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生まれ変わりの真実

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 と、美由紀は思った。自分も程度の違いこそあれ、自分を正当化しようとして、苦労している。美由紀も、自分が這い上がるために見つけた自分の性格、レズビアンという性格を、正当化するために、苦労している。這い上がるために苦労して、這い上がるための口実を正当化するために、また苦労する。
――これこそ、堂々巡りを繰り返しているようじゃないかしら?
 と思うと、大なり小なり、皆同じことをしているに過ぎないことが分かった。
 迫丸は、父親と同じ井戸の底で這いあがろうとして、どうするだろう? 同じように父親を手に掛けてまで助かろうとするだろうか?
 不思議なことに、迫丸に対してだけは、そんな気持ちが想像できない。甘んじて、今の自分を受け入れるのではないかと思えるのだ。普段から、欲望と自己満足で生きている人間のように見えるのに、実に不思議な感覚だ。
 迫丸は、相手が、美由紀の父親だと悟ると、きっと何もできないかも知れない。それは、自分に罪の意識があるからだ。
――罪の意識を持った人は、他の人に糾弾されれば、それを拒否できない――
 と、迫丸自身思っているのかも知れない。
 では、迫丸は、それが分かっていながら、どうして、美由紀に悪戯などをしたのだろう?
 やはり、美由紀に対して、言葉にできない思いを抱いていて、何かしらの行動に出ないことには、自分に収まりが着かないことを知っているのだろう。
 ただ、やってしまったことを後悔しても遅い。甘んじて、罰を受けようとするのではないか。そんな迫丸を見て美由紀は、
――お父さんとは正反対だわ――
 一緒にしてはいけないところに放り込んでしまったことを、それがもし想像の世界でなければ、後悔するに違いない。
 迫丸という男から犯された夢を見たことは、美由紀にトラウマを残した。
 トラウマは美由紀を、女に変えた。それまで自分がレズビアンであり、男を寄せ付けないというくらいのイメージを抱いていたのだ。
 ただ、不思議なのは、その後、晴子の夢を見て、さらにレズビアンであることを思い出させる。美由紀の中で、二つの人格が、夢を通して、表に出ようと画策しているのかも知れない。
 美由紀はさらに、別のことも考えていた。
「私を犯したオトコ、あれは本当に迫丸だったのか?」
 という思いである。
「迫丸くらいしか、あんなことをする人は思い浮かばない」
 と、思ったからで、夢の中で顔を見たと言っても、子供の頃の迫丸しか知らない美由紀が想像した男は、きっと、今現在、美由紀のそばにいる誰かがモデルとなっているに違いない。
 迫丸にしても、モデルとなった男性にしても、迷惑な話だ。美由紀の勝手な想像で、夢の中に登場させられ、無理やり、強姦魔にさせられたのでは、溜まったものではない。
 美由紀がレズビアンであることを、誰からも知られたくないという思いから、
――男から犯される――
 という、女性としては、誰にも知られたくない羞恥な感情を抱くように見た夢ではないだろうか。
 妄想は留まるところを知らない。あんなに、自分は余計なことを考えない人間だと思っていたのがウソのようだ。自分に対してのイメージすら、最初から考え直さなければいけない。
――迫丸という男を悪者にしてしまっていいのだろうか?
 確かに美由紀の中に眠っていた悪しき心を呼び起こしたという意味では悪者と言ってもいい。少なくとも性癖を呼び起こすためにピッタリな男として選ばれたのは、事実なのだ。
 強姦願望が、レズビアンとどう繋がるのか、自分でも分からない。ただ、迫丸との夢は強姦ではなく、美由紀も合意の上だった。最初こそ、拒否の姿勢を見せたが、それはいきなりでビックリしたためだとも思える。それよりも、美由紀には、自分の中にあるであろうレズビアンの方が、ショックであった。
 迫丸という男性が強引で、グイグイ迫ってくるタイプだとすると、
――強い男性に惹かれる――
 という意味では、別に不思議なことはない。夢の順番が逆になっただけで、レズビアンだからこそ、美由紀は強い男性にしか惹かれないという思いを抱いたのかも知れない。
――こんな私が結婚したことがあったんだ――
 元旦那が、美由紀の性癖に気が付いたとは思えなかった。自分ですら忘れていた性癖である。
 夫婦になってから、旦那とのセックスを拒否したり、煩わしく感じたりしたことはなかった。自分でもレズビアンであることを忘れてしまっていたほど、男性との交わりを大切にしていたくらいだ。
 ただ、元旦那は、美由紀の性格に少なからずの疑問を持っていたことは事実だろう。それは性癖に対してではなく、誰かに対して恨みを抱いていることは知っていたようだ。それが誰なのかが分からずに、
「自分ではないか?」
 と思ったこともあるようだ。
 被害妄想を持ち始めると、その思いは膨らんでくるようで、
「それが離婚の原因だったのではないか?」
 というのが、最近になって感じた思いであった。
 ウスウス気付いていたような気がしていたが、まさか離婚にまで発展するとは思わなかった。ただ、美由紀自身も冷めていくのを感じてはいたのだ。それでも自分から離婚を言い出すことはないと思っていた。
「自分から、危険な橋を渡らない」
 という気持ちが、
「離婚するとしても、相手が悪いんだ」
 と自分を納得させる気分になっていた。
 旦那は、「強い男性」ではなかったのだ。
 美由紀にとって、強い男性が、迫丸ということになるのだろうか? 自分のまわりに強さを求められるような男性はいない。強さを持っている男性は、美由紀に近づいて来ようとはしないのか、それとも、そばにいても、強い男性を見つけることができないのか、美由紀は、相手が寄ってこないものだと思っていたのだ。
 寄ってくる男性の中に男性としての強さを見つけることはできない。適当に自分を誇示し、相手の気持ちを考えるというよりも、誇示することが、強さだと思っているのではないかと思っていた。
「後先のことを考えずに行動するのは、愚かなやつがすることだ」
 これは父親のセリフだった。
 父親を毛嫌いしながら、この言葉だけは、忠実に信じてきた。きっと、美由紀の中の考えと共鳴するところがあったのだろう。
 しかし、そのことが、今までの美由紀を見誤らせていた。父親を毛嫌いしているのなら、この言葉も、さらに吟味してみるべきではなかったか。いや、普段の精神状態であれば、それも難しいだろう。精神的にどこか不可思議なところがあってこそ、疑問を呈することができるからだ。
 父親に対して、最初感じようとした「強い男性」のイメージのメッキが剥がれていき、化けの皮が剥がれてみれば、
「自分のことしか考えていない男性」
 としてしか映らなかった。
 つまりは、自分のことしか考えない男性以外を見つければいいだけなのに、最初に見えてくるのが、自分のことしか考えていないことだった。
 男性を見て、すぐに嫌なところが見つかるというのも、悲しいものだ。
作品名:生まれ変わりの真実 作家名:森本晃次