小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

完全なる破壊

INDEX|19ページ/30ページ|

次のページ前のページ
 

 と感じたマミは、自分の経験に照らし合わせて、聞いてみたいことを聞くのだった。
「レナちゃんは、髪が抜けることに気付いたのはいつ頃のことなの?」
「最近のことですね。髪が湿気で重たくなるというのは、その少し前くらいから気になっていたんだけど、髪が抜けるのを意識するようになった時、初めて雨の前の日でも、湿気で明日雨が降るという前兆を感じているのだと自覚できるようになったんです」
「じゃあ、段階を追って、少しずつ気が付いて行ったということなの?」
「ええ、そうですね。だから、その全貌というのを自分で捉えることができなかったので、悩んだりした時期もありました」
「今はどうなの?」
「今は、少しずつ冷静になることができて、あまり意識しないようになりました。まあ、こんなものなんだって思ってですね」
「髪の毛が抜けるのは、私も同じなんですけど、レナちゃんが抜けるって言っている長さがどれほどなのか分からないし、それに個人差だってあると思うのよね。年齢的にもそうだし、特に女性の場合は、生理痛だって個人差があるように、身体の作りってデリケートだって思うんですよ。だから、一概には言えないところもありますよね」
 とマミがいうと、
「ありがとうございます。確かにマミ先輩のいうことも間違っていないと思うんですけど、私には私なりの考えみたいなものがあって、少しオカルトな考えなんですが、自分でも何と言っていいのか、説明が難しいと思うんです」
「それは、説明するのが難しいことなのか、説明した内容を相手が理解するのが難しいことなのか、どっちなのかしら?」
「どっちもなのかも知れないけど、私には後者だと思うんですよ。私が理解してもらえるように説明をしても、相手が受け入れられる内容だとは思えない気がするんですよ。だから、今まで誰にも髪の毛の話題を出したことはないんですよ」
 とレナがいうと、
「そうよね、髪型の話題にしても、私の方からだったものね」
「ええ、でも髪型くらいならいいんですが、髪の伸び方の話になってくると、若干今の話に近づいてくるでしょう? 私としては、話が自分の悩んでいる内容に近づいてくると、自分から話したくなってしまう衝動に駆られることがあるんです」
「それはきっと、レナちゃんが自分から相手に聞いてほしいと思っているからなんじゃない? ただ今までにそんな相手に巡り合ったことがないだけで、半ばあきらめていた?」
「ええ、確かにそれは言えます」
「じゃあ、今度結婚しようと思っている人は、レナちゃんのことを分かってくれる人なのかしら?」
「そこまではないと思うんです。確かに私のことを理解しようとは思っていてくれているようなんですが、本当に理解できているとは思えないんです。でも、今までにはいない相手だったので、私は結婚を決意しました。でも、まさかこんな近くに私の理解者がいたなんて思っていなかったので、結婚も少し悩んでいます」
 どうやら、レナはマミをその理解者だと思っていて、結婚に際しても、
――早まったことをした――
 と思っているようだった。
「レナちゃんは、結婚をどうしようと思っているの?」
 マミは聞いてみた。
「実は迷っているんです」
「それは、私とこんな風になってからなの?」
 こんな風というのはどんなことなのかとマミは自分で言葉にして、再度考えてしまった。何を持って「こんなこと」などと口にしたのか、ハッキリと言葉にできないことなら、口にするべきではないとも思っていた。
「いいえ、そうじゃありません。逆に迷ってしまったことで、マミさんとお話がしてみたくなったんです」
 レナは最初からマミと関係を持とうなどという気持ちはなかったようだ。マミの考えすぎだったのかも知れない。
 マミの方としても、レナが最初からそんな気持ちだったとは思えなかったが、実際にその日以降のレナの視線を感じながら、
――最初から狙っていたのでは?
 と感じるようになっていた。
 レナの視線には女の視線とは別に男の視線を感じるようになっていた。それまで感じたことのない視線は、確かにベッドの中で感じたものだった。あの視線にマミは参ってしまっていたのだし、自分の中に別の隠微なものが潜んでいることを思い知らされた。その視線はまるで、
「お前は俺のものだ。どうだ? この征服されたかのような気持ちは」
 とでも言っているかのようだった。
 マミは自分が従順なところがあるなどとは思っていなかった。男性と付き合っても最後は自分の気持ちを押し通そうとして、必ず相手の男性とぶつかってしまう。それが原因で別れた時も、最初は、
――あんなに自分の気持ちを押し通そうとしたのに、こんなに後悔するなんて――
 と、自分を押し通したことに後悔の念を抱いてしまっていたが、しばらくすると、自分の気持ちに整理がついたのか、
――後悔なんて私らしくないわ。私には私の信念があるのよ。私に従えない人とは付き合えない。それだけのことよーー
 と、思うのだった。
 それは、自分の気持ちに整理がついたからだというのは本当のことだが、単純に割り切れただけのことだった。逆に言えば、最初から後悔などしていたわけではなく、未練が残っていたものを、自分の我が強いことのせいにしようとしたことが原因だった。
 マミはそんな自分が嫌で嫌でたまらなかった。
 一番自分の信念でまげてはいけないと思っていることを言い訳にしようなどと、いくらショックだったとはいえ、それでは何のために別れることになったのか分からないではないか。
 それからのマミは、男性と付き合うことはなくなった。何度か同じ間違いを繰り返しはしたが、それも今の自分に導くための、避けて通ることのできない道だったのだということであろう。
 マミは、
――後悔したくないから――
 という理由で、男性と付き合うことをやめてしまった。
 マミのことを気にしている男性もいるにはいたが、そんな男性の間で何かピンと張り詰めた一本の見えない線のようなものがあった。その線が彼らをそれぞれけん制していて、マミに対して抱いている思いを打ち明けることができない一種の結界の役割をしているかのようだった。
 マミはそんなことを知る由もなく、
――いつの間には、男性が私に近づかなくなったわ――
 と感じ、その理由が、
――私の中に男性を寄せ付けない何かがあるのかも知れないわ――
 と思うようになっていた。
 その思いは半分正解かも知れないが、厳密には違っていたのだ。
 そんなマミとは違い、レナの場合は、男性からいつもちやほやされていたように本人は思っている。
 レナは、どちらかというと、少女時代から目立ちたがり屋なところがあった。
 ただ、まわりはそんなレナをおだてるようなことはなく、覚めた目で見ている人が多かった。
 しかし、レナはそんなまわりの目を誤解しながら育った。
――誰も私の美しさに、声もかけられないくらいなんだわ――
 と、まるで自分がお嬢様のようであるかのように感じていた。
 レナの家は裕福な家庭で、苦労を知らずに育ったところがあり、学校でも一人だけ浮いたような雰囲気になっていたが、それは本人が、
――人を寄せ付けない美しさと雰囲気を持っている――
作品名:完全なる破壊 作家名:森本晃次