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生まれ変わりの真実

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 淫乱というのを、悪いことだとしてしか見ていなければ、決してもう一人の自分の存在を感じることはできないに違いない。もう一人の自分の存在を感じることは、自分が二人ではなく、三人分、いや四人分の感覚の幅を感じることができるのだ。ただ、もう一人の自分の存在を知らない間では、普段の自分の性格が、一本の直線上にしかないことを知る由もないだろう。
 どんなに複雑な性格であっても、人から見れば、一つに見えるのは、そのせいかも知れない。目の前に現れたことしか見えないのではなく、総合的に判断して、平均的な線として見えるのだろう。人の性格を判断できる時点で、一本の直線上でしか、性格というものは、しょせん見ることはできないのだ。
 晴子の目力は、美由紀に笑顔を与えた。目力に何を返せばいいのか分からなかったが、分からない時は、最初に感じたことを素直に出すことが一番だと思ったのだ。
 一瞬意外そうな表情になった晴子。だが次の瞬間には晴子も笑顔になった。その笑顔を見ると、さっきまで激しいキスを想像していた美由紀は、自分が欲しているのは、激しさではなく、余裕だということに気が付いたのだ。
 それも、迫丸に対して抱いた気持ちに余裕を抱くことが、恐怖を愛情に変えてしまった一番の感情であることに気が付いた。
――あの時は分かっていたのに――
 そう、夢の中では分かっていたことだったはずだ。
 美由紀は自分が淫乱であることに気が付いた。それは、もう一人の自分の存在を肯定するものだった。もう一人の自分の存在を、淫乱である自分の言い訳にしようという思いが、一番の理由だったからだ。
――何て安直な考えなのかしら――
 淫乱という定義について考えてみた。
 美由紀は、何度も淫乱だと思うような夢を見たことがあった。
 シチュエーションとしては、電車の中で男の人に触られたり、好きな人と、抱き合っているところを、表から見られているのを感じていたり、下着を付けないで、出かけてみたりするような夢を見ていた。実際に犯される夢までは見たことはない。好きな人に抱かれる夢を見て、ちょうどいいところで目を覚まし、下着が濡れていることに気付いて、羞恥に顔を赤らめたのも、淫乱な夢だと自分で思っていた。
「人には話せない内容」
 それが、淫乱な夢の定義なのかも知れない。
 また、誰かに恋愛の夢の話を聞かされて、本人はそれほど意識していなくても、聞いている自分が恥かしくなるような内容であれば、それは淫乱な夢に値する。きっと自分が見れば、
「私って、淫乱なんだわ」
 と、思うに違いないからだ。
 晴子のことを親友に限りなく近い友達だと思っていた。ハッキリ親友だと口に出して言えなかったのは、どうしてなんだろう? もし他の誰かから、
「お二人は仲が良くて、親友なんですね」
 と言われたら、一も二もなく、即行で否定したに違いない。
 男の子を洗脳するような危険な能力を持っているように思えた晴子も、その能力は女の子には通用しなかったが、美由紀に対してだけは、通用していたのではないだろうか。
 というよりも、男女問わず、自分に近づいていてくる相手を自分のペースに引き込み、その意識を相手に持たせないことが能力だと思っていた。自分のペースに引き込むことはできても、相手にその意識を持たせないことは、難しいことであろう。
 晴子は、たくさんの男性を従えていたように見えたが、実際には、それほど強く引き付けていたわけではない。一緒にいる時だけは、確かに強い繋がりで結びついていたが、そばにいない時の男性は、自分の世界に戻っていた。
――晴子は、勘違いされがちな女性なのかも知れないわ――
 とも思ったが、晴子がそばにいる時に従っている男性にも、他に彼女がいたりする。彼女たちは、晴子に対してどんな意識を持つだろう? いくら自分がいない時、男性は我に返るとはいえ、晴子と一緒にいる時は、まるで従属関係にでもあるかのような雰囲気に、気が気ではないのではないか。
 当然のごとく、その恨みは晴子に向くはずである。晴子の中にどれだけ、自分が男性を従属しているという意識があるのだろう? 最初は、男性を従属する悦びに、晴子は目覚めているのだろうと思っていたが、どうもそうではないようだ。
 晴子を一番恨んでいた女性に、平松鈴音という女性がいた。鈴音と付き合っていた男性が、晴子に引っかかってしまったのである。
 彼は、元々惚れっぽい性格で、熱しやすく冷めやすいタイプだった。名前を田島洋三というが、洋三は、誰が見ても分かりやすい性格で、それが彼のいいところでもあり、炭素でもあるのだと、美由紀は思っていた。
 美由紀の性格からすると、洋三のようなタイプの男性は、それほど好きなタイプではないはずだ。晴子からすれば、寄ってくる男性は拒まない性格なので、鈴音が誤解したのも仕方がない。
 問題は、洋三の気持ちだが、最初は晴子のことが気になったかも知れないが、いつものように次第に冷めてきているのかも知れない。しかし、洗脳されてしまった頭の中では、晴子から離れることができなくなっていた。離れられないことは、洋三にとって悲劇であるが、それは同時に鈴音にも悲劇であった。そして、その恨みを受けることになる晴子にも悲劇であり、結局三人の間で、悲劇が堂々巡りを繰り返すことになっていたのだ。
 鈴音が洋三と付き合い始めるようになったのは、洋三の一目惚れだった。最初は、むしろ鈴音は消極的だったのだ。
 人当たりのいい女性である鈴音だったが、改まって男性に好かれたことはなかった。きっと、男性から見て、人当たりがいいだけに、鈴音には、きっと彼氏がいるに違いないという思いがあり、男性の間で、遠慮があったに違いない。
 もちろん、鈴音はそんなことは分からない。自分が単純にモテないだけだと思っていたのだ。モテない理由については想像もつかない。まさか男性同士で遠慮があるなど、想像もしていないからだ。逆に知らない方がよかったのかも知れない。知ってしまっても、鈴音の方から何か行動を起せるわけではない。何もできないのであれば、知らない方がいいに決まっているではないか。
 鈴音は、一目惚れなどしたことがない。好かれたから好きになるタイプだった。美由紀にはよく分かるタイプだが、そんな鈴音も、最初は洋三に警戒心を抱いていた。
 好かれたから好きになるタイプの中にも、すぐに好かれたことを受け入れて、相手を好きになる人と、好きになられたことで、我に返り、警戒心を強める人と二通りがいる。鈴音の場合は、完全に後者だった。
 鈴音には、今まで本当に好きになった相手は、洋三だけだった。あれだけ警戒していたのに、なぜ、こんなに好きになってしまったのか。警戒心が解けてくると、相手に対する信頼感が強くなり、完全に警戒心がなくなると、鉄板になる。信頼感がマックスになることで、洋三が晴子に惹かれてしまった理由がまったく分からなくなり、恨みだけが残るのだ。
 もっとも、信頼度がマックスでなくとも、洋三の行動は、付き合っている女性を裏切っていることには違いない。
 誰が見てもその通りで、美由紀が見ても同じだった。
作品名:生まれ変わりの真実 作家名:森本晃次