生まれ変わりの真実
確かその時にも、ちょうど、迫丸の夢を見たことがあったような気がした。時系列の記憶が曖昧な美由紀だったが、こういうインパクトの強い記憶は覚えていることが多い。だからこそ、余計に他のことが曖昧なのかも知れないと感じた。
レズビアンを感じた相手は、クラスメイトの女の子だった。性格的には大人し目で、逆らうことのできない相手を蹂躙することに快感を覚える自分を感じていたのかも知れない。その女の子とはすぐに友達になれた。彼女自身も、美由紀を意識していたらしい。
レズビアンの傾向にあったのは、むしろ彼女の方だった。それまで、男性に対して恐怖心を抱いていて、いつもおどおどして見えたのは、男性への恐怖心の表れだったに違いない。
すぐに仲良くなれたのは、お互いに意識するがゆえに、視線を合わせることが多く、美由紀が、彼女の委ねるような視線を感じた時、そのまま強く見返したのだ。
彼女は慌てて視線を逸らしたが、その時、美由紀が優しく声を掛けた。
「どうしたの? そんなに怯えなくていいのよ」
すると、彼女は、美由紀を見上げて、懇願の視線を見せたのだ。
――可愛いわ――
オトコがオンナを可愛いと思う感覚とはまた違っているのだろうが、美由紀は自分が「男性役」になっているかのように思えた。
ということは、彼女は完全な女性役で、レズビアンの関係がそこで出来上がった。
美由紀は、彼女を自分の部屋に引き込んだ。
その頃はまだ、部屋に誰も入れたくないという意識はなく、むしろ自分の部屋に友達を呼ぶことに快感すら覚えていた。それだけ親近感が湧くからであって、もちろん、信用している相手しか呼ぶことはなかったが、それでも彼女を呼んだのは、レズビアンの相手としてだけではなく、普通に女友達としての意識も強かったからである。
部屋に彼女が入っただけで、フェロモンが一気に充満していった。美由紀が作り上げた部屋に、別のフェロモンが入り込んだだけで、部屋がイキイキしているかに思えた。まるで心臓の鼓動が部屋全体から聞こえてきそうで、それが、美由紀の気持ちを表しているようで、羞恥を感じていた。
――気持ちを見透かされてしまうかのようだわ――
これから起こることは、自分でも想像がつかない美由紀だったが、多分、自分の中にある無意識の意識が働くことで、勝手に行動に移るのではないかと思えた。それは本能の赴くままの行動であり、それを抑えるだけの理性を、美由紀は持ち合わせていなかった。
「美由紀さん」
フェロモンに負けたのか、もう少しゆっくり行動するつもりだった美由紀は、思わず彼女に抱き付いた。
最初はビックリしていたが、抱きしめて唇を強引に奪った。何も言わせたくないという気持ちと、快感の最初はキスだと分かっていたからだ。
その時、美由紀はすでに処女ではなかった。男を知っていて、快感も知っているつもりだった。
だが、女性とも感覚は、今までの美由紀の考える大人の世界を究極から変えるものとなるのではないかと思えた。その理由はたくさんあるだろうが、まず最初に感じたのは、肌の細かさだった。
――なんて、柔らかく、そして弾力性があるのかしら?
太くて逞しく、そして力強さを感じるオトコとは、かなり違っている。繊細で、心配りを感じさせる肌のきめ細かさ、そして、ソフトな絡みは、オトコには決してないものだった。同じ恥かしさを感じるものでも、男性に対しては、半分演技があるのに対し、女性に対しては、演技をする必要はない。
男性との間では、演技であっても、それが相手に分かったとしても、それでもいいと思っている。
中にはシラケてしまう人もいるだろう。だが、美由紀はそれでもいいと思っている。相手も、分かっているだろう。そこに、
「男と女のラブゲーム」
を感じる。だが、男性の中には、女性が感じていることを演技だと分かっていても、素直に喜んでくれる人もいる。美由紀は最初、そんな男性を、
――情けない男――
と思っていたが、途中から、
――優しい人なんだわ――
と思うようになった。それは、自分の中の気持ちに余裕ができてきたからなのかも知れない。
「優しくしてね」
という一言に、スイッチが入った美由紀だった。貪るように、彼女の下着を脱がせていく。彼女は身をよじるようにしながら、脱がせやすくしていった。
「あっ、あぁ」
時々、悶え声を出すが、そのタイミングが絶妙で、さらに美由紀の気持ちを高ぶらせる。
敏感な部分に舌を這わせると、身体を一気に硬直させながら、大きな声が出るのを手で押さえながら、耐えている姿が、痛々しく見えるくらいだった。そこに幼さを感じ、自分のサディスティックな部分が顔を出していることにも気づかされて、気が付けば、彼女の下半身は、グジョグジョに濡れていた。
「あ、ああぁ」
大きな声を発した後は、息絶え絶えに呼吸を整えている。
――イッたみたいだわ――
美由紀の興奮は最高潮だった。まだまださらに高見の絶頂を目指している彼女を責め続けた。何度も小さな絶頂を迎えた後に訪れる、大きな波。それを乗り越え、彼女は、我を見失っているかのようだった。
美由紀は何とか自分を見失うことはなかった。一気に責めてはいるが、考えることはできていたからだ。
「優しくして……」
という言葉が、再度、彼女の口から洩れた。無意識からだったのだろうが、その瞬間、美由紀の中で、何かが落ちた。一気に冷めてしまったと言ってもいいだろう。
彼女の敏感な部分から舌を外した美由紀は、身体を起した。それでも、まだ恍惚状態にいた彼女は、俄かにはその時の状況を理解できなかったようだが、しばらくして、
「どうしたの?」
と、声を掛けてきた。すでに正気に戻っていて、美由紀がことを止めたのは、自分が原因であり、それが何かを知るのは怖いが、知らないと先に進めないことが分かっているような、自信がなさそうで、それでも、意を決したかのような口調で聞いてきたのだった。
美由紀はそれに答えることはしなかった。言葉に発すれば、気持ちを正直に伝えられないと思ったからである。
彼女は、借りてきたネコのように大人しくなった。
――私がレズビアンに目覚めたのは、確かに彼女の影響だわ。でも、レズビアンの本当の相手は彼女ではない。他にいる気がする。いるとすれば、どんな相手なんだろう――
と、美由紀は、まだ見ぬ相手に思いを馳せていた。
行為の最中、同じ言葉を発するのは、仕方がないことだ。だが、最初にまだ興奮が昂りかけていた頃のセリフと、我を忘れてしまってからのセリフを比較した時、さほど気持ちに変わりがないことに気付いた時、急に冷めた気がしたのだ。
それは、彼女に対して冷めたわけではなく、レズビアンに対しての気持ちが一気に消沈したのだ。
その理由はまったく分からない。だが、レズビアンの相手に、決して演技は許されないという気分が募ったからだ。
レズビアンであることを、普段は隠しながら、相手を物色していた時代が高校時代だった。
そんな美由紀がまわりにはどんな風に見えていたのだろう?