完全なる破壊
と思っていたからだ。
少女時代はそれでもよかったのだが、高校生くらいになると、自分が本当に浮いてしまっていることに気づいてきた。気が付けば自分のまわりには誰もいない。男性はおろか、女性も寄ってくる人はいない。
中学時代までは、
――私の美しさに、嫉妬しているんだわ――
という思いが強くあったので、そんなまわりの女の子に対して、
――私への男子の憧れの目線を横目に見ながら、あなたたちは地団駄でも踏んでいればいいんだわ――
と思っていた。
自分に彼氏がいないのは仕方がないが、まわりの女の子は自分へ憧れの目線で見ている弾性を待ち焦がれながら、ずっと自分に嫉妬していればいいと思っていたのだ。
まわりを制御しているのは、すべて自分だと思っていたレナは、自分の思い通りにならないことなどないと思っていた。まわりの男女に起こっていることはすべて自分を絡めて考えられることのように思っていたので、レナの発想はすべてが、まわりの環境に作用される形で形成されていた。だからこそ、自分を納得させられると思っていたのだし、世の中のことはすべて自分を中心に回っているとまで思えるようになっていたのだ。
しかし、高校生くらいになると、まわりの環境が変わっていった。
レナの知らないところで、クラスメイトの男女が結構付き合っているのを知ることになった。
偶然一人の男女が校庭の裏で抱き合っているのを目撃してしまった。
――なんてことを――
そのシーンが衝撃だったのも事実だが、目の前で繰り広げられているショッキングな光景とは別に、
――世界は自分を中心にまわっている――
という思いが、根底から覆されてしまったことにショックを受けたのだ。
その二人だけならよかったのかも知れないが、それまでレナが知らなかっただけで、実際には他の男女も結構、見えないところで付き合っていたのだ。学校が厳しい校風だったので、学内で男女が一緒に歩いているところを見られただけで、呼び出しを食らうような学校だったから、みんなピリピリとしていたのだ。
レナの場合は、
――私は一人でいても、まわりは私を中心に回っているのだから、別に寂しくもなんともない――
という思いだったので、別に校風がどうのこうのは関係なかった。
むしろ、まわりの人たちに対して、自分の影響力が増すための校風のように思っていたので、厳しい校風はありがたかった。
だが、そんな風に思っているのはレナだけだった。
まわりの男女は、レナの知らないところで愛を育んでいたのだ。それは、実に健気で、レナには想像もできないようなロマンチックなものでもあった。
「障害が大きければ大きいほど恋愛は盛り上がる」
というセリフの本を読んだことがあった。
その内容の本にピッタリのセリフで、レナもその小説が好きだった。それなのに、実際の世界ではそんなことはないといわんばかりの自分の思い込みに、レナは完全な盲目になっていた。
そんなレナは、自分がやっとまわりの人となんら関係のないことに気が付いた。そして気が付いてみると、今まで知らなかっただけで、男女は自由に恋愛をしていたことを思い知ることになる。
最初に見つけた男女の密会の場所で、他の日にも抱き合っているのを見かけた。それも前の時とは違っている男女で、
――こんなことが頻繁に行われているんだわ――
と思うと、悔しさと情けなさがレナを襲った。
いきなり二つの感情が襲い掛かってきたのだったが、それがレナにとって二つ襲い掛かってきたものだとは分からずに、
――この感情は何かしら?
と得体の知れない感情に、どうしていいのか戸惑ってしまっていた。
――学校の先生に言いつけようか?
とも考えたが、すぐに思いとどまった。
どうして思いとどまってしまったのか、すぐには理解できなかったが、その思いが最初に感じた感情から生まれていたことに気が付くと、
――これは虚しいという感情だわ――
と最初に感じた。
その感情には確かに間違いはなかった。しかし、それが、
――悔しさと情けなさ――
という感情であるということにすぐには気づかなかった。
二つの複合した感情が、一つの結論めいた感情になるということに気づいたのは、もっとずっと後のことで、本人は、
――マミ先輩と知り合ったからだわ――
と思うようになった。
それがどのようないきさつだったのかは後で記述するとして、レナは高校時代に虚しさという感情に気づいた時から、明らかに変わったのだ。
まわりを見る目が今までは、
――お嬢様を見るような気持ちで見ているから、どうしてもまともに私を見ることなどできなかったんだわ――
と思っていたが、単純にレナのことなど眼中にないというだけのことだったのだ。
まともに見られないということ自体が、虚しさに繋がっているということを、その時初めて知った。自分がお嬢様だという気持ちが、まるで生きがいであるかのように思っていたのだろうが、それは完全な筋違いである。
お嬢様だとしても、それは自分の成果でも、実力でもない。あくまでも親や先祖が残してくれたものであり、自分の力がそこに加わっているわけではないということを自覚していなかったことが招いた誤解だった。
――だけど、本当にそうなのかしら?
レナは自分が本当にそのことを知らなかったのかどうか、疑問でもあった。
本当は気づいていて、知らないという意識を持っていただけではないかと思うようになっていた。
それが本当であれば、知っていたという方が自分の罪ではないかと思った。知らなかったのであれば、
――それは仕方のないことだ――
として自分を納得させられるのに、どうしてわざわざ、
――知っていたのかも知れない――
などと考えたのだろう。
この場合、知らなかった方が罪が重いとレナ自身で感じていたのかも知れない。
――この世での罪深きことは、知らないということではないだろうか?
と感じたのは、何か以前に読んだ本に、その秘密があったように思えた。
確かにレナは本を結構読んでいた。読んだ本の中で気になったことは結構印象に残っているのだが、すぐに忘れてしまっているのは、彼女の悪いところだった。
しかし、完全に忘れているわけではない。忘れているつもりであるというだけで、本当は記憶の奥に残っている。別に封印しているわけでもない。しかし、必要以上に表に出すこともないと思っていることで、きっと記憶が勝手に封印していたのではないかと思うのだった。
レナは自分の虚しさを知ることで、他人との間に更なる確執を生んでしまった。
「あの娘、以前から一人で篭っているとは思っていたけど、さらに自分の殻を作ってしまって、完全に閉じこもっているわね」
とまわりからいわれるようになったのは、高校三年生の頃からだった。
さすがにその頃は、まわりも受験などを抱えているのでピリピリしている。他人のことなど構っている暇はなく、恋人同士でもなかなか会うことができないくらいに緊張した毎日を過ごしていたのだ。
レナも、受験のために緊張はしていたが、元々一人なので、他人との関係について悩んだり、寂しく思うこともなかった。