小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

生まれ変わりの真実

INDEX|31ページ/47ページ|

次のページ前のページ
 

 美由紀は中学生くらいまでは、男性の視線を怖いと思っていたが、高校に入ってからは、さほど男性の視線を怖いとは思わなくなった。他の女の子とは逆だが、それだけ中学生までの間に、余計な妄想をたくさんしてしまったのかも知れない。
 妄想は、その人の性格まで変えてしまうことがある。現実だと思ったことが妄想でよかったと思っていても、心の奥に残ってしまえば、痛みが一度は収まったと思っても、本当に傷ついている場所からは、痛みはなかなか消えないものだ。それと同じで、一旦強烈な妄想を抱いてしまうと、消えることはない。ショック療法として、再度同じショックを与えれば、消えるかも知れないと今では思うが、中学生までの間に、そんな発想が出てくるはずもなかった。
 美由紀が小学校の頃は、毎日のように人の視線が気になっていた。あまりにも気にしすぎることで、男性の方にも、その気がなくても、美由紀を気にしてしまう。
「俺に気があるんじゃないか?」
 と思ってしまう男の子もいたりするだろう。だが、たいていはそんな男の子ほど、美由紀にとっては、どうでもいいような子だったりする。好きになった人が気にしてくれればよかったのだろうが、その前に他の男の子からの、謂れのない視線を浴びてしまえば、誰を意識しているのか、そのうちに分からなくなる。感覚がマヒしてくるのだ。
 美由紀が元旦那と結婚しようと最初に考えたのはなぜだったのか? そのことを今まで意識したこともなかったが、意識しなかったのは、意識しても無駄だと思ったからだ。
 美由紀は結婚する意志もなかった。結婚しようと思った相手がいなかったわけではなく、ただ、それは元夫ではなかったはずだ。それなのに、なぜ結婚してしまったのか。人に聞かれても答えようがない。理由もなく結婚したとしかいいようがなかった。
 しいて言えば、元夫の視線が他の人とは違ったからだろう。優しいわけでもなく、熱かったわけでもない。むしろ、厭らしさを含んだような、ネットリとした視線であった。そんな視線ほど意識してしまうもので、意識は金縛りを誘発する。
 金縛りは、まるでヘビに睨まれたカエルを思わせる。動けない中で、ガマの油が滲み出る感覚だった。
 それが、そのまま結婚に結びついたとは思いたくないが、結婚するだけの理由はどこかにあったのだろう。ただ、それが自分を納得させられるだけのものだったのかというと、疑問が残る。
 結婚生活は、まるでままごとのようだった。マニュアルがあるわけではないのに、型に嵌った生活だけで、あとは、漠然としていた。漠然としている時間に、独身時代の気持ちを思い出せるのであれば、もう少し活気を感じることもできたのだろうが、それができなかったのは、心の中に余裕がなかったからだ。
 独身時代なら簡単にできたはずのことができなくなった。それは、心のどこかに隙があったからだろう。隙というのは、
「結婚しているのだから、生活が制限されても仕方がない」
 という気持ちの表れで、自分で勝手に手枷足枷を嵌めてしまっているかのようだった。
 本当に結婚生活を納得しているのであれば、それでもよかったのだが、疑問が残っている間では、ギャップが生まれてしまう。感覚のバランスが崩れたと言ってもいいのではないだろうか。
 離婚してから、結婚していた頃のことを思い出そうとすると、ほとんど思い出せない。結婚していたことが、本当に自分のことだったのかどうかということすら、疑問に思うほどだった。
「離婚には、結婚の何倍ものエネルギーがいる」
 と言われたが、そんなことはなかった。
 確かに疲れはドッと残ってしまったが、エネルギーを使ったからではない。むしろ、結婚していた時の疲れが噴出したからだったのだろう。
 かといって、結婚していた頃に、何かを我慢していたとか、ストレスを溜めていたという意識もない。本当に漠然とした記憶しかないのだ。
――結婚というのは事実ではなく、人生最大の大スペクタクルな夢だったのかも知れない――
 と思う。結婚が夢だったとすれば、離婚も夢、いや、美由紀の場合は、妄想なのかも知れない。
 だが、妄想というには少し違う気もする。妄想は、何か心の中にため込んでいるものが、表に出ようとして湧き上がってくるようなものだ。結婚が妄想として思い抱くほどのときめきや希望を掻きたてるものではなかった。
 確かに、子供の頃には、お嫁さんという言葉に憧れた時期もあった。女の子なら誰もが抱くものだろう。美由紀の場合は、大した妄想を抱いたわけでもない。抱くだけの情報がなかったからだ。
 まわりの人に結婚願望の強い人はいなかった。そのため皆結婚に対しての話題は出さないようにしているのが、暗黙の了解のようになっていた。美由紀は誰も結婚の話題を出さないことで、却って興味を覚えるほどだった。そのあたりが、美由紀の天邪鬼なところでもあったのだ。
 美由紀が自分を天邪鬼だと思うようになったのは、中学の頃からだ。
 父親に強制送還をさせられたあの頃から、人のいうことに耳を貸さなくなってきて、まわりには自分を冷静に見せるように努めてきた。自分にオブラートを着せてしまっていることに気付かないままにである。
 まわりに冷静に見せるには、それなりに目立つ必要があると思った。そのためには、人と同じ意見であったり、同じ行動をしていては、ダメであった。違うと思っても、反対意見をでっち上げ、初めて自分が納得するよりも、まわりを納得させなければいけないという気持ちになったのだ。言い換えれば、まわりの人を納得させようという気持ちになる時は、天邪鬼な自分が表に出てきた時なのだった。
「まさか、一番最初に美由紀が結婚することになるなんてね」
 と、結婚を決めた後に友達に言われた。
 結婚を決めるに際して、美由紀は誰にも相談していない。悩まなかったと言えばウソになるが、悩んだ時の解決法は、信じられないものだった。
 サイコロの目が出た方に進む。
 まさしくそんな感覚だった。そこに意志は働いていない。意志があれば、迷うに決まっている。なぜなら、結論が出るわけはないと思っているからである。いつものように堂々巡りを繰り返し、感覚のバランスを崩すばかりだった。
 小学生の頃、最初に感覚のバランスを崩したのが、夢の中でだった。
 山登りをしていて、狭い道を通っていたが、両側は断崖絶壁、気を付ける以前に、
――どうして、こんなところに迷い込んだんだ――
 と、いう疑問を抱きながら、神経は足元に集中してしまう。
 足元にばかり神経を集中させると、今度は、身体のバランスが崩れて、次の瞬間には、谷底だった。
 動くこともできず、留まることもできない。絶体絶命の状態で、美由紀は先に進む道を選ぶ。
「このまま、谷底に落ちた方が、気が楽だ」
 と、何度感じたことか。そのたびに、身体がシャキッとしていた。それでも、気が付けばかなりバランスが崩れていて、身体が斜めに傾いている。いつ落ちても不思議がない状態で、
――開き直ることが、落下を許さないのだ――
 と思わせた。
 開き直りは、天邪鬼には必須ではないだろうか。崩れたバランスを治すには、開き直りが一番の近道だということである。
作品名:生まれ変わりの真実 作家名:森本晃次