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完全なる破壊

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 レナの方は自覚がなかったが、彼の思いやりは、レナの気遣いから来ていたのだ。それだけにレナは、
――彼は思っていたよりも、ステキな人なんだわ――
 と感じたのだ。
 お互いに過剰評価をしていたようだ。付き合い始めはそれもよかったのだが、そのうちにどちらかが均衡を保てなくなると、お互いを冷静に見てしまう。そのことに相手は気づくはずもなく、一人置いてけぼりにされてしまうのが落ちだった。
 置いてけぼりにされたのは、レナの方だった。
 最初は彼の方が積極的で、レナは比較的冷静だった。彼への信頼度は日を追うごとに増しては来ていたが、その思いがお互いに交差する瞬間があった。
 彼の方ではその瞬間に気づいていた。しかしレナには分かっておらず、自分が女であることを今更ながらに自覚していたのだ。それは、
――いじらしさ――
 というもので、そんなものが自分の中にあるなど、想像もしていなかったのだ。
 彼が初デートに指定した遊園地、それが今では遠い過去のように思えている。そんな感情を抱いた時、レナは彼から別れを告げられる日となっていた。
 別れを告げられた時、教育係としての彼の顔はそこにはなかった。彼氏として意識し始めた時から、彼は自分の教育係ではないと思い始めていたのだ。
 別れ話の日、レナには予感めいたものがあった。彼がその日の数週間前から少し挙動がおかしいと思っていたので、心の中で、
――冷静にならなければ――
 と思っていた。
 彼への未練だったり、思い出を思い出すということはなかったつもりだったので、冷静にさえなれれな、失恋など別にただの通過点でしかないといえるのだった。
 だが、実際に別れ話を切り出されると、
――これってこんなにも切ないものだったんだって知らなかったわ――
 と感じた。
 彼の前では冷静で毅然とした態度を取っているつもりだったが、やはり一度は夢のような楽しい時期を過ごした相手だけに、ショックは隠せなかった。
 それでも、
「そう、それなら仕方がないわね」
 と承服するしかなかった。
 彼はレナが素直に承服したのを、さらに冷静に見ていた。それは明らかに上から目線であり、別れを告げる方こそ毅然としていないといけないという典型的な例に見えた。
 レナはそんな彼に初めて冷たさを感じた。
――こんな人だったなんて――
 と、ここまで感じることになるなど、想像もしていなかった。
 レナはその時、彼がどうして自分と別れる気持ちになったのか分からなかった。しかし、別れる相手に対して、お互いに冷静になって話をしているそんな場面で、別れの理由を聞いてはいけないとレナの方では思っていた。彼の方としても、なるべくなら言いたくはないという雰囲気が醸し出されている。別れというのは切り出す方も、切り出された方も、辛い思いをしなければいけないのだ。
――どうして、二人とも傷ついたり、辛い思いをしなければいけないのに、別れなければいけないのかしら?
 レナはそう思っていた。
 別れに関しては承服できても、冷静になって見ていると、見ているのは自分ではなく、他人事のように、まわりから見ている気持ちになっていた。他人事だと、お互いを公平な立場で見ることができる。そう思うと、
――理由を知りたいという気持ちと裏腹に、今さら理由を知ってもどうなるものでもない――
 と感じるのだった。
 レナは、彼との別れにけりをつけるつもりで、別れた翌日、髪の毛を切ってきた。思い切ってのショートカットだったのだが、それを見てマミは、
――まるで男の人みたいだわ。格好いいわね――
 と感じた。
 その時初めてレナが、
「私、結構髪の毛が抜けるのよ」
 と言って、ニッコリと笑った。
 それを見て、きっとまわりのほとんどの人は、
――うまい冗談――
 と感じただろう。
 髪を切ってきたのを、
――髪の毛が抜けた――
 と表現したのは、髪を切った理由を詮索されたくないという気持ちの表れだったのかも知れない。
 しかし、彼とレナが付き合っていたのは、課内では公然の秘密のようになっていたので、二人の様子を見ていれば、別れが訪れたことはみんなに分かっても、それは必然だっただろう。
――別れちゃったんだ――
 とまわりは感じていたことだろう。
 しかし、マミだけは少し違った。
――やっと別れたんだ――
 と思ったのだ。
 付き合い始める前は、この二人を、
――お似合いかも知れないわね――
 と思っていたが、付き合い始めてから見ていると、
――意外とそうでもないかも?
 と感じるようになった。
 それは、二人が似たもの同士というよりも、あまりにも似ているところがあったからだ。二人がそのことに気づかなければ、最初は磁石のS極とN極の関係であったとしても、いずれはどちらかが、S極であったり、N極に変わってしまって、反発しあうことになると思ったからだ。
 しかし、稀にではあるが、お互いに相手の極に合わそうとして、極が入れ替わって、結局また引っ付くことになることもある。ただ、そうなると、今度は元々の自分の性格を相手に見ることになるので、せっかく引き合っていたとしても、相手の悪いところが見えてきやすくなってしまい、どちらかが最初に嫌気がさしてしまうと、そのまま破局へと向かうことになる。そういう意味では遅かれ早かれ、別れは必然のものとなってしまうのではないだろうか。
 ただ、彼がレナと別れた理由は、同じ課に好きな人ができたからだった。それというのは何を隠そう、マミだったのだ。
 マミはすぐにそのことに気づいた。しかし、レナの手前、彼の気持ちを受け入れることもできない。何よりも彼のことを好きでも何でもなかったからだ。
 彼も、実は最初から気づいていた。
――俺がマミさんを好きになっても、彼女の方は何とも思っていないだろうな――
 と思っていた。
 しかしそれでも、レナとはけじめをつけなければいけないと思ったのも事実で、まず、レナと別れることを決意した。レナも承服してくれたことで、一つのけじめをつけた彼は、マミに告白しようか、相当に悩んだことだろう。
 結局、告白などできるはずもなく、彼は会社を辞めていった。
 ただ、彼が会社を辞めたのは、失恋だけが理由ではなかった。実際に家庭の事情もあったようで、彼の家は商売をやっていたのだが、店主である親が急病で倒れ、商売が立ち行かなくなりそうなところで、母親から事情を聞かされ、彼もそれならばということで、この機会に会社を辞めていった。
 レナにとっての社内恋愛は終わりを告げたが、その時、レナは彼がマミのことを意識していたのを知っていた。なるべく知っていることをまわりには、特にマミには知られたくないと思っていたが、その頃からマミを意識するようになっていたのだ。
 最初は恋敵のようなイメージでマミを見ていたが、見れば見るほどマミが、
――お姉さん――
 というイメージに見えてきて仕方がなかった。
 最初は挑戦的な目で見ていたはずだったのに、次第に慕う気持ちになってきたことを、レナは、
――おかしいな――
 と思っていた。
 マミは髪の毛を切っていたレナを初めて意識した日から、自分がレナとあんな関係になる日までを思い返していた。
作品名:完全なる破壊 作家名:森本晃次