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生まれ変わりの真実

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 という警報機の音が次第に大きくなっていき、赤い点滅をハッキリと感じ始めたからだった。
「何で俺は、こんな夢を見ないといけないんだ。確かにいつもの帰宅電車とは、少し違っていた。だが、進んでいる方向も違うようだし、どこまで行くのか分からずに乗ったのは、自分のミスだというのだろうか?」
 と、感じていたが、男はその日、会社で大きなミスをしてしまい、
「このまま死んでしまいたい」
 と、迂闊にも思ってしまっていた。
 男の会社では、当時自殺者が増えつつあった。一部の人間しかそのことを知らなかったが、男はその「一部」の一人だった。
「自殺する人の気が知れないな」
 と感じたが、男は自分が自殺などしようなどと考えることは絶対にないと思っていたのだ。
 だが、その日失敗してしまったことで、ふと弱気になって自殺を考えてしまった。そのことが男を不思議な世界に誘うことになってしまったのだ。そして、男が自殺を初めて考えた時、
「自殺というのは、連鎖反応があるというが、これって、伝染病のようなものなのかも知れないな」
 と思ったのだ。
 その瞬間、自分が自殺をしたい気持ちになったことを、激しく後悔した。
「しまった。もし、伝染病なら、俺は今、自殺を考えてしまったぞ」
 と、恐ろしくなったのだ。恐ろしさを招いてしまったことが、自分で考えてしまったことであり、誰が悪いわけでもない。後悔しても遅いことだったのだ。
 そのことが分かるだけに、男は恐怖に震えた。顔が真っ赤になり、恐ろしさで血の気が引いた。身体が震えだし、どうしようもなくなった。
 だが、そんな思いはずっと続くものではない。次第に薄れていくと、今度は気が楽になってきた。
 今感じたことは、これ以上ないというほど恐ろしい思いなのだ。
「考えてみれば、これ以上恐ろしい思いはない。それにそんな自殺菌なんて。ありえないことだ」
 と、感じることで、次第に恐怖が収まってきた。熱しやすく冷めやすい性格なのだろう。そのおかげで、男は夕方まで、失敗を気にしながらであるが、自殺についてを気にしないですんでいた。
 帰る頃には、失敗したことに対しても、ある程度精神的に落ち着いていた。電車に乗るまでは、自殺が多いこと、自殺を考えてしまったこと。そして、激しい後悔に襲われたことも、覚えていたが、電車に乗ってしまえば、不思議なことにすっかり忘れてしまっていた。
 それよりも電車の中での陰湿な雰囲気が気持ち悪かった。それまで考えていたことを忘れさせるには十分な環境で、電車に乗る前とまったく違った感覚にさせられたのだ。
 男は、違う意味での後悔に苛まれていくことになる。
「乗るんじゃなかった」
 乗ってしまって後悔するなら、次の駅で降りればいいと思っていたが、なかなか次の駅に着かない。まわりの景色はまったく分からない。少なくとも会社の最寄駅から乗ったのに、まわりが真っ暗で、ネオンサインも確認できないとは、どういうことだろう?
 乗ってしまってから後悔しても始まらないが、電車が、実は前に進んでいないということに気が付いた時、今度は、昼間自殺を考えてしまったことを思い出した。
 電車の中を見渡してみる。
 乗客は数人だけだが、皆どこかで見たことのある人たちばかりだった。
「ああ、あれは」
 最近、自殺をした人たちばかりではないか。会社の事情に詳しい主人公は、その電車が幽霊列車であることに初めて気が付いた。そして、幽霊列車が、自殺菌に関係があり、この電車に乗った人は、自殺をして、あの世に運ばれていくための「交通手段」なのだ。
 最後は、列車の各部分がアップで映し出され、次第に錆びている各部所が、現れてきた。列車の表からが次に映し出される。まわりは墓場で、その中央に列車が止まっていた。その列車は、もう十何年も動いた気配がない。もちろん人の気配もないのだ。
 真っ暗な光景から、列車の中が映し出される。白いものが点在していたが、そこに写っていたのは、無数に折り重なった白骨死体であった。
 列車の割れた窓から、一筋の青白い光が空に向かって伸びている。それをドラマは、主人公の魂だと言いたいのだろうと、美由紀は感じたのだった。
 美由紀は、そのドラマを思い出したのだが、ドラマそのものに関しては、実はずっと忘れていた。いつこのドラマを見たのか、子供の頃だったのか、大人になってからだったのか覚えていない。それなのに、記憶として残っているのは、子供の目として見たことだった。
 美由紀は、このドラマのことを忘れていた。元々この夢を見た時も、
「同じシチュエーションにならないと、思い出せる夢ではないわ」
 と、感じていた。
 ただ、その中で記憶に残っていたのが、「自殺菌」という発想だった。
 このドラマを見た時、テーマが何なのか分からなかった。今でも分かっていないのだが、自殺菌がテーマなのか、それとも幽霊列車がテーマなのか分からない。登場人物も異常に少なく、
「ドラマとして成立するのかしら?」
 と思ったほどだ。
「製作費にあまりお金がかからないかも知れないわね」
 とも、感じたが、それはまさしくその通りかも知れない。
 ただ、自殺菌というイメージが残っていたのは、それから少しして、美由紀は学校の帰り道、大きな交通事故を見たことがあったからだ。
 交通事故を見た時、美由紀はすぐに、
「自殺だわ」
 と思った。
「どうして、現場も見ていないのに、そう思うの?」
 友達から言われたが、自殺であることに関しては。美由紀には自信があった。それは根拠のない自信なので、どうしてかと聞かれれば、ハッキリと答えるのは不可能だった。
 ただ、美由紀の頭の中にあったのが「自殺菌」だったのだ。
 友達に、
「自殺菌を感じたから」
 と言って、信じてもらえるはずもない。何とかその場はごまかしたが、実際にあとから聞いてみると、自殺だったらしい。
 悲惨な現場を見ると、二、三日食事が喉を通らなかったくらいで、
「見るんじゃなかった」
 と思ったが、見てしまったものは仕方がない。
 想像を絶する惨状は、美由紀の中で、さらに自殺を感じさせた。そして自分の中にある何かムズムズするものを感じさせた。それが自殺菌だと知ったのは、それから、またしばらくしてからのことだった。
 美由紀の前で、また自殺者がいた。
 今度は、本当に美由紀の目の前で電車に飛び込んだ人だったが、それは夢だった。いつも乗る電車をホームで待っていると、隣のホームから、一人の女性が飛び込んだ。
 夢の中では美由紀はその人をずっと意識していた。飛び降りる感じがあったからだが、実際に飛び込んだのを見たのは夢の中だったのである。
 なぜハッキリと夢だと覚えているかというのは、次の日に美由紀は駅で彼女の姿を見たからだ。だから夢だと思ったのだが、それが、彼女を見た人間の最後になろうなどと、想像もしていなかったのだ。
 その人を見た時も、
「これは自殺菌の仕業だ」
 と思った。思ったが、もちろん、誰にも言わなかった。言えば、自殺菌は今度は美由紀自身に取りついてくるように思えたからだ。
作品名:生まれ変わりの真実 作家名:森本晃次