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生まれ変わりの真実

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 夢の中で、自分は彷徨っていた。まるでテレビドラマの中で見る。夢を彷徨う人を見ているようだ。足元にはドライアイスを敷き詰めたような煙が出ていて、前から白装束の幽霊でも現れるのではないかと思ってしまうほどの光景に、いつの間にか馴染んでくる自分を感じていた。
 馴染んでいるというよりも、
「帰ってきた」
 という感覚もあった。まわりには何もなく、一人の世界が広がっているのだが、そこでは何も起こらない。何も起こらないから、考えること自体が、無駄なのだ。そう思っていると、一番会いたい人が目の前にいるのを感じた。それは、小さな女の子で、まだ幼稚園に入学する前後くらいではないだろうか。あどけない表情で、美由紀を見上げている。
「美由紀ちゃん」
 その声に驚いて振り向くと、そこには、一人の女性が女の子に向かって叫んでいる。不意に自分の名前を呼ばれて美由紀も振り向いたが、お母さんと思しき女性は、美由紀の存在にまるで気付いていない様子だった。
「お母さん」
 母親の大きな声とは別に、消え入りそうな女の子の声は、きっと誰にも聞こえないような気がした。美由紀も唇の動きで、女の子が喋ったように見えたのだが、本当に声を発したかどうか、自信がないくらいだった。
 明らかに女の子には怯えがあった。だが、美由紀が見るからには、母親の表情に、恐怖を感じさせるものは何もない。それなのに、女の子はなぜか怯えているのだ。
「待てよ」
 美由紀は、自分の子供の頃のことを思い出していたが、どうも、同じような思いがあったような気がして仕方がなかった。やはり、美由紀と呼ばれた女の子は、昔の自分で、自分が母親のことを怯えていたのだということを思い出させるために、夢に見たのではないかと思わせた。
――大丈夫なのかしら?
 美由紀は、記憶を呼び起こしてみたが、普段なら思い出せないような記憶でも、夢では容易に引き出せるような気がした。気のせいなのかも知れないが、思い出すことが、ここまで簡単だという意識を持ったことは今までにもあったような気がした。やはり、この夢の世界には、現実世界と限りなく近い何かがあるのかも知れない。
 美由紀は母親を見つめた。それでも母親は、美由紀に気付かない。
――これは子供の頃の記憶だわ――
 あれは、友達とかくれんぼをしていて、何かに閉じ込められた記憶があった。そこの近くに母親が通りかかって、必死に探しているのに、気付いてくれない。本人は一生懸命に声を出しているのに、声になっていないのか、気付いてくれなかったのだ。
 だが、それは夢だったのだ。美由紀の小さな頃に、そんなどこかに隠れるような場所があって、母親が見つけられないというようなシチュエーションは考えにくい。むしろ母親の年齢くらいの人の子供時代であれば、ありえなくもないが、
――ということは、あれは、母親じゃなくて、おばあちゃんだったのかしら?
 女の子は自分ではなく、母親だったのかも知れないと思った。厳しかった母親も、少女時代は、美由紀と同じように、声を発することができないほど、気が弱い女の子だったのではないだろうか。
 それなのに、何か懐かしさを感じるのは、自分にも似たような経験があるからなのかも知れない。母親を呼んでも、答えてくれなかった記憶が、心の奥に潜んでいる。では、それは一体どんなシチュエーションだったというのだろう? なかなか思い出せるものではなかった。
 美由紀の友達に、晴子という女の子がいた。確か、中西晴子ではなかったか。他の人とは交流がなかったのに、晴子だけは、避けようとしても、寄ってくる。ただ人懐っこいタイプではなかったので、他の人であれば、煙たがられて仕方がないに違いないが、美由紀には、なぜか好感が持てた。友達としてというよりも、ただそばにいるだけという感じで、そばにいないと、どこからか吹いてくるすきま風が、骨身に沁みる気がしたのではなかったか。
 晴子の家は、すぐ近くで、母親同士は仲が良かったようだ。時々母親に連れられて、家に遊びにきていた晴子だったが、その時の情けなさそうな顔は、今でも忘れられない。きっと母親に連れられてくることに羞恥があったのだろう。子供の頃に背伸びしたがる子供にありがちな感覚であった。
 晴子は、目がパッチリとした女の子で、男の子と一緒に遊ぶのが好きなほど、活発な女の子だった。活発ではあったが、美由紀から見ると晴子は、お姉さんのような頼りがいのある人で、とても同い年とは思えなかった。子供の頃の方が、年齢差をハッキリ意識しているもので、一つ違いであっても、まるで、成人したお姉さんと変わらない感覚に見えるくらいだった。
 晴子と一緒にいると、まわりの男子連中も、一目置いているように見えた。別に一目置かれたいという気持ちがあるわけではないが、気持ちがいいのには変わりない。相手を見下ろすのが気持ちいいことだというのを教えてくれたのは、晴子だったのかも知れない。
 美由紀は、いつの間にか、男性を見下ろすことに快感を覚えていた。それは、見下すことでもあり、自分の優越感に火が付いていることを示していた。
 優越感は、一人になって考えると、少し惨めな気分にさせられるが、晴子と一緒だと、優越感は、自分の生きる支えとまで思えるほどであった。
 子供なのに、ここまで大げさなことを考えるのはませているからだろうか? いや、子供だからこそ、大人では羞恥のため考えることができないものを考えられるようになるのだ。そう思うと、大人と子供の差というのは、結構ありそうで、実際には、さほどないのではないかと思った。
 ただ、隔たりはあるだろう。大人になることを拒否したい気持ちになったことが今までに何度あったことか。それは、理不尽な思いが大人になることであるのだとすれば、隔たりは、気持ちの中に大きく存在しているものである。実際に見えている隔たりとは、違うものに違いない。
 男性を見下ろす快感は、晴子の中にハッキリと見えていた。大きな瞳はつぶらな瞳というよりも、見えないものは何もないと言いたげで、何でも見えている感覚が、果たして晴子のそばにいる男性たちがどのように写っているのだろう? きっと、写真のように平面で、動いているのかいないのか、晴子のまわりにいる男の子は、気付かないうちに、晴子の奴隷のような意識を無意識に感じさせられているのかも知れない。
「洗脳されているようだわ」
 危険な発想だったが、ただ、晴子は女の子に対しては、その能力を発揮できない。男の子にだけ発揮できる能力なのに、美由紀は、まるで自分も洗脳の輪の中にいるのではないかという意識に苛まれたことがあった。その時には、晴子から離れようとしても、離れられないでいたのだ。
――迫丸とは違った意味での気持ち悪さが、晴子にはあった――
 迫丸と晴子、それぞれ美由紀を挟んで、一緒に存在したという意識はない。迫丸がいる時は、晴子は隠れていて、迫丸が隠れている時、晴子が現れる。
――同一人物なんじゃないのかな?
 と思わせるほど、二人が美由紀の前で時間を共有したことはなかったのだ。
 晴子のことを思い出すのは久しぶりだった。
作品名:生まれ変わりの真実 作家名:森本晃次