小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

生まれ変わりの真実

INDEX|30ページ/47ページ|

次のページ前のページ
 

 身体の奥に流れる暖かい血が、男性を欲していることを教えてくれる。冷めた気持ちとは裏腹に、身体は求めている。それが、強姦願望だったりするのだろうか?
 強姦願望の標的となったのが迫丸なのだが、なぜ迫丸だったのだろう? そんなに遡らなくても、強姦願望に値する男性がまわりにいないわけではないはずだ。しかも、迫丸に対しては、子供の頃の記憶、遡って、さらに下ってくる方が先に見つけられるのではないかというほど、考えることを始めてからの方に遥かに近かった。
 迫丸だけが、男性ではない。小学校の時にも他の男の子から悪戯されかかったこともあった。中学、高校時代には、満員電車で男に触られたこともあった。そんな時には、相手の顔を思い浮かべることもできなかったくせに、どうして願望の中でだけ、迫丸を呼び起こすことができるのだろう。今までに男性から受けてきた数々の羞恥な思いを、美由紀は一つ一つ思い出そうとしていた。
 男性の性格が、女性とはかなり違っていることで、今まで受けてきた恥辱にまみれた屈辱を、美由紀は、一人の男性をモデルにして、悪役に仕立て上げてしまったようだ。それが迫丸であり、彼にとっては、実に気の毒なことだが、美由紀には悪いという気持ちはなかった。
 だからと言って、女性がいいというわけでもなかった。女性同士の場合の方が、露骨に争い事など、表に出てくることがある。
 男性同士であれば、すぐに仲直りしそうなことでも、女性同士ともなると、自分のわがままをまかり通そうとするところがあるからか、なかなか亀裂が入ると修復は難しかったりする。
 何が一番大切かということを分かっているか、分かっていないかの違いなのではないかと思う。大切なものが何であるかが分かると、相手を大切にしなければいけないという道理が分かるようになり、露骨な喧嘩はなくなってくるのではないだろうか。そういう意味では、自分の家族は、誰もが自分のことしか考えていない。もし、美由紀が自分の中にある性癖を認めようとするなら、
「親の因果が子に報い」
 ということわざを感じないわけにはいかないだろう。
 自分の家族ほど、他人に対して、口だけなのかが分かる。子供の頃にさせられた強制送還。あれも、せっかくの誘いを断るというのは、失礼に当たらないかということを考えていないからだ。
 実際に考えていないだろう。もし考えているのであれば、こちらに対して敬意を表しているものを、無下に拒否していることになるからだ。優しい顔をしている時に、相手の気持ちを汲んであげるという方が、よほど、その場がスムーズに行くのだ。それを断るということは、自分の考えを相手方に対して、勝手に押し付けているようなものだからはないだろうか。
 しばらくしてから、美由紀は、また電車に乗る機会があった。
 トラウマになっていた満員電車だったが、最近はそれでもだいぶマシになってきた。
 美由紀は比較的最初の方の駅から乗れたので、座ることができた。それでも途中の駅から、たくさんの人が乗って来て、次第に立っている人のバランスが崩れてくるかのように思えた。
 美由紀は、文庫本を取り出して読んでいたが、揺れに伴って、つり革を持って立っている人の膝が、美由紀の膝に当たり、足をどうしていいのか迷っていた。
 顔を上げる気にもならなかったので、本にだけ集中していたが、ふと、感じる視線があったので、頭を少し上げてみた。そこに見覚えのある顔を見つけたのだが、馴染みのあるその顔だったが、見たくない顔でもあった。
 その人は、美由紀の元亭主だった。離婚してから何をしているのか分からなかったが、きっと彼も美由紀のことが何も知らないはずだ。
 距離はかなり離れているので、人をかき分けなければ、美由紀のところには到達しない。わざわざ人をかき分けて進んでくるようなことはないと思っていたので安心だったが、彼の睨みにも似た視線は、美由紀を捉えて離さなかった。
――あの人は私が気が付いていることを分かっているのかしら?
 と思ったが、視線だけを見ると、分かっていないようだ。彼がどこで降りるか分からないが、とりあえず様子を見ることにした。
 美由紀は相変わらず本を読んでいる。電車の中は、先ほどまであれほどざわついていたのに、彼の存在を感じるようになって、耳鳴りがしてきたのか、さほどの騒音ではなくなっていた。
 耳鳴りは、頭痛の前兆を感じさせる。しかも、高い山に登った時のような、鼓膜を揺さぶる振動を感じる。鼓膜は微妙な振動であっても、頭痛を起させるに十分な刺激を感じさせることができる。美由紀は、以前から耳が敏感で、性感帯の一つだと思っていた。
 頭痛の前兆には何種類かあったが、その時は耳鳴りだけだった。頭痛を起させるには、耳鳴りだけでは、それほど強いものではなかったが、今回は鼓膜を揺さぶる振動まで感じられたことで、襲ってくる確率は微妙な感じがしていたのだ。
 元旦那の存在を意識しながら、頭痛に備えなければならないというのは、結構きついものだった。どちらも神経に関わることなので、片方に神経を集中させる方がいいのか、どちらも均等に意識していないといけないものなのか、それとも、あまり余計な意識をしない方がいいのか、悩むところであった。
――でも、どうしてあの人がここに?
 彼は別れた後、遠くに引っ越したと聞いた。舞い戻ってきたのか、それとも、偶然こっちに用があったのか。まさか、美由紀を思い出して、会いたくなってきたわけでもあるまい。
 元夫の視線は、意識しないと感じないほどで、そんなに鋭いものではなかった。鋭さがないので、それほど最初から心配はしていないが、長い間見つめられると、金縛りに遭ってしまうのは、今に始まったことではない。なるべく視線を早く他に逸らしてほしいと思っているが、相手にはその気がないようだ。
 電車に乗っていて、気持ち悪くなって倒れこんだ時のことを思い出した。あの時も、座っていたにも関わらず、頭痛が激しくなり、吐き気がしたのだった。今回と同じで、誰かの視線を一身に受けていたのだが、その時の視線が誰だったのか、今では思い出すことができなかった。
 美由紀は、自分では気付かないところで、男性から意識されていることがある。
――見られている――
 という意識に捉われる時があり、そんな時、
「自意識過剰だわ」
 と感じ、羞恥に感じることがたびたびあった。
 男性から見られていると恥かしく感じるのは、実は最近になってからのことだった。それまでは、少々のことでは、あまり気にすることもなかった。極端に変な服装を着たりするわけではないので、そんなに羞恥を感じることはないはずなのだが、気になるようになってからは、それまでの無頓着とは、まるで違っていた。
 無頓着だということは、人の目が気にならないということだ。中学生の頃までは、人の視線が気になって仕方がなかったはずなのに、高校生になると、急に意識がなくなってしまった。
 他の女の子は、美由紀と逆だった。高校生になると、余計にまわりの目が気になり始める。そして、男性の視線を強く感じると、怖いと思うことがあるようだ。
作品名:生まれ変わりの真実 作家名:森本晃次