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完全なる破壊

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 レナとのことだって、最初からそんな気持ちだったわけではないのに、どうしてそんな気分になったのかというのを思い出すと、
――やはり髪の毛を触られたからなのかも知れないわ――
 と思った。
――私の髪の毛が何かを求めていたんだわ――
 それが触られたことによる快感だけだったとは思えない。
 その時、髪の毛が思ったよりもたくさん抜けていたことを思い出した。あの時、枕を見て、
――どうしてこんなに抜けるの?
 と、自分でもビックリしたのを思い出した。
 しかし、
――どうせ抜けた分だけ生えてくるんだわ――
 と感じたのは確かだったし、そのことをまるで夢だったかのように忘れてしまっていた。
 つまりは、思い出したくないこととして、まるで夢を見た時のように、記憶の奥に封印してしまっていたに違いなかった。

                 破局

 レナは翌日、髪の毛をかなり短くしてきた。今までに髪を短くしてきたことがなかっただけに、少しビックリした。
「どうしたの、レナちゃん。いきなりそんなに髪を切って」
 と、男性社員はそう言って、レナを早朝からの話題にしていた。
 レナの方も聞かれることを分かっていたかのように、
「別に何でもありませんよ」
 と、平然としていた。
 そしてその視線をそのままマミに向けたのだが、その視線に気付かないマミではなかった。
 最初は髪を切ってきたことにこだわるつもりはなかったマミだったが、その視線を受けては無視することはできなかった。
 簡単にいなされてしまった男性社員は、面白くないという思いを表情に残しながら、その場を去って行ったのを見て、
「レナちゃんが髪を切ってくるなんて、珍しいわね」
 というと、
「ええ、そうなんですよ。マミ先輩をビックリさせようと思って切ってきました」
 その言葉がウソか本当か分からなかった。
 しかし、マミはその言葉の信憑性よりも、レナの態度の方が気になった。さっきあれほど男性社員に気のない返事をしたレナだったのに、マミに対しては大げさすぎるほどのリアクションを示し、まるで、
「聞いてほしかったのよ」
 と言わんばかりに目を輝かせてマミを見つめた。
 しかも、その表情の奥には、
――やっと聞いてくれたわね――
 と言っているかのような笑みが感じられた。
 レナのその笑みには妖艶さが滲み出ていて、それは先日のホテルで感じたレナの表情そのものだった。
 マミはその時の自分を思い出して赤面してしまったが、レナはそれをさらに妖艶な笑みで見つめている。マミが赤面することまで分かっていたかのようだった。
「マミさん、大丈夫ですか?」
 レナは、マミの表情が恥かしさから来ているのを分かっていて、敢えて大丈夫なのかと聞いた。
――この娘、Sなのかも知れないわ――
 ベッドの中と普段の彼女が違うのは分かっていたが、今までにない妖艶な表情に戸惑っていた。
――いや、本当は今までもレナちゃんの妖艶な表情を分かっていて、認めたくない自分がいたのかも知れないわ――
 と、マミは自己分析をした。
 確かに考えてみれば、レナの顔を見て、
――いつもと違う――
 と感じたことは何度もあった。
 その表情を好きになれなくて、それどころか毛嫌いしている自分を分かっていたので、顔が合わないようにしていたのも分かっていた。
 だが、それは意識的な行動ではなかった。無意識の行動で、まるで本能の赴くままだと感じていたほどだった。
 レナの表情はいつも一定していなかった。その原因は、
――まだ子供のようなところがあって、落ち着いていないからだわ――
 と感じていた。
 自分が先輩として落ち着いた彼女にすることが責務だと思っていたこともあって、マミはレナの自分が嫌いな表情を自分の中で否定してきた。それが会社での彼女を生かす手段だと思っていたからだ。
 だが、考えてみれば、それは後輩としての彼女しか見ていなかったからであり、仕事の上での後輩であり、時にはパートナーとして自分の足を引っ張らないようにしてもらえばそれでいいという思いの元だった。
 元々マミは、
――仕事は仕事、プライベートはプライベートだ――
 と思っていた。
 だから、仕事場の人を自分の友達にすることはなかったし、将来、誰かと付き合って結婚するとしても、会社の人間ではありえないと思っていた。
 実際にマミが就職してからすぐの頃、マミの先輩女性社員が社内恋愛をしていて、会社にばれないようにしていたつもりだったのに、バレてしまって、それまでの秘密主義が完全に崩壊してしまい、結局音を立てて破局を迎え、しかも、二人とも会社にいられないという最悪の結果になってしまったのを見ていたので。会社とプライベートは切り離さなければいけないと思っていた。
 しかも、それが新入社員として入社してすぐの、右も左も分からない時期のことである。そんな時、誰も話し相手になってくれる人もおらず、自分で結論を出すしかなかった。そうなると、行きつく考えは一つしかないことは必然であったのだ。
 レナに対しても完全に後輩としてしか見ていなかったはずだった。
 だが、後から思うと、やっと入ってきた自分の後輩、可愛くないと言えばウソになるだろう。
 今までは先輩と、仕事上の酷い言い方をすれば、
―――形式的な付き合い――
 でしかない相手だったが、今までの自分の立場に、他の人が入ってくると、自分の考えが分かってくるようになったのだ。
――きっと、彼女も自分が悩んできたような悩みを抱えることになるんだわ――
 と思った。
 しかし、マミにとって、自分に悩みがあったのかというと、あらたまって思い出そうとするのだが、思い出すことはできなかった。
 マミは悩みを抱えないように、仕事とプライベートを分けていた。だから悩みがないと思っていたが、肝心な仕事での悩みを打ち明ける相手がいなかったのだった。
 ただ、それは最初から覚悟の上だったので、自分で悩みだとは思っていない。悩みとしての範疇ではなく、別の思いだとして解釈していることで、悩みと切り離す気持ちになっていたのだ。だが、悩みであることには違いない。自分だけの中で解決しようと思っていることだった。つまりマミにとって、自分だけの中で解決しようと思っていることは、自分にとっての悩みではないと思っているのだった。
 そういう意味で、悩みというとプライベートの方にあるのかというと、そうでもなかった。
 考えてみれば、プライベートでマミはほとんど友達がいるわけではない。つまり人間関係での悩みがあるわけではないので、マミの理論からいけば、
――人間関係以外の悩みは悩みとは言わない――
 と思うのだった。
 レナは、マミとはかなり違っていた。開放的に見えるレナは、
――この娘に悩みなんかあるのかしら?
 という思いだった。
 何かがあると、きっとプライベートではたくさん友達がいて、その人たちに打ち明けているに違いない。打ち明けられた人は迷惑かも知れないが、彼女の友達なのだから、皆開放的な人が多く、悩みを打ち明けるというのも、自分からだけではなく、他の人からも打ち明けられることも多いはず。そういう意味で、
――お互いさま――
作品名:完全なる破壊 作家名:森本晃次