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生まれ変わりの真実

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 と、想像してみるが、ハッキリとは分からない。同じ夢を何度も見ているようなのだが、それは夢の続きのような気もする。誰かとの夢の共有であれば、続きというのも分からなくもない。だが、共有することで、自分に自由はなく、かといって、相手に自由があるわけでもない、
 一見夢の共有は、お互いにとってメリットなど何もない気がする。それは昼と夜を支配する世界のようなもので、どちらかが絶対的に支配できるというものでもないのだ。
 男の子を見ていれば、淫らな発想が過激である気がするのに対し、相手が女性であれば、淫らな発想も、禁断な果実を食べてしまったことで起こる、無理のないことだとして、納得してしまう。
 禁断な果実は、食べたものの身体を熱くして、身体中に細胞に活性化を与え、血液の流れを促進する。まるで媚薬のようなものではないか。媚薬とは違うところは、禁断の果実が、絶対的な淫乱な自分を目覚めさせるわけではないということだ。
 食べた本人には、それが禁断の果実であるという意識はない。身体が熱くなり、細胞が活性化されても、それでも自分が淫乱であるという意識はないのだ。
「禁断の果実は、夢の中でしか、効果を表さない」
 実際の禁断の果実は、現実社会にあるもので、それを口にすると、いつの間にか睡魔が襲ってきて、自分の意識が夢の中に誘われ、夢の中で身体の熱さ、細胞の活性化。血液の流れの促進を感じることになる。
 その時の夢を覚えていることはない。禁断の果実は、誰にも知られてはいけないものなので、夢から覚める時に、感覚からすべて消し去ってしまうのだ。
「消し去る意志があるのだろうか?」
 覚えていないということは、夢の中で、起きる際に消し去らなければいけないという思いが働いて、徐々に消していくものなのだろう。楽しい夢や、気になる夢を見た記憶はあっても、気が付けば忘れてしまっているということも多々あるだろう。なぜなのかといつも考えていたが最近の美由紀は、その原因を「禁断の果実」だと思うのだった。
 禁断の果実の存在に信憑性を与え、またしても、夢の中で何かを納得させようとしているのかも知れない。夢というものを見る定義として、
「言い訳を信憑性のあるものにするため、夢という曖昧な意識が有効なのだ」
 と思うようになっていた。
 美由紀は、夢を見ている時に、夢だと感じる時が、結構ある。それなのに、ただ、それも、夢から覚めて、
「夢だったんだ」
 という意識を持つだろう。
 夢だったという意識が、遡及をもたらし、夢の中でも、自分が夢を見ているという意識があったのだという、錯覚を起させるのかも知れない。遡及というのは、何かを考えていて、我に返った時に、その時に考えていることと、集中する前に考えていたことへの結びつけが困難になった時のための「辻褄合わせ」なのだろう、辻褄合わせが言い訳と結びつき、言い訳の部分が、自分にとっての淫靡な部分になるのだと思うのだった。

 昼が夜でも、夜が昼でもない世界。それが夢の世界であったが、夜の夢を見る時は、少し感覚が違っていた。
 真っ暗な中なので、夜の夢だと思っているが、本当にそうだろうか。まったく光がなく、もし、光りを発するものが目の前にあったとしても、暗黒に明るさという自由を奪われてしまう。視線を少し逸らして、横目で見れば、明るさを感じることができる。真正面で見るから、すべてのものが暗黒に感じられた。
 明るさがまったくなくなったわけではなく、目の前で意識するものだけが、暗黒に包まれていた。視界に入っているだけで、実際には意識していないものだけが、明るさを保ったままなのだ。
 真っ暗な中では、風が狭い隙間を通り抜けるような音がしていた。通り抜ける音がするのに、風を一切感じない。まるで真空状態ではないかと思わせるほどで、風を感じるとすれば、耳だけではないだろうか。
 視界の端を意識していると、格子戸のようになったところから、光が断続的に走り抜けていくのを感じた。格子戸は、京都の祇園を思わせ、高下駄を履いた舞妓さんが歩いてくるような雰囲気であった。
 暗闇で風を感じないというのは、熱気が籠って感じられる。見えないだけで、すぐそばに壁があるという圧迫感を感じさせるからだ。
 汗が滲み出す感覚は、不思議となかった。汗が吹き出せば、今度は風がなくとも、若干涼しさを感じるだろう。確かに最初は真っ赤になるほどの熱さに耐えられないくらいかも知れないが、一旦落ち着けば、あとは、涼しさを感じるだろう、体温を少し下げてくれる気がするからだ。
 熱気はすぐに解消された。さっきまでなかったはずの風を感じたからだ。風を感じると、今度は汗を掻いていた。汗を掻かなかったのは密室の恐怖に、身体が反応しなかったからかも知れない。もう少し長く続いていれば、精神的にもどうなっていたかと想像すると、ゾッとするものがあった。
「カンカンカン」
 明らかに聞き覚えのある音が聞こえてきた。
「警報機だわ」
 と、すぐに分かった。どうしてこんなところで警報機の音がしてくるのか不思議ではあったが、違和感はなかった。不思議に感じることと違和感を感じることは、決して同じではない、違和感を感じることがあっても、不思議に思わないことはたくさんあるし、不思議に思うことでも、違和感を感じないことも、少なくはないだろう。
 ただ、遮断機が下りてくる時の警報機の音は、暗闇で聞いても違和感がない。夜の踏切を想像すればいいのだろうが、暗黒の世界に似合うとは思わなかった。
 遮断機の赤い点滅の向こうには、民家から洩れてくる明かりが見えているのを想像していた。夜のしじまの中で、頭を駆け抜けるような乾いた音を轟かせ、静寂を突き抜けるように電車が通り抜けていく。
 スピードはさほど感じないが、その代わりに、重量感を感じさせる。真っ赤な点滅は血の色を思わせ、身体にゾクゾクしたものを植え付けるのは、赤い色に病院、それも手術室の前を思わせるからだった。
――手術室――
 手術中の赤い文字が点灯され、いつまでその色が消えないでいるか、ずっと見ていたことがあった。あれは、まだ子供の頃、友達が交通事故に遭った時だった。
 どれだけの時間が経ったのだろう? 赤い点灯が目に入ってから、視線を離すことができなくなってしまった。二時間、三時間、いや、そんなものではない。気が遠くなっていくのを感じ、目の前が暗くなっていき、赤い点灯が点滅に変わっていくと、自分が衝動的に何かをしようとしているのを感じた。
 その前に、深い眠りに落ちていく。手術室の前にいたと思った自分は、気が付けば、手術台の上に寝かされていた。いくつもの顔が放射状に覗き込んでくる。逃れることができないと観念した時、美由紀は、深い眠りに落ちていくのだった。
 気が付いて、すぐ目の前に飛び込んできた赤い色、それは明かりではなく、机の上に置かれた一輪のバラだった。病室のベッドの脇に、赤いバラが刺さっているのだ。
 バラに目を奪われていると、首が痛くなってきた。身体を動かすことができない。何かに縛られているような感覚だったのだ。
 それでいて、身体からは痛みを感じない。感覚がマヒしているのだ。
――自分の身体じゃないみたいだわ――
作品名:生まれ変わりの真実 作家名:森本晃次