生まれ変わりの真実
だったのとは違うのだ。最初からそれ以外を頭には描いていなかったので、ビックリしたのだった。
だが、目が覚めて、美由紀の身体から火照りが収まらなかったのは事実だった。この夢の中だけで、いろいろなことが走馬灯のように思い出され、美由紀の中での発想が、時系列を混乱させただけではなく、自分の中にある性癖に対しての考え方すらも、変えていってしまったようだ。
女は、美由紀の身体が感じれば感じるほど柔らかくなってくることを知っていた。元々身体は柔らかい方だと思っていたが、身体から湧き出してくる愛液を感じると、美由紀は独特の匂いを発するようで、
「お姉さまの身体、酸っぱい」
「言わないで、恥かしいわ」
美由紀が恥かしがっているのを見ると、女は淫靡な笑みを浮かべ、美由紀にアクロバットのような格好をさせた。
「あ、そんな格好」
ここまで柔らかくなる格好をさせられて、美由紀はビックリしたが、恥かしさよりも、どうしてそんなに身体が動くのかの方が、その時は強かったように思う。
「お姉さまの身体が、こんなに柔らかいなんて、私嬉しいわ。私の身体は、本当に硬いから」
そう言って、彼女は自分でも身体を曲げようとしたが、まったく曲がっていない。それが演技なのか、本当なのかは、美由紀には分からなかった。そんなことを考えられる余裕は、まだその時にはなかったのである。
さらに女は美由紀の匂いに興味があるようで、恥かしい部分に舌を這わせながら、クンクンと匂いを嗅いでいる。
「いや、恥かしい」
「お姉さまは、こうされることを、本当は望んでいたんでしょう?」
美由紀はビックリした。美由紀は、今までに夢という妄想の中で、何度かセックスをしていた。それは相手が男であることがほとんどだったが、女の時もあった。実際に待ち望んでいたのがどっちなのか分からないが、相手が男であった時、
「ああ、女がよかった」
と思うことがあったが、逆に相手が女の時、
「男だったら、よかったのに」
と思うことはなかったのである。
それがなぜなのかということを、想像してみたことがあったが、それはきっと、その前に見たセックスの夢が女だったことで、もう一度女を感じたいと思ったからである。男とのセックスは、次に余韻を残すようなことはなかったが、女とのセックスの場合は、残るのだ。美由紀は自分で納得していた。
男はセックスの中で絶頂を味わうと、そう何度も絶頂が訪れることはない。なぜなら、射精をするからだ、出してしまえば、ある程度冷静になり、冷めた気持ちになる。女が余韻に浸りたいと思っているのに、出してしまえば、さっさと服を着てしまう男もいるのは、男と女で迎える絶頂が違っているからだ。
その点、女は絶頂を感じても、男のような射精感があるわけではない。何度でも絶頂を味わうことができるし、何よりも、絶頂に達したあとの気だるさの中で、その余韻を楽しもうとするのだった。その違いのないことが、男と女のセックスにおける絶対的な違いであって、納得できる範囲が狭いところでもある。
「セックスは、男と女の考え方、大げさに言えば生き方の縮図のようなものなのかも知れないわ」
と、美由紀は考えるのだった。
美由紀は、女とのセックスに溺れるのも仕方がないことだと思っていた。
「私は、知ってしまったんだわ」
女と男のセックスの違いを知ることは、男女間のことで、今まで疑問に思ってきた違いについて、ある程度分かるようになったのではないかと思っていた。
男が、
「女の気持ちが分からない」
と言って悩んでいる姿は、本当なのかも知れないが、女が、
「男の気持ちが分からないわ」
と言っている姿を見ると、中には、その言葉にウソを感じることがある。本当に分からないと思っているのなら、言葉にしないのではないかと思えるタイプの女性がいるからだ。分からないという言葉を発して、男性を安心させる。そんな女が中にはいるのだ。そしてそんな女こそ、自分で納得していることにしか発言はしない。しかも、納得していることと違うことを口走るのだ。
「相手を安心させる」
という言葉が、その女の気持ちの中から聞こえてきそうだった。
夜なのか、昼なのか、まったく分からない。真っ暗な部屋の中にあるベッドの中で、二つの肉体が、湿気を帯びた空気の中で蠢いている。その中で、男の切ない声と女の甘い吐息が漏れている。美由紀は、女と戯れながら、なぜか、そのシーンを頭に描いていた。
――集中できていないわけではないのに――
女と、戯れている間に、どうして、男と女の部屋を思い浮かべるのか分からなかった。真っ暗な部屋の様子は分からない。目が慣れてくれば、そのうちに見えてくると思うのだが、一向に目が慣れてくるわけではない。
しかし、想像だけで思いを巡らせていると、
――なんて淫靡なのかしら、こんなに興奮する想像は今までになかったことだわ――
声が漏れてくるのを想像しながら、美由紀は女の舌に溺れていくのを感じた。
「お姉さま。ダメだよ。勝手に他のことを想像しちゃあ」
「えっ」
美由紀は、我に返って、女の言った言葉に愕然となりながら、どうして分かったのかと思うと、頭が錯乱しそうになっていた。
女は何でもお見通しなのだろうかと思うと、少し怖くなってきたが、女を見ていない時が自分に存在するというのが不思議だった。
セックスをする時は、目の前の快感に集中するというのが自分の姿勢だと思っていた。また、それが相手に対しての礼儀だとも思っていたので、相手に集中することが当然で、何ら不思議に感じることなどなかった。
だが、この女は、美由紀が自分に集中していないことを、すぐに分かった。それだけ、今美由紀が妄想したことに対して、自分では分からないほどに、表に感情が出ていたのか、それとも、この女の勘が恐ろしいほど鋭いのかのどちらかであろう。いや、そのどちらもなのかも知れない。
そう思うと、美由紀の混乱は頂点に達した。
しかし、それが美由紀に新たな快感を与えた。快感を味わっていると、次第に相手の女に集中してくるから、結局は帳尻があってくることになる。何もかもがシナリオ通りではないかと思うと、自分が何か見えない力に誘導されているように思えてきた。
美由紀は女の身体から離れた。さっきまであれだけ身体が熱かったのに、汗が完全に引いていた。その代わり、残り香だけは、しっかりと感じることができた。
――これが私の匂いなのかしら?
夢だと意識しているのに、どうして匂いを感じることができるというのだろう。夢は、無味無臭で、色すら感じないものだと思っていたが、それは勘違いなのかも知れない。思い込みという勘違いは、夢に限ってだけではないだろうが、夢が潜在意識の成せる業だとすれば、勘違いも仕方がない。それはあくまで現実社会がすべての表だと思っているからで、何かに疑いを感じたとしても、その思いが歪むことはないだろう。
「お姉さまの考えていることくらい、私には分かるわよ。だってお姉さま、私にとっては、誰よりも分かりやすいんですもの」
と、笑みを浮かべながら、女が言った。
――分かりやすい?