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生まれ変わりの真実

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 すると、背景がどこかの部屋に変わっていた。大きなダブルベッドの中で戯れるように横になっている美由紀と晴子。そこは明らかにラブホテルだった。
 淫靡さを感じさせるうす暗い中でのピンク色の照明。いかにもラブホテルという部屋ではあるが、照明が控えめに感じたのは、心のどこかで、完全に淫乱になりきれない自分がいることに、美由紀が気付いたからに違いない。
 すぐそばで、晴子は眠っていた。スヤスヤと寝息を立てていて、深くはないが、眠っていることには違いなさそうだ。
 美由紀自身も、少し頭が重たい感じがした。それは、寝起きの気だるさを感じさせるもので、たまに起こる目覚めの際の頭痛であることは、状況から見て、間違いのないことのようだった。
 美由紀は晴子を起さない程度に、顔を近づけ、目を瞑り、口づけしようと試みた。恐ろしく時間がゆっくり進んでいるようで、なかなか晴子の唇に届かない。すると、一瞬、違和感を感じ、思わず目を開けると、目の前に飛び込んできたのは、晴子の大きな眼差しだった。
 それは驚きの表情ではなく、一瞬何が起こったのか分からないという戸惑いの表情で、ウブという言葉とは縁遠いと思っていた晴子に対して、今まで感じたことのない感覚を味わった瞬間だった。美由紀はそのまま晴子の視線から目を離せなくなった。
――まずい――
 と一瞬思ったが、あとの祭りで、それが、本当の夢の始まりであったことに気付いたのは、目が覚めてからだったのは、本当に皮肉なことだった。
――本当にこの夢から覚めるのだろうか?
 と思ったほど、晴子の視線は眩しかったのだ。
 先ほどの迫丸との夢がよみがえる。
 あの時は好きでもないはずの男性に犯されるシチュエーションだったが、今度は、相手が女性というシチュエーションだった。
 どうして、晴子とのことが夢だと思ったか? それは、シチュエーションがラブホテルだったからである。
「ラブホテルには、女性だけでは入れないって聞いたことがあるんだ」
 と、以前に付き合ったことのある男性から教えられたことがあった。女性一人の時は、自殺が考えられるということだったが、女性だけというのは、何があるというのだろう。その時に理由を聞いておけばよかったと、今になって思っていた。
 晴子の目力に圧倒されたはずなのに、今では、眠っているのをいいことに、何をしようと考えたのだろう?
 いきなり目を開けた瞬間に飛び込んできた晴子の目力は、さすがに美由紀の想像をはるかに超えたものだった。口づけ寸前で、それ以上、顔を近づけることができなくなったのも、無理のないことである。
 ここがラブホテルであることを一瞬忘れていたほど、口づけに集中させた神経が、晴子の目力で、一気に目を覚まさせられるくらいの威力を感じる。
――まさか、夢じゃないとかいうことはないでしょうね?
 と、現実なのかも知れないという思いまで出てくる始末だった。
 身体の震えが止まらない。部屋が明るかったのは意外だったが、部屋が暗ければ、今度は、必要以上に晴子の目力を感じることになるのが怖かった。まるで、ネコのように、
「闇に光る眼」
 が不気味であることは間違いない。淫靡な雰囲気が、恐怖を帯びると、どんな感覚に陥るのかを味わってみたい気がしてもいたが、それもこれが夢の中で会った場合のことである。現実世界の延長であれば、晴子の目を恐怖としてしか感じないに違いない。
 晴子の目が妖しく光って、一瞬身体を固くしたが、思ったより、すぐに身体が自由になった。金縛りに遭ったと思ったのは、気のせいかも知れない。晴子との二人だけのこの世界は、普段の常識では、計り知れない何か不思議な力が働いているのかも知れないと感じたのだ。
 美由紀は、自分の欲望を思い起してみた。
 迫丸に対して、これ以上ない嫌悪感と恐怖心を味わいながら、身体が受け入れてしまったことで、迫丸を好きだったのではないかとまで思った美由紀である。納得できるわけではないが、
――これが私の性なんだわ――
 と思うことで、ある程度の説明はつきそうな気がした。もちろんそれは自分に対してであって、自分にとって迫丸が与えた影響が、感情となって、好きだという気持ちに変わったのかも知れない。
 人を好きになるというきっかけは、意外とこういうことなのかも知れない。性欲を感じることができるような相手であれば、それは十分に恋愛対象になりえるということである。ただ、それはあくまでもきっかけであって、過程がなければ成立はしない。夢の中であっても反応してしまった身体。
――本当に自分の身体なんだろうか?
 と思うほどの快感は、気が遠くなるのを必死に堪えている時、一瞬、身体から気持ちが離れて、身悶えしている自分を表から見た。
――なんて気持ちよさそうなのかしら――
 自分を表から見ることが、これほどの快感を煽ることを初めて知った美由紀は、その瞬間に、エクスタシーに達したのだ。
 達してしまったエクスタシーは、美由紀の気持ちを蹂躙し、再度戻ってきた感覚に、再度のエクスタシーを与える。震えが止まらないほどの快感で神経がマヒしたように感じるのは、この一瞬の精神の離脱が影響しているのかも知れない。
 自分が淫乱だと感じた美由紀は、そのきっかけを与えてくれた迫丸を好きになった。もちろん、夢の中の迫丸であって、もし、本人が目の前に現れたら、どんな気分になるだろう?
 せっかく感じた気持ちを冷めさせる鬱陶しい存在に感じるだろうか?
 それとも、自分の気持ちを確かめようと、彼に抱かれる覚悟を抱くのだろうか?
 もし、覚悟を抱くのであれば、かなりの勇気がいる。一度作り上げたものを崩してしまう勇気がなければできないことだ。
 ひょっとして、その心境を違う意味で確かめたいと感じたことが、夢の中に晴子を登場させることになった理由なのかも知れない。
 そう思うと、美由紀は、夢の中に出てきた晴子を、正面から見つめなければいけないのだと思うのだった。
 晴子の目力に負けないように、気持ちをしっかりと持たなければいけない。だからと言って、晴子のように自分も目をカッと見開いてしまえば、もし、迫丸との時に感じたエクスタシーの際のような、身体から離脱している自分が見ていたとすれば、これ以上怖いものはないと思うだろう。あの時はエクスタシーの際にしか、表から見ている自分を感じなかったが、実際には、もう一人の自分と、実際の自分を、交互に行き来しているのではないかと思っていたのだ。
 迫丸との間では、痺れてしまった身体に神経を集中させていたこともあって、エクスタシーの際にしか感じなかったが、晴子と入ったラブホテルでは、明らかにもう一つの目を自分の中に意識していた。
 実際に、晴子の目を、恐ろしいと感じていた。気持ち悪さまで感じる。しかし、淫靡な雰囲気を部屋の中から感じていると、逃れられない目力に、自分の淫乱な部分が共鳴しているかのように思うのだった。
作品名:生まれ変わりの真実 作家名:森本晃次