感じられるようで、癪な気がした。こんな屈辱を受けながら、相手に余裕を与えてしまっていると思うと、美由紀は腹が立った。それは誰に対して腹が立ったわけではない。他ならぬ自分に対してであった。
 迫丸は、そんな時、一瞬力を込める。その時に余裕の表情は、少し歪みを見せる。
――これが、この人の感情なのかも知れないわ――
 それまでいくら笑みを浮かべようが、余裕を感じさせようが、彼に感情を感じなかった。しかし、力を込める時に歪む顔にだけ、感情を感じるというのもおかしなものであった。それがどんな感情なのか分からないが、それでも感情を見せた彼に、美由紀は一瞬、ホッとしたものを感じていた。
 ホッとしたものを感じた瞬間、美由紀は激しい快感に襲われた。それは、さっきまでの身体だけの反応ではなく、感情が働いているのを感じるようだった。美由紀が感じた感情、それは、
――相手を求める感情――
 そんな感覚だった。
 三十歳を超えた今までに、相手を求める感情は、感覚から生まれるものだった。本当であれば、感情が先にあって、感覚で感じるものだと思っていたが、美由紀の場合は、感情よりも先に感覚が動いてしまう。
――この人を感じたいわ――
 その思いは感覚であり、感情ではない。感じたいと思っても、求めているという思いは、身体が反応しているだけだったのだ。
 身体が反応してしまって、その人のことを欲すると、感情に訴えてみる。ほとんどの場合、感情は感覚に逆らうことなどできないが、たまに、感情が拒否することもあった。
――こんな感覚になるなんて――
 自分でも不思議だった。
 しかも、その相手というのは、誰が見ても人間としても立派な人で、そんな人に好かれた時に、感情が拒否してしまうのだ。
「あんた、どうしてそんなことができるのよ」
 と、まわりからは言われるだろう。
「何、お高く留まってるのよ」
 と、いう声も聞こえてくるだろうし、もし、これが他の人であれば、美由紀も同じことを感じたかも知れない。
――女性から見て、これほど嫌な相手はいない――
 という思いにさせられるのだ。
「ああ、だめ」
 声を押し殺しても漏れてしまう声に、やっと、迫丸は余裕の笑顔を見せた。
――ち、違う――
 その笑顔は、さっきまで見せていた憎らしい感情に至るような笑顔ではない。同じ余裕の笑顔でも、そこには、相手を包み込む感情が含まれていた。
――この人はいくつの顔を持っているのかしら――
 顔というのは、感情という言葉に置き換えてもいいだろう。
「感情の数だけ、表情がある」
 表情とは、つまり顔である。迫丸にどれだけの感情、つまりは顔があるのか、興味を持った。さっきまで嫌で嫌でたまらない相手に対して、興味を持ったのである。
――これが夢の持つ力なのかしら?
 と思った。
 だが、本当に夢の力なのかどうか疑問であった。夢の力だとすれば、美由紀には寂しさが残る。このまま夢として終わってしまえば、目が覚めてから、何も残らない気がしたからだ。
「覚めないで」
 夢の中で、快感に身体を震わせながら、呟いた。
「覚めやしないさ。君は僕のものさ」
 彼の声は、最初に感じた高い声ではなく、いつもの低い男らしい声だった。その声は、包み込むような表情に合っていたのだ。
――夢の世界では、相手の表情で感じた感覚を、自分の中で表現でき、さっきまで夢に支配されていたと思っていた自分の感覚が、次第に自分から夢を支配するような感情に変わっているのかも知れない――
 と、感じていた。
「もっと、愛して」
 美由紀は、吐息とともに、呟いた。
――信じられないわ。私がこんなことを言うなんて――
 好きな相手と愛し合っている時だって、こんな言葉を発したことはない。快感が、無意識に言わせた言葉なのだろうか?
 ということであれば、好きな男性と愛し合っている時に、ここまでの快感を感じたことがないということになる。信じられないと思ったのは、そのことだったのだ。
作品名:生まれ変わりの真実 作家名:森本晃次