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生まれ変わりの真実

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 しかも、夢の共有などという発想が出てくるに至っては、迂闊なことはできない。相手は何でも分かって行動していると思えて仕方がないので、ヘビに睨まれたカエル状態であった。
――女は、これが夢の共有だという意識があるのだろうか?
 美由紀にはあるような気がしていた。自分が夢の共有だということに気が付いたのも、女の堂々とした態度に教えられたのだろう。
 さらに女は、自分自身だと言った。美由紀とは違う世界にいて、美由紀よりもたくさん知っている部分もあれば、今の美由紀の方がたくさん知っている部分もある。夢を共有することで、お互いにメリットがあるのではないかと思えた。
 だが、逆に恐怖もある。知ってはいけないことまで知ってしまうのではないかということだ。
 たとえば未来のことである。自分が知り得ない未来のことを、あの女は知っていて、それを教えてはいけないという鉄則があり、教えてしまえばどうなるかまで知っているのだとすれば、相手も迂闊なことはできない。
 ただ、女がなぜ現れたのか、それは、今の美由紀にとって、このまま進んでしまってはいけないことがあるのではないかと思うのだ。
 また西遊記の話を思い出した。
 昼と夜の世界の話は、男女の関係とも似ているのではないか。いや、男女の関係を模倣して書いているとも考えられる。
 きっとそうだろう。
 昼と夜、どっちが男なのか分からない、ただ、すべてを昼と夜に分けることができないように、男と女も、一刀両断にすべてをどちらかに分けてしまうのは、あまりにも乱暴なことである。
 美由紀は、自分の性癖を隠さなければいけないものだと、ずっと思っていた。羞恥にまみれた、恥かしいもの。それ以外の何者でもない。
「お姉さま。あなたは、ここで私と溺れていればいいのよ。下手に現実社会に帰ったら、ロクなことがないわ」
 女のいうことは、支離滅裂に思えたが、なぜか説得力を感じる。気が付けば相手に臆してしまっている自分を何とか誤魔化さなければいけない。
「それは、どういうこと? あなたに何が分かるっていうの? 私の人生を邪魔しないでほしいわ」
 言葉は強気だが、腰が完全に引けていた。ただ、女が美由紀の人生を邪魔しようとしているのは間違いない。もし、何か美由紀に都合が悪いことが分かったとしても、それを普通に話してくれればいいものを、どうして、こんな回りくどいやり方をしなければいけないのか、理解に苦しむだけだった。
 嫌がらせにしか思えない。
 だが、美由紀に対して、どういう態度を取るのが、一番説得力のある接し方となるのだろう?
 自分でも分からない。どうされれば、相手に対して安心感と納得が得られるというのだろう。それを思うと、女の態度は強引で、苛立ちしか湧いてこないが、変に説教じみたことであれば、説得力は薄い。それこそ、白々しさしか相手に対して湧き上がってこないのではないだろうか。
 最近の自分のことを思い返してみると、どうにも掴めない雰囲気が漂っている。波乱万丈の毎日を送っていると思っているのは、ただ単に流されている毎日に対しての言い訳のように思える。
 言い訳の人生を歩んでいると、自分の性癖だけが、正直な自分を表しているようで、自分のことを好きな人ばかり想像してしまうのだ。それが自分にとって毛嫌いしている人であっても、自分を好きになってくれたのだという発想の元、まんざら嫌な気分ではなかったりする。
 迫丸もその一人だった。
 自分に悪戯をした過去があるのに、なぜか夢に見てしまう。嫌がっていても、最後には、彼に惹かれている自分に気付くのだ。
「私を好きになってくれた人は、私自身が自分のことを考えるよりも、深く私を知っているのかも知れないわ」
 と、思った。それはたくさん知っているのではなく、深く知っているのである。普通の恋愛であれば、まず深く知ることよりも、たくさん知りたいと思っている人ばかりと付き合ってきた。だが、思い出す人は、皆美由紀を深く知っているであろう人だったのだ。
「自分の知らない奥を知っている人」
 想像すると、最初に感じるのは、
「どんな形で私を愛してくれるのだろう?」
 という思いだった。自分を深く知りたいと思っている人は、美由紀を愛している人なのだ。そして、愛の形の中に、
「支配する」
 という考えが含まれている。支配には責任があり、ただ相手を蹂躙するだけではダメなのだ。自分も相手もお互いに「主従関係」として、確立していなければならない。たとえそれがアブノーマルであったとしても、お互いが納得ずくであれば、そこに存在するものは、愛情で結ばれた関係と言えるであろう。
 いつも深く考えているつもりの美由紀であったが、自分よりも深く考えている人がいると思うと、すぐに萎縮してしまう。気が強いと思っていて、他人と比較されたくないと思っているくせに、いざ比較となると、先に折れてしまうのだった。
 確かに、自分は最近、精神的におかしくなっているのではないかと思っていた。以前は妄想を恥かしいことだと思っていたのに、羞恥の気持ちはありながら、言い訳をしなくても、自分で納得できるような気がしていた。それを自分では、
「大人になったんだ」
 と思っていた。羞恥を恥かしいこととして自分で納得してしまったことは、萎縮する気持ちに拍車を掛けたのかも知れない。
 ただ、こうやって考えていくと、羞恥に繋がる発想は、果てしない。それを抑えるには、いくらか自分を強引にでも納得させなければいけないだろう。
 そんな中で、
「私は、あなた」
 と名乗る女が現れた。女は、美由紀にここに留まるようにいう。それも上から目線ではなく、美由紀をお姉さまと言って、慕っているかのようだ。
 見るからに、この女のわがままにしか見えない。美由紀を蹂躙しておきたいわけではなく、何が目的なのか分からないが、何か、美由紀の中で警鐘を鳴らしているのかも知れない。
 美由紀には、これと言って何も思いつかない。急に何かを感じ、悪い方に進むのだとすれば、自分の性癖が悪いのではないだろうか。
 美由紀は自分の性癖をかつては、どうにかしないといけないと思っていたのに、今では、甘んじて受け入れている。人に話すことはさすがにできないだけで、後は、納得しているのだ。
――一体何が違うのだろう?
 自分で納得するために、何か捨てなければいけないものがあったように思う。それが人との交わりであることに気が付いたのは、自殺菌のことを気にするようになった頃だっただろう。
 自殺菌のことを気にするようになった頃と、どっちが先だったかは定かではないが、自殺菌を気にし始めたことで、何かを捨ててしまったということだろうか。確かにあの頃は、電車の中で感じたような、不気味な感覚を夢で何度も見た気がした。動いていない電車に揺れが存在しているだけの、幽霊列車の夢から、自殺菌の発想も生まれてきたのだった。
――私が求めているのは、一体誰なんだろう?
作品名:生まれ変わりの真実 作家名:森本晃次