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生まれ変わりの真実

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 というセリフが多く、しかもその時のほとんどが、自分がこれからしようと思っていたことだった。
 しようとしていることを指摘されることは、恥辱であった。さらに、それを父親に言うという。そこには、母親の意志は働いていない。ただ感情からではなく、自分が見つけた美由紀の悪いところを、ただ父親に報告するというだけのものである。そんな感情が通わない説教に、誰が納得するというのか、男性を立てるなどという昔であればいざ知らず、ただ自分が責任を負いたくないだけだという気持ちが露骨に出ている。父親も嫌いだが、それなりに自分の意志をしっかり持っている。母親のは、優柔不断さしか現れていないのだ。
 そんな両親から育てられた美由紀は、被害妄想が激しくなってきた。
――レズビアンや、異常な性癖は、ひょっとすると、被害妄想な性格が影響しているのかも知れないわ――
 と思うようになった。
 相手がしようとしていることを先に言ってしまうのは、相手の考えを否定していることに気付いていない。しかも、先に気付いたことで、相手に対して優位に立つことを最初から意識しているから言えることなのだろう。あくまでも相手の考えを無視した対応に違いはないからだ。
 そんなことをいう人のいうことなど、誰が聞くというのだろう。人の性格を否定しているのと同じではないか。親であれば、子供の気持ちを尊重すべきなのであろうに、否定するというのは、それだけ、自分の考えが偏っているのかも知れない。
 被害妄想になると、人のいうことを、いちいち疑ってみる性格になってしまう。
「石橋を叩いて渡る」
 ということわざとは少し違い、慎重な性格とは、言い難いところがある。
 美由紀はそんな自分の性格に最近気が付いた。子供の頃に、親と接している時には気付かなかったことである。
 自分の性格というものは、えてしてその時に気づくものではなく、後になって気付くことも結構多いのかも知れない。
 好きになった人から、すぐに答えが返ってこなかったのは、彼がそれだけ真剣に美由紀のことを考えていて、すぐに答えを出してはいけないと思ったからだ。気持ちが最初から決まっていても、すぐにそれを答えとして出してしまう人と、一度持ち帰って、吟味する人と二通りいるのだろう。そのどちらがいいというのは、比較になるものではないが、美由紀には、焦らされるのは、精神的にきつかったのだ。
 彼から、満を持しての答えが返ってきた時、すでに美由紀は気持ちが冷めていた。
「ごめんなさい」
 という言葉しか出てこず、
「どうしてなんだい?」
 と、彼が聞いてきたが、それに答えを出す気にはならなかった。答えようと思えば答えられたのだが、答えてしまうと、最初の「ごめんなさい」という言葉の信憑性が疑わしくなってしまうからだ。
 疑わしくなってしまうくらいなら、答えを出さずに、嫌われてもいいと思った。冷めてしまった感情は、元に戻ることはなく、その時に、美由紀は自分の中に「女」を感じた。
――感情が、やっぱり女なんだわ――
 と、半分安心した。
 あとの半分は、この仕打ちが、女としての悪い部分であることだからだ。女であることを再認識し、異常な性癖のせいで、感情や性格まで異常になってしまっているのではないかという危惧は、一応、解消された気分になっていた。
 美由紀は、その時が初恋だったのかも知れない。いや、そう思うと、それ以前に誰かを意識していたような気がした。その人が自分の底辺にいて、その上に誰かを好きになるという形で、底辺にいる人を隠してしまおうというおかしな感覚を抱いている気がして仕方がなかった。
 その男性が、迫丸だったのではないかと思うようになった。
 迫丸を底辺に置いておきたい気持ちがあるから、レズビアンに走ったのか、それともレズビアンを隠したいから、その布石として、意識の中に、迫丸を底辺に押し込めているのかの、どちらかではないかと思うようになっていた。
 どちらにしても、美由紀の心の底辺に沈んでいるのは迫丸で、精神的に何か変調が合った時、浮かんでくるのではないかという発想を頭の中に描いていた。
 他の男性を好きになった時とは別に、男性から告白された時のことも思い出していた。
 告白されるのを待ち侘びるようになったのは、好きになった人に告白し、結局、自分が冷めてしまったことで成就しなかった時からだったように思う。それから数年が経って、男性から告白された。
 美由紀としては、その時からだいぶ時間も経っているので、だいぶ精神的にも大人になっているので、かなり気持ちが落ち着いていると思っていた。告白してきた相手は大学時代の先輩だったのだ。
 美由紀から見て、嫌いなタイプではなかった。だからといって、胸がときめくほどの相手というわけでもなかった。
「廣田さんと、一緒にいると、楽しいんだよ。ずっとそばにいたいと思ってね」
 口説き文句としては中途半端だったが、正直な気持ちに好感が持てた。特に先輩に似あいそうな言葉で、他の人から同じセリフを聞いていたら、きっと、冷めた気分になっていたかも知れない。
 口説き文句というのは、その人それぞれに合うセリフがある。意外と、皆自分に合った口説き文句を言うのかも知れない。口説かれて嫌な気分にならないのは、その人からそのセリフを聞くのが一番自然だということを、無意識にでも分かっているからに違いない。
 先輩の言葉に、最初は少しだけときめいた。それは先輩に対してときめいたわけではなく、セリフと先輩の相性にときめいたのかも知れない。
 いきなり断るのも悪いと思ったので、一度か、二度くらいはデートをしてみた。嫌いな相手ではないので、デートしているうちに好きになるかも知れないという思いがあったのも事実だった。
 先輩のいう通り、一緒にいて、先輩は本当に楽しそうだった。しかし、美由紀は先輩ほど楽しいというわけではなく、一緒にいるほど、自分だけが置いて行かれそうな気分に陥ってしまっていた。
 三回目のデートはなかった。
「ごめんなさい。どうも私だけ置いて行かれているような気がするので、あなたとはお付き合いできません」
 と、正直に答えた。
 先輩は、承諾してくれると思ったのだろう。美由紀の返事を聞いて、かなりショックを受けていた。明らかな動揺が見られ、完全に普段の先輩ではなかった。
「どうして……」
 その様子を見ると、可哀そうだというよりも、中途半端だった気持ちが一気に冷めてしまった。ある意味、断って正解だったと思えるほどの様子に、美由紀は先輩に対して、何も言えなくなってしまった。
 何も言う必要はない。こっちから一方的に振ったので、相手に言葉を掛けるのは、中途半端なことだ。何も言わないに越したことはない。今はショックで打ちひしがれているが、失恋の痛手など、時間が経てば、冷めてくる。気持ちも変わってくるかも知れない。
 先輩に悪いとは思いながら、
「やっぱり、好きにならなくて正解だった」
 と、やはり男性に対しては、自分がときめかないことが分かったのだ。
 だが、そう思ってしまうと、自分の中で露骨に寂しさが顔を出してきた。何が寂しいと言って、身体が寂しさを発していた。
作品名:生まれ変わりの真実 作家名:森本晃次